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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第四部:『アルカー・テロス ~我はアルファであり、オメガである~』
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第四章:02

ハクメイとミコチの放送がおわってしまったというあくしつなでまをばらまくやつがいるらしい()



・・・



キープ・フェイスは甚大な損傷を受けていた。



まともにアルカーの"ヴォルカニック・ストナー"を受けたのだ。平然とされても、困る。

だが――



「……ごぉぉぉぉぉぉぁぁああああああああッッッ!!!」



それまでの超然とした態度をかなぐり捨て、咆哮をあげてキープ・フェイスが突進する。

その姿にはこれまでは見られなかっった感情の発露――"激昂"があふれていた。



「ちッ……!」


避けようと足に力を入れるも、想像以上にダメージが大きい。わずかに膝から力が抜け

回避しそこね、ノー・フェイスの顔面にキープ・フェイスの鉤手がくいこむ。



「ノ……ッ!」



アルカーが即座にカットに入るも、キープ・フェイスはつかみかかってきたその腕を

すりぬけ、逆にアルカーの肩口をもわしづかみにする。



すさまじい、執念だ。



「アルカー・エンガ……ッ! ノー・フェイスゥゥゥッッッ!!!」


怨嗟の声が、キープ・フェイスの声帯スピーカーから漏れ出てくる。

びりびりと空気をふるわせ、ノー・フェイスすら震撼させる怒声だった。



「ふざッ……ける、な。ふざけるなッ……!

 こんな……他人頼りの、腑抜けた戦い方で! 戦術とさえ呼べんような

 ナメたやり方で、このオレを……貴様らの祖たるこのオレを!

 仕留められると思うかッ……!!」



ぎりぎりと食い込んでくる指は、それだけで頭部を砕きかねない怪力だ。

だが、それこそ戦法とも呼べない力任せの威圧感ほどキープ・フェイスに

余力が残っていないことの証左でもある。


「オレは……オレ、は。総帥フルフェイスが生み出した、最初のフェイス!

 貴様らの(さきがけ)たる、"大戦闘員"! その、オレを……

 こんな手で、落とせると思うなこわっぱどもがぁッ!!!」

(矜恃だけで動いているのか……!)



あらためてこの仮面の古強者の底力を思い知らされる。けしてノー・フェイスとは

相容れないが、掲げた信念への執着は劣るものではない……ある意味では

凌駕さえしていた。



アルカーとノー・フェイス、その掴まれた個所からめきめきと軋む音が響く。

それを振り払うには、まだ両者とも回復しきってはいない。

キープ・フェイス自身ももはや躯体の限界を越え、意思の力だけで

動いているのだろう、排熱が追い付かずまるで溶岩のように煮えたぎり、

その身体から陽炎がゆらめいてのぼった。



と、その肩に――じゅっ、と蒸気がふくれあがった。

――雨?



ばっ、と上空を見上げたのは奇しくも三人同時であった。

いつのまにか、その頭上一面に巨大な水の膜が広がっていた。



「水……!」

「ヒュドール……ッ!?」



・・・



「天津……ッ!」


うかつだった。

奴が――アルカー・ヒュドールがこの戦いを静観していたのは、気づいていた。

隙を見せればそこを突いてくるであろうことも。重々、わかってはいたのだ。


承知していてなお、その存在を失念するほどにキープ・フェイスは

追いつめられていたのだ。


「ちいぃ……ッ!」


アルカーとノー・フェイスをつかみ上げていた手を離し、その場を離れようとする。

が、不意をつかれていたアルカーたちも即座に反応し、今度は逆にこの手をつかんで

逃がさない。


「おのれッ!」


万全な状態同士なら、こんな妨害ものともしない。ゆさぶりをかけてその動きを乱し

払いのけるなり、あるいはヒュドールに投げつけてやるなりいくらでも対処できる。

が、今のキープ・フェイスには無理だ。完全に支配しているはずの自身の躯体が、

今はまるで重石のように鈍く、動かない。



赤子のようなもどかしさのなかで、キープ・フェイスはふたたび上空を見上げる。

視覚センサーに広がる空の水面が、聴覚センサーが受け止めるヒュドールの唱える

"力ある言葉(ロゴス)"が、彼に一つの推論を導き出させる。



「ばかな……ばかなッ! オレが……フェイスの祖たる、このオレが!」



ぎしり、ときつく締められた両腕が、左右に引かれる。

磔にされた囚人のように、今の自分が無力であることを

いやおうなくつきつけられる。



()()()だとッ!

 こんな……全力を出すことも、できぬまま! 無様に――敗北するなどとッ!!」

「その身を活かせぬまま、朽ちるがいい」



最後の一瞬とどいた乾いた言葉は、天津の陰気くさい声だった。



「――"ヴァルナ・フォール"」



――"力ある言葉(ロゴス)"が発動すると、ヒュドールが水面に飛び込んでくる。

獲物を捕らえる水鳥のように鋭く放たれた蹴りに、水面が渦となってまとわりつく。



破壊の奔流となったヒュドール自身が、身動きの取れないキープ・フェイスの胸部に

上から突き立つ。水の精霊がその力で装甲を穿ち、内部に猛り狂った怒涛が

暴れ狂うのを感じ取りながら、キープ・フェイスは最後の慟哭の声をあげた。



「フル……フェイスッ! わ、我らが――総帥ッ!!

 ゆる、せ……オレもまた――未熟かッ!!!」



そして、内側からあふれ出した水流がキープ・フェイスの全身を砕きつくした。



・・・



ばさり、と書物が冷たい床に滑り落ちる。無残に中のページが自重で折れ曲がるが、

取り落した本人であるフルフェイスは目もくれず呆然としていた。


「――バカな」


極めて珍しいことに――そんな間の抜けたことを考えるほど――彼は狼狽していた。

いや、あらためて思いなおしてみればこんな感情は初めてのことなのかもしれない。



「キープ・フェイスが……負けた、だと……?」


この計画を始めたときから、けしてすべてが順調だったわけではない。

数多くのつまづきと、それにあわせた修正の繰り返しだった。



だが、キープ・フェイスが敗北するなどと――奴を失うなどと、

想定したことは、一度もなかった。それほどの信頼をおいていたのだ。


その奴が……消えた。実力では圧倒的な差があるはずの、アルカーたちに敗れて。



「バカな……」



計画は――もうまもなく、完遂されるはずだ。この星に必要な計画が。

そのために彼はキープ・フェイスを生み出し、フェイスたちを作り上げた。


計画は――もうまもなく、完遂されるはずだ。そのはずだ。

だが――



「なにが……起きているのだ……」


どこかで、なにかを。決定的ななにかを間違えたのではないか――

そんな益体もない不安が、フルフェイスの胸中をよぎる。

……"不安"という感情も、初めて抱いたことに気づかぬまま、呆然と立ち尽くした。



・・・



ざあああ、と猛烈な水音があたりを覆いつくす。

潮煙が視界を完全にふさぎ、身動きが取れずにノー・フェイスは片膝をついていた。

と、その足元に何かがからんと転がってきた。


拾い上げると、それは仮面――ノー・フェイス自身のものと相似した、

キープ・フェイスの仮面だった。



さすがに複雑な感傷じみたものがノー・フェイスの心中をよぎる。

思えば、彼は同胞を裏切ったのだ。そのことに後悔はなくとも、ある種の罪悪感が

宿るのは禁じ得ない。


と、自身の仮面との相違に気づく。ごくわずかな差異。

頬にあたる部位についた、小さな装飾。あとからつけられたものだ。

――自身の躯体に、絶対の自信をもつキープ・フェイスが身に着けた装飾。

誰から与えられたものなのか、想像するのは難くなかった。



少しの逡巡の後、その装飾を引き剥がし己の仮面に埋め込んだ。

そうするべきかはわからないが、自分はそうしようと思ったのだ。



残った仮面を海に向けて放り投げる。

おそらく、地にさらされるよりは、静かな深海に眠ることを望むだろう。



ぽちゃりと海面に落ち、あっけなく沈んでいくその仮面を見送りながら、

ノー・フェイスは別れを告げた。


「さらばだ、キープ・フェイス。我が原型たるフェイスよ。

 かなうなら、お前を正面から乗り越えてみたかった」



・・・



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