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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第五部:『そして至るは英雄譚』
127/140

第一章:05



・・・



「――と、言うわけでして……」

「……」



いずこかもわからない、暗闇の空間

冷たい大理石のような建材でくるまれたその中心に、ヒュドールはいた。



彼の眼前には三人の大改人――ヤク・サ、ヤソ・マ、シターテ・ルが

膝をつき事後報告を述べていた。


内容はつまるところフルフェイスを前におめおめと逃げ帰ったというものだが、

彼らにさして悪びれるようすもない。


それはそうだろう。大改人たちはヒュドールに好き好んで従っているのではない。

ただ生殺与奪権をこちらに握られているから、服従しているにすぎないのだ。

内心、「ではお前がやればいいだろう」ぐらいのことは思っているかもしれない。



(嫌われたものだな……)



胸中を一抹の寂しさが風のようによぎる。が、いまさらそれは感傷にすぎない。

そんなことはもう十年以上も前から覚悟を決めていたことなのだから。



「――わかった。フルフェイスが出張ってきたというなら、

 お前たちには手はだせまい」

「遺憾ながら」

平然と答えるヤク・サに反し、わずかに鬼型大改人が顔を伏せる。

プライドに傷がついたのかもしれない。アイツらしい性癖だが。



「首領どのも、お空の上で総帥サマを始末しておいてくれればよかったのに」

シターテ・ルがとげとげしく、それでいて艶めかしい声音でチクリとつつく。

言葉の端々に毒舌じみたものが混ざるのは、彼女の昔からの癖ではある。



アルカーとしての仮面の下で軽く苦笑する。

実のところ、彼らと対面する時にヒュドールの姿でいるのは彼――

天津稚彦が表情を見せたくないからだった。



どうしても、心情が顔に出てしまう。



(無理もない。

 ほんの少し前までは、彼ら全員を始末して――それで何もかも、

 終わりにしようと長年考えていたのだからな……)

状況とは変わるものだ。劇的に、刹那的に。



「――あの時はそんな余裕もなくてな。

 それに――」

「……それに?」

「いや。見苦しい弁明はやめておこう」



シターテ・ルの怪訝な声に、言葉を飲み込む。

アルカー・エンガに敗れた直後のフルフェイスの様子からは、

再起を図るような覇気は感じられなかったのだが……



(……心境も変わるものだ。劇的に、刹那的に、な)



いずれにせよ、自ら言った通りフルフェイスに出てこられては彼女たちには

荷が重いだろう。



「おまえたちにフルフェイスの相手をさせるつもりはない。

 奴を排除するためにも――アルカー・エンガの力が欲しい」

「……とはいえ、そのエンガめもたやすく下せる相手ではありませんがね」


ヤク・サが皮肉気に返す。それも然り、ではある。

そもそもそのフルフェイスを打倒したのが、アルカー・エンガなのだから。

流石にその時発揮した"アルカー・テロス"の力はそう自在に扱えるものでは

ないだろうが……



「――もう諦めたら?」



それまで発言したどの声とも違う、年わかい鈴の音のような軽い声。

首をかしげ、後方を見やる。



「いったいいつまで女々しくあがいているんだか……

 そーゆうの、大人らしくないっていうんじゃない?」

「かもしれんな……」



嘆息を隠しつつ、その少女の言葉にあいまいに同意する。



金髪のツインテールが見せる幼さに反し、大人すら恐れさせる冷酷さが

張り付いた顔の少女、雷久保ホデリだ。だが以前見た時に比べ

その表情から険がとれたように見えるのは、気のせいでもないだろう。



彼女はヒュドールが作り出した水の檻に閉じ込めてある。

もっともその態度は虜囚とは到底思えないものだ。



用意した高級チェアにだらしなく寝そべり、シェイクをちゅるちゅると

すすっている。

目の前にはパソコンがありあまつさえネットにさえ繋がっているほどだ。

(無論検閲はかけているが……)



その大胆不敵で傲岸不遜な態度はヒュドール自身が認めたものだ。

シターテ・ルなどは露骨な嫌悪の視線を向けてはいるが。



「あがくことを潔くやめられない、というのも大人ではある」

「ある意味では大人らしいって? バッカバカしい……」



冷めた目つきで虚空を見つめるホデリ。その呆れたような視線は、

あるいは彼女自身にも向けられたものかもしれない。



「……いずれにせよ、手は考えねばなるまい。

 今は下がれ……」

「は……」



うやうやしくうなだれ、退出する三大改人。

部屋に残ったのはヒュドールとホデリ。そして――



<<うぐるるる…………>>

「…………」



壁のように巨大な影――改人たちの自壊を制御する装置であり、

かつてフルフェイスがこの地球にもたらした『ある機械』の中枢。

ヒュドールが命を与えた、"イザナ・ミ"が腹に響くうなりをあげて

傍らにたたずんでいた。



・・・



「――フルフェイスが……」

「すまない。俺が甘かった」



花壇に腰掛け、水分を補給しながら火之矢は御厨に謝った。

彼女はやさしく微笑み、肩に手を置いてくる。



「フェイスダウンは確実に、大幅に弱体化している。

 お前たちの戦いは、間違いなく奴らに打撃を与えているさ」

「……ああ」


その慰めに反駁せずうなずいたのは、フルフェイスを逃したから天上での戦いが無意味なものだった――とは認めたくなかったからだ。


実際、弱体化したのはフェイスダウンという組織そのものだけではない。

対峙してわかったが、フルフェイス自身も確実にその力をそがれていた。

以前戦った時に感じたような、威圧感とでもいうべきものは受けなかった。


むしろ、なにか懐かしいものさえ――



(……戦闘狂でもあるまいに)



ほんの数か月ほど前に激戦を繰り広げた相手を懐かしむなどと。




「ホオリも……ようやく、まっとうに表街道を歩けるかと思ったのにな」

「フルフェイスが生きているとなれば――また、警戒を強めなければ」



御厨が嘆息する。彼女にとっても頭を痛める事態だ。

むしろ、矛として戦うことだけを考えればいい火之矢より、全体を見定め

これからの策を練らねばならない彼女の方がつらい立場だろう。



「ホオリは?」

「今くる」



くい、と御厨が指さす。

その先からPCPに脇を固められ、避難していたホオリがやってきた。



「火之矢さん……」

「ホオリか……」



フルフェイスがまだ生きていた。

その事実をどう伝えたものか逡巡していると――彼女の様子が普段と少し

違うことに気づいた。



「――どうしたんだ、ホオリ? どこか……」

嬉しそうに、見える。


そんなありえない言葉を口にしそうになって寸前で飲み込むも、聡い彼女は

読み取ったようだ。

そのうえで、肯定する。



「――うん。自分でも変だなって、思うんだけど。

 なんだか私、浮かれてる」

「浮かれてる……?」

「わからない。私にもなぜかはわからないんだけど」



本当に不思議そうに、首をかしげながら見上げてくる。

胸に手をあて、そこから伝わってくる喜びにとまどうように。



「わからないけれど――でも、嬉しいって感じてるよ。

 私と――私の中にいる、雷の精霊が……」



・・・




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