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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第五部:『そして至るは英雄譚』
133/140

第三章:"進化"



・・・



「くッ……」


がらり、と瓦礫を押しのけて起き上がる。

NX-6Lのカウルにかぶさった石くれを払い、あたりを探る。



(暗いな……?)



今、アルカーは闇の中に居た。

精霊の力で強化された視覚ではまったく何も見えない、ということもないのだが、

それでも遠くまでは見通せない。



一瞬気絶して時間がたち夜にでもなったのか、とよぎるがどうやらそうではないらしい。

あたりの景色は、明らかに先ほどまで対峙していたビル街のものとは異なる。



(対峙……そうだ!)



サッと知覚を過敏にさせ、周囲に動くものがないか探る。が、反応はない。

どうやらヒュドールにせよフルフェイスにせよ、アルカーの側には居ないようだ。



「俺だけが……跳ばされた、のか……?」



警戒しつつアクセルをひねり、前進させる。LEDに換装されたNX-6Lのヘッドライトが

白く先を照らすも、そこに見えるのはひたすら長く続く回廊だ。



回廊。そう、回廊だ。

上下左右を人工の壁や天井に覆われたここは、どうやら屋内らしい。

それもアルカーには見おぼえがある。



「……フェイスダウンの基地、そのどれか一つ……か」



無機質で合理的な、あまり抑揚のない壁面。パイプ一つ剥き出しになっていない

SFチックなその造りは、何度か侵入したフェイスダウンの基地のそれに類似していた。


素直に考えれば、敵の拠点に誘い込まれた、ということになるのだが……



「……何の気配もない。無人だな、ここは」



動く影はおろか、そもそもが施設の機能そのものが死んでいるように見える。

よく見れば先々で天井や壁面が崩れ、隠蔽されていたケーブル類が

垂れている個所もある。



「戦闘でもあったのか? いや……」



損傷した箇所に指をふれ、確認する。その傷痕は通路の内側から

圧力がかけられたのではなく、外(つまり壁の内側だ)から折れ曲がっている。


通路内で戦闘があったのではなく、なんらかの衝撃によって壁内のケーブルやパイプが

壁を突き破った。つまり、純然たる事故によるものらしい。



「事故によって廃棄された施設……ということか?

 だがそうなると、奴はなぜ俺をここに閉じ込めたかだが……」



閉じ込められた。その言葉を口にしてぞっとする。

そうだ、今自分はこの施設に閉じ込められ、抜け出せないのではないか?



「――クソッ!」



ガンッ、と衝動のままに壁面を叩く。単純だが、有効な手だ。

この、どこかもわからないフェイスダウンの施設に閉じ込められては打つ手がない。

消耗しきったところをヒュドールに襲われでもしたらひとたまりもないだろう。



迂闊だった。

あんな形で転移ポータルを発動させることができようとは想定外だったが、

それ以前にああも無策に吶喊などするべきではなかったのだ。



一度はフルフェイスを退けたという慢心が、油断を誘ったのか。

――いや。やはり自分は知らず知らずに、憔悴していたのだろう。

()()が抜けた穴は、大きい。むしろ一人だけで戦い抜いていた頃より、

一度背中を預けられる安心感を知ってしまった今は、それを失って襲い掛かる重圧が

より強く感じられるのだ。



「――バカを言うな」



独りごちて頭を振る。

失策を犯したのは事実だ。だが「()()()がいない」などという

泣き言を漏らしている場合ではない。そんなことで足を止めているのは、

それこそアイツへの侮辱になる。




「……そうだ。あの時……」



思い出す。ヒュドールが降りてきて、改人が転移を発動させるあの一瞬。

自分のすぐ横に、フェイスダウン総帥――フルフェイスもいた。


後ろを振り向く。さきほど、自分にのしかかっていた瓦礫だ。

よく見ればそれはこの基地のものではなくコンクリートやアスファルト。

つまり、転移前の場所にあった構造物だ。



(あの転移ポータルは、俺一人を転移させたのではなく

 改人を中心とした範囲を転移させた……)



で、あれば。

あの時側にいたフルフェイスもまた、この施設内にいるのではないか?



「……奴なら当然、ここから脱出する術を知っているはず……」



ぐりっ、とグリップを握る。湧き上がってきた闘志に呼応するかの如く、

エンジンが吹きあがる。



「奴だ。フルフェイスを、探す。

 探して――奴にここから抜け出す術を、聞き出す!」



ドルンッ! とスロットルを開く。瓦礫をおしのけ、126PSの出力で走り出す。

猶予はあまりない。奴が逃げ出す前に――見つけ出さなければならないのだ。



・・・



「……クッ」



がらり、と瓦礫を押しのけて立ち上がる。

ばっ、と手を何度か軽く振ると、その黒い全身から誇りがきれいさっぱり落ちる。



単眼で周囲を探る。視覚、聴覚、あるいはそれ以外の近くセンサーにも反応はない。

が、そこから得られた情報で現在おかれた状況を把握する。



「廃棄された宙港ドッグ……まさか、ここに送り込まれるとはな」



偶然だろうか、とフェイスダウン総帥は疑った。

まさか、()()()()()()()そのものへと転移させられるとは。

このドッグを見つけることができれば、もうヘブンワーズ・テラスの残骸を

調べる必要もなくなってしまった。



ヒュドールはこちらがこれを探していることを知っていて、転移させたのだろうか?



(いや……)



奴に総帥自身の目的を悟られているとは思えない。ヘブンワーズ・テラスの残骸を

探していることは知られている可能性はあるが、ここのことまでは知らないはずだ。



(つまり、廃棄されている施設を選んだだけか)



僥倖と言えば、僥倖だが。そう喜んでもいられないのが現状だ。

ヒュドールも当然、善意でここに送り込んだわけではあるまい。



「奴の罠……なのは、確かなんだが。何もしかけてはこない、な……?」



動く影は何も感じられない。そう何も――



「――! そうだ、アルカーは……!?」



らしくもなく無鉄砲な突撃をしかけたアルカー。彼の方が改人に近かった。

確実に、この施設に転移させられているはずだ。



「――ヒュドールの目的はアルカー、か……!?」



アルカーが持つ精霊の力。それはヒュドールにとって喉から手が出るほど欲しいはず。

こんな場所にまで転移を仕掛けたということは、奴はそれを引き剥がす術を得たと

いうことか……?



「――チッ!」



センサーの探索範囲を広げるが、感はない。

地道に走って探し出すしかないようだ。



「……こんな時、()()があれば、な……」



少しだけ、寂しさを覚える。付き合いは短かったが、アレも彼にとっては愛着のある

相棒のようなものだった。

――アレはまだ、保管されているのだろうか。



些末な感傷を振り切り、己の足で走り出す。

ヒュドールとアルカー、そのどちらかにでも先に接触しなければ。



・・・



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