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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第四部:『アルカー・テロス ~我はアルファであり、オメガである~』
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第三章:03



・・・



――どるん、と排気音を響かすエンジン。だがその音は外には伝わらない。

海中に作られた()の中にいるからだ。



海の色に溶け込むような、キャンディプラズマブルーの車体。

ヒュドールの駆るXinobi650だ。彼はノー・フェイスたちとは違う方角から

海中を渡り基地に接近していた。"水"を司る精霊の力あればこその隠密行動だ。

基地の外壁に手を着け、水の筋を生み出し浸入させる。

これでキープ・フェイスと交戦中のノー・フェイスたちの様子を見ることが出来る。



(もっとも、キープ・フェイスは察知しているだろうが……)



あの処刑人は、別格だ。

大改人と比してなお、次元の違う強さを持っている。

己のスペックに絶対の信頼を持ち、かつそのスペックに真摯にむきあい

あますことなく全ての力を引き出せるよう血のにじむような鍛錬を積んでいるのだ。

改人たちのような、与えられた能力をもてあましている連中とは比べる由もない。



(人造人間に"血"、か。実際、作り物らしくない奴ではある)



奴は、すべてのフェイスアンドロイドの『プロトタイプ』。

心身ともにあれこそがフェイスの目指すべき『雛形』であり、フェイスたちが

キープ・フェイスと対等な存在になることこそ、総帥の目指す道の一つとも言える。

彼が常日頃からフェイスたちの体たらくに愚痴をこぼしているのも、

彼らが己に比する者になってほしいと願っているからだ。



(つまり――奴もまぎれもなく、『フェイス』の一員と言うわけだ)



フルフェイスに横柄な態度で接し、ある意味では軽んじてるように見えても

その内面は総帥への崇敬で満たされている。その目的を達成させるために

己を律し、また同胞すべてに努力を求めているのだ。

その姿勢は、フェイスダウンひいてはフルフェイスに絶対の忠誠を誓い

彼のために己が身をも省みないフェイスたちのそれと同様だ。



だが、それでは――





(……む……)



放った分体が戦闘中のアルカーたちを見つけ、益体もない思索を振り払う。

やはり想像通り、二対一の状況でなお、アルカーたちは推されているようだ。

とはいえ、キープ・フェイスもやや攻め手を欠いているようだが。



(キープ・フェイスの狙いを考えれば、無理もあるまいが)



アルカーとノー・フェイスには、ここで退場してもらうわけにはいかない。

理想としては彼らにフェイスダウンを壊滅してもらうのが一番なのだ。

必要とあらば介入し、キープ・フェイスを排除せねばならない。



が、そのために自身が消耗してしまってはそれこそ意味がない。

できることならば、ヒュドールの介入なくしてキープ・フェイスを

しとめてもらうのが、一番だ。



(タイミングが肝要だな……)



介入者となるか、傍観者に徹するか。

波に揺られながら、ヒュドールは待ち続ける。

二十年もの間、雌伏していたように。



・・・



「アルカー……アルカー、テロスだと」



ノー・フェイスはキープ・フェイスの言葉を繰り返す。

その単語に胸の内にいる雷の精霊がざわつく。その反応で、奴の言葉が

真実であると知れた。



「そうだ……精霊は常に一対にして完全。一つしか宿していないアルカーなど、

 片翼の不死鳥も同じ。片方が欠けただけで、ものの役に立つものではない」



轟然といい放つキープ・フェイス。だが実際あいまみえた感触からいって、

彼のその言いざまは傲慢とも言えまい。現実に、二人がかりで

圧倒されているのだから。



だが……逆を言えば、もしアルカーが完全だったなら……この怪物に

対抗できるというのだろうか。




「そうだ。もしここに顕現していたのがアルカー・テロスならば、

 このオレを遥かに凌ぐ力を発揮していたはずだ」



自分を越える、と気負うこともなくあっさり認める。

むしろその声音には面白がるような響きさえある。



(……戦闘狂、か)



ここまでの接触は短いながらも相手の性根をある程度は測れた。

どうもこの"最初のフェイス"は、自分の力に絶大な自信をもち、

それに見合う敵を求めている節があるようだ。



(……同じフェイス、などと言えどこうも差が生まれるか……)



場違いながらも妙な感想を覚える。



ノー・フェイスには戦いを楽しむという感性はないし、敵を求める気概もない。

もっと言えば、自分が強いかどうかなどということ自体に興味はない。

あくまで必要なのは、守るために充分な力があるかどうか、だ。



しかし理解できなくとも、その精神こそがこのキープ・フェイスの実力を

支えているとすれば、軽視はできない。




「……だが、実際には貴様はアルカー・テロスとなることはなかった。

 雷の精霊が、おろかにも他の存在を選んでしまったからだ」




矛先がこちらに向いてぴくり、と反応する。

そうだ。確かにあの時、雷の精霊は自分を選び、その身に宿った。

適合者である火之夜ではなく、だ。



「――愚かしいとは思わんか? 精霊の考えることなど、わかりはしないが。

 だがサンダーバードの気まぐれのせいで、貴様は必要のない

 苦戦を強いられてきた。大改人はおろか、改人にさえ手こずることもあったな」

「……」



ぎくり、と胸の内に動揺が生まれる。

確かに当初、アルカーと自分は改人にさえ苦戦していた。少しずつ強くなり

あの大改人さえ撃退するところまで成長したが――



「……そうだ、ノー・フェイス。わかるか?

 貴様のせいで、アルカーは本来の力を得られなかった。

 それさえあれば――これほどまでに、苦慮することもなかったのだ!」



大仰に両腕を広げてみせるキープ・フェイス。その仕草は芝居がかっており、

ある種の精神的な揺さぶりを狙っているのは明らかだ。




だが、わかっていてなお、ノー・フェイスには覿面だった。




「オレが、アルカーの……?」

「そうだ、貴様だ! 貴様が――アルカーの足を引っ張っていたんだよ!」



狼狽して口をついた言葉の後を、冷酷につなぐキープ・フェイス。

彼に『顔』があれば、嘲笑さえしていたかもしれない。



「察するに――オレが察するに、雷の精霊は貴様をみかねたんだよ。

 己のスペックを活かせもせず、改人ごときに殺されかかる、ぶざまな貴様をな!

 そんな哀れみで本来の力を失うとは、精霊もおろかだがな」

「……オレが、スペックを活かせていない、だと……」



動揺しうわずった声で聞き返すノー・フェイスにキープ・フェイスは

ふんと鼻をならす。鼻などないが、そういったところが一々人間臭い。



「そうさ。既に知っているだろう? このオレは、貴様らフェイス戦闘員

 すべての雛形。このオレのボディの設計図で、貴様らは生まれてくる……」


ごん、と己の胸を叩き指し示す。その態度は自信に満ち溢れ、

何者にも臆するところが微塵もない。



「それはすなわち! 貴様らフェイスは、本来このオレと同等の力を持っている!

 改人どもなど、フェイスの技術を流用して作られたありあわせのゴミにすぎん!

 その力を活かせないのはただ一点、貴様らが――経験不足だからだ!!」

「……!」



ぐらりと地面が揺れる。いや、揺れたのは地面ではない。ノー・フェイスの意識だ。

あわてて脚に力をいれる。キープ・フェイスの弁論に、飲まれかけている――。



「わかるか! 本来なら改人や大改人など、貴様に与えられたスペックからすれば

 さしたる問題にならん! 問題となるのは肉体(ハード)ではなく、頭脳(ソフト)

 つまりは、貴様が情けないのが全ての元凶だ!!」



飄々とした態度を崩し、熱弁をふるうキープ・フェイス。

その内容は……ノー・フェイスを煽るためだ。彼の心をくじくための、演技だろう。

だが言葉の熱は、キープ・フェイスが本心からノー・フェイスの不甲斐なさに

怒りを覚えていることを示唆している。



同じフェイスだというのに、自分に遠く及ばないノー・フェイス。そして

そんな彼のために失われた、アルカー本来の力。

――キープ・フェイスは、その二つに本気で怒っているのだ。



(……オレが……)



その言葉はノー・フェイスに深く突き刺さった。

自分が雷の精霊を宿したことで、アルカーの力になれた。そう信じていた。

だが真実は――その逆だと言うのか?







「――つまらん話だな」




熱くなったキープ・フェイス、うろたえるノー・フェイス。

そこに水を差したのは――心底関心のなさそうな、アルカーの声だった。



「盛り上がって何を語りだすかと聞いていれば――くだらん話を。

 なるほど、おまえは確かに強いが、目は節穴らしい」

「ほう?」



癇にさわった――というよりは、単にアルカーの言葉がよくわからずに

聞き返したらしい。キープ・フェイスが首をかしげる。



「今の話がくだらない、か。貴様には何も感じるところがないと?

 己が手に入れたかもしれない、真の力のことを。

 ――手にしていたはずの力を、その間抜けに奪われたことへ、

 何の嫉妬もないと?」

「ない」



問いかけたキープ・フェイスよりノー・フェイスの方があっけにとられるほど、

断言・即答するアルカー。その返答に迷いが一切ない。



「……面白いことを言う。誰であれ、多寡はあれど力への憧憬はあるはずだ。

 ましてや、貴様が真の力を得ていればより多くの者を救えていたやも……」

「無理だ」



これまたある意味では情けない返答で切り捨てるアルカー。

だがその短い答えには、揺ぎ無い自信と決意が確かに感じられた。




「無理だ。たとえ貴様の言うとおりこの俺に二つの精霊が宿り、

 "真の力"とやらを手にしていたとしても――ここにたどり着くことは、

 ありえなかった。そのことは俺がよく知っているし、精霊たちにもわかっている」

「アルカー……」

「貴様の見当は的外れだ、キープ・フェイス。

 である以上――貴様の底はたかが知れた」



・・・



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