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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第四部:『アルカー・テロス ~我はアルファであり、オメガである~』
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第四章:Time that Judged all



・・・



「何が起きた!?」

高波に揺さぶられる護衛艦の艦橋で、艦長が逼迫した声で叫ぶ。

御厨も船全体が大きく揺れるなかコンソールにしがみついて踏みとどまるので精一杯だ。



夕刻を過ぎ、日も落ちようとして巡回の交代のため艦隊を再編しようとしたその時、

遥か遠方の要塞上で巨大な爆発が起きたのだ。

数十kmは離れているにも関わらず、衝撃波が護衛艦を襲い大きく揺さぶる。


さすがにそれで損傷したり転覆するほどやわにできているものでもないが、

甲板上にいる自衛官たちは高波でずぶぬれになったことだろう。気の毒だが。



「要塞上で巨大な爆発を確認。規模は不明!」

「まさか……核か……?」


青ざめた顔で艦長が戦慄するのも無理はないといえた。実際、発生した火球は

核砲弾の()()に匹敵するほどの光量を放っていたのだ。



が、その正体を知る御厨は別の意味で青ざめていた。



「……いいえ。アレはおそらく、突入したCET構成員による攻撃でしょう」

「なんだと……?」

「いやー……周囲をいっさい気にかけず、全力で放つとああなるんだねぇ……?」



こちらの言葉を信じがたい面持ちで受け止める艦長の後ろで、つとめて軽口を

たたきながらもさすがにぞっとしたものを顔に張り付かせ、桜田が立ち上がる。



アルカーとノー・フェイスはこれまで市街地が主戦場だった。必然、周囲の被害を

考慮しながら戦わざるをえない。

そのため極力威力を一点に絞り、さらに保護障壁を張りながら"力ある言葉(ロゴス)"を

敵に叩き込んでいた。それでさえ、鋼鉄をも融解させる威力なのだが……



そういった制約から解き放たれた精霊の力は、まさに原子核の崩壊熱にも

匹敵するということなのだろう。



「……いや、あれでもまだセーブしているのだろうな……」

「ばかな……」



おもわず漏れた言葉は別段おどかすつもりでもなかったのだが、それを耳にした

艦長は呆然として海のかなたを見つめる。



その弱々しい姿を笑う気にもなれない。"アルカー"の力の前には、御厨たちも

等しく無力なのだ。当然、彼ら以上の力を持つフェイスダウンに対しても。



(歯がゆいな……ほんとうに、歯がゆい)



あの爆炎の中へ突入できる人間は……いや、兵器は存在しない。

援護も支援もできないまま、彼らが勝つことを祈って待つしかないのだ。

CET(超常集団取締部隊)などというごたいそうな名を持つ組織の長でありながら、

その実態は優しいおさななじみとその相棒である人造人間に全て託すしかないのだ。



なにが作戦本部長だ。作戦など何もない、ただ二人を突っ込ませるしか能がない。



そんなどうしようもない自虐をかみしめているその肩に、ぽんと桜田が手をのせる。

振り向くと彼女もまたなんとも形容しがたい表情で、御厨にほほえみかける。



「ま、しかたないよ。私らはやれるだけのことをやった。

 そう信じて――ひのくんたちを、待と?」



首肯した自分の顔もきっと、なんとも言えない笑みを浮かべていたのだろう。

そう、やれるだけのことはやったのだ。あとは、待つしかない。



海上に目を向けなおした時にはもう普段の厳しい表情へと戻していた。

たとえできることが何もなくとも、気を緩めるわけにはいかないのだ。




おそらく戦闘はまだ終わってはいない。



・・・



「ご……あ、ああああぁぁッ……!!」

およそ生れ落ちて(ロールアウト)からあげたことのない無様なうめきをあげ、

キープ・フェイスはかろうじて立ち上がる。


が、すぐに膝から力が抜けてみっともなく崩れ落ち、地に膝をついてしまう。

いや、ほんとうに下にあるのが地面なのか……。



周囲の状況はおろか、重力の方向さえ見定められないほどキープ・フェイスの

意識は混濁していた。そんななかでもかろうじて復帰できたのはいわば、

"最初のフェイス"としての意地だ。


混乱した電子頭脳に命令をかける。エラーを起こしたセクションがある分野は

すべて一時停止し、周囲の状況判断と被害状況の確認、最低限の運動野の回復に

全力を注ぐ。記憶の大半が欠落しているが、これは一時的なものだ。



その判断が功を奏した。



目の前が赤く染まり、一瞬間が空いて景色が変わる。

それがアルカーの追撃を反射神経だけで回避した結果なのだと気づいたのは

行動がすべて終わってからだ。



(回復の優先度をあやまっていたら、終わっていた……)



いまだに立ち上がることのできないまま、だらしなく痙攣する両腕でなんとか

上体を起こして前方を見る。


あたりは惨憺たるありさまだった。


アルカーの放った"ヴォルカニック・ストナー"。まるで太陽が地上に

落ちたかのごとく周囲を焼き溶かし、衝撃で吹き飛んだ瓦礫が積み重なって

融け固まっている。どうやら自分はその塊の一つから這い出し、そこを

アルカーに狙われたようだ。



そうだ。自分はその直撃をうけたのだった。



「……しぶとい奴だな」



その惨状を生み出したアルカーだが、それ以上は追撃しようとしてこなかった。

疑問に思いながらなんとか相手の状態を把握し、その右脚にいくらかの損傷を

認める。それが接触の瞬間、悪あがきで自分が与えたダメージだとかろうじて

思い出すことができた。



「ぐ……あ、がッ……! な、にが……おき、た……」



はやる心を制御し、全身に回復の指示を飛ばし続ける。その甲斐あって意識の

統制はとれてきたが、躯体に与えられたダメージはあまりに大きく、

とてもではないがまともに動けそうにない。



そうだ。

たしかあのとき、自分はノー・フェイスに組み付かれていた。

奴が手を離す瞬間をうかがい、離脱しようと――



そこまで記憶野が回復し、愕然とする。


違う。

ノー・フェイスは、()()()()()()()()()()()()



「ば……ばか、な……」


ありえない。あれでは、ノー・フェイス自身もヴォルカニック・ストナーの

直撃をうけたのと、ほぼ同じ衝撃を受けたはずだ。



自分で思い出した事実が信じられず、いまだ混乱する頭に震える手を伸ばす。

だが残った片手では身体を支えきれず、情けなく倒れる。



まるで無力にもがき苦しむキープ・フェイスの集音センサーが、がらりと

瓦礫がくずれる音をとらえた。

その方向に頭をもたげると――融解した要塞の壁が持ち上がり、その下から

ノー・フェイスが、立ち上がった。



「……すさまじいな」

「俺も、これほどの威力を引き出したのは初めてだな……」



アルカーに語り掛けるノー・フェイスも、けして軽いダメージではない。

肩や胸のアーマーは大きく焼き焦げ、一部は融け落ちて内部をむごたらしく

むき出しにしている。事実、足元もおぼついていない様子だ。

近寄ったアルカーに支えられてようやく立っている。



だが、立ち上がっている。



同じダメージを受けたキープ・フェイスは起き上がることさえままならず、

無様に這いつくばっているというのに。奴は、ふらつきながらも立っている。



「な……なぜ、だ……ッ!」



理解できない。この状況が。


そんな問いを敵にすることが無意味であることはわかっていたが、

それでも叫ばずにはいられないほどキープ・フェイスは混乱していた。



「な、なぜ……なぜ貴様は、手を離さなかった!

 あれでは貴様も、まともにヴォルカニック・ストナーを受けたはず!

 なぜ――なぜ、貴様の方がダメージが少ない!?」



ありえないことだ。

キープ・フェイスとノー・フェイスは同じ躯体を持つ。

しかし蓄えた経験の差により、ダメージを受け流す機能はキープ・フェイスの

方がはるかに使いこなすことができる。

よしんば、ノー・フェイスがキープ・フェイスと同じレベルに達していたとして

――これほどまでにダメージの差が生じることは、ありえなかった。



「……おまえは、一人だ」



ふらつきながらもしっかりとした視線をキープ・フェイスに向け、ノー・フェイスが

問いに答える。いや、まるで見当違いの答えではないか?


だがノー・フェイスはかまわず語り続ける。


「一人ですべてを圧倒できるからこそ、おまえは戦場のすべてを自分で

 制御しようとする。攻めるも、逃げるも、すべてを」

「当然……だろう」



言葉の意味がつかめず、うめく。



「だからおまえは、他人も同じように見てしまう。アルカーが放った

 ヴォルカニック・ストナーを、()()が避ける、とな。

 だが、オレは違う」



肩を貸していたアルカーから手を離し、一人で大地を踏みしめる。

キープ・フェイスはまだ、かろうじて膝で立つことができる程度だというのに。



「お前とちがって、すべてを自分でどうにかしようとは思っていない。

 オレには――自分以上の力を持った仲間たちがいる。なら、必要なことは

 彼らにゆだねればいい」

「な……」


キープ・フェイスには惰弱としかとれない言葉。だが、それを吐いている

ノー・フェイスは現実に、己を見下ろしている。



「オレが避ける必要はない。アルカーが……うまくやる。

 だからお前を離さず、衝撃に備えることに全力を費やした」

「だからといってこんなやり方は、やめてもらいたいがな……」



全幅の信頼を寄せられたアルカー自身は渋いものを声音に混ぜているのは、

ある意味滑稽ではあったが。

それ以上に滑稽な姿をさらしている身では、嘲笑することもできない。



「お前は、避ける隙をうかがっていた。オレは、受けるつもりでいた。

 必然、衝突した瞬間にその差はあらわれた……」

「ぐ……が……」



うめくことしかできない。怒りを湧き出すこともできないほど損傷している

己の躯体が、情けない。



「オレは他人にゆだねることができる。その分オレがすべきことに、注力する。

 そうすれば、たった一点だけであろうと貴様を超えることができる。

 わかるか、キープ・フェイス。それが、"仲間がいる"という力だ」



・・・



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