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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第四部:『アルカー・テロス ~我はアルファであり、オメガである~』
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第三章:夕暮れの海

先週はコミティア見に行ってました。

私もコミティアに出展して一万部くらい売って書籍化漫画化アニメ化実写化する予定だったのだが、

脳幹に矢を受けてしまってな……



・・・



「――15分前に撮影された映像です」

「……やはり、キープ・フェイスと名乗った個体が待ち構えていたか」



洋上。清水港から20kmほど離れた先に停泊した護衛艦に臨時設置された

指揮通信所で、御厨たちはフェイスダウン基地の動向を見守っていた。



目標の基地は、オーバーテクノロジーによって守られておりまさに鉄壁。

高度18000m、半径40km圏内に侵入した航空機・艦艇の類はことごとく

迎撃された。地上発射された巡航ミサイルも、そのすべてが

20km以内に近づくことも出来ず、爆散。海上自衛隊も完全に手をこまねく

状況にあった。



純粋な戦力という意味では自衛隊に大きく劣るCETだが――こと

"対超常集団"においては他の組織に出る幕はない。

やや周りの見る目が痛いものの、海上自衛隊の装備を借りて

海底基地攻略作戦にあたっていた。




近づいたものは、撃墜される。そのため基地の様子は衛星写真で確認するしかない。

数時間に一度の確認頻度だが、最後に撮影された写真には解像度は低いものの

アルカーとノー・フェイス、そして何者かが戦闘を行っている様子が見て取れた。



「基地の防衛機能は?」

「10分前に艦対地上ミサイルによる攻撃を実施。基地から30kmの距離で

 未知の対空兵器によって迎撃が確認されています。

 ……ようするに、中枢をおさえないことには無力化は難しそうですねー」

「……そうか」



前回のアルカーによる襲撃も含め、相当な打撃を与えてはいるはずだ。

にも関わらず、防衛能力に微塵のかげりも見られない。


いや、そもそもこの基地はこれまでいっさい存在を気取られることなく

存在していたのだ。与えた損害により、隠蔽措置が取れなくなったこと

そのものが大きな成果だとも言えるのだが……。




しかし、敵地真っ只中に二人を送り込み、支援すらできない現状は、

歯がゆい。



「……海中からの接近は……」

「護衛艦のいくつかは、海中からの攻撃で撤退を余儀なくされた。

 相手の使用する兵器の正体が掴めない以上、提言は却下する」


桜田のつぶやきに食い被るように、護衛艦に乗り合わせた艦長が

むべなく否定する。



第1護衛隊群司令との連絡役も兼ねているが、本人としてはぽっと出で

得体の知れない組織のものが自分の艦で我が物顔をしているのが、

内心気に食わないのだろう。さもありなん、というところだが。


実際のところ、艦長の言が正しい。潜水艦の出動を要請するにせよ、

工作員を動員するにせよ、海中では動きが鈍くなる。

護衛艦や攻撃機・爆撃機はなんとか逃げ延びることに成功しているものの、

潜水艦等ではそうもいかない可能性が高い。




「……ヒュドールがやったように、海中に道を作り出せれば

 話も変わったのだろうが……」

「流石に、ひのくんたちにそれをやれ、っていうのは酷ですよぉ」



未練がましく呟く御厨に、ひらひらと手をふってたしなめる桜田。

ヒュドールは"水"の精霊。だからこそ可能な芸当だったのだろう。

"火"や"雷"を司る火之夜やノー・フェイスではそこまでは無理だ。




ちらり、と横目でそれとなく艦長を見るが、表情は変えていない。

だが内心では疑心暗鬼の目でこちらを見ていることは想像に難くない。


なにしろ、フェイスダウンと言う犯罪組織が表ざたになったのはほんの最近。

ましてやCETなどというものが存在していると言うことも、そこに

"精霊の適合者"――などというオカルトな存在が所属していることも、

彼らからすれば寝耳に水というところだ。

この合同作戦が内閣からの直接命令でなければ、冗談以外のなにものでもないと

判断していただろう。



内心はともかく、自分たちの領分で好き勝手やられているにもかかわらず

比較的大人しくこちらにあわせてくれているのは、やはりフェイスダウンに

手痛く跳ね除けられたのが大きいはずだ。


最新の装備で固めた第1護衛隊群が、まるで相手にもならず近づくことも

できなかったのだ。面子もプライドも丸つぶれだろう。



そこにこの"ぽっと出"たちが乗り込んできた挙句、彼らが失敗に終わった

揚陸作戦を(たった二人きりとはいえ)成功させたのだ。

面白くなくとも、黙ってうけいれるほかはあるまい。




御厨は内心彼らに同情と謝罪を覚えつつ、彼らを最大限利用させてもらう

腹づもりでいた。



「この艦に、無人機は?」

FFRS(無人偵察機システム)はいくつか試験搭載されているが……

 先行して出した二機は10kmまでしか近づけなかった。

 偵察は不可能だ」

「はがゆいねぇ」



両手を投げ出すようなジェスチャーで桜田が嘆息する。

――艦長がわずかに眉をぴくりとあげるだけで抑えたのは、

さすが佐官というところだが。



「――現在、航空自衛隊による巡航ミサイルでの飽和攻撃、

 ないし陸上自衛隊による砲撃支援を検討中だ。

 だが、どちらもCETの潜入工作員が展開中である現在、

 実行は難しい」



人道的な配慮といえるが、その言葉にはわずかに棘が見え隠れしている。

ようは「二人きりで潜入などという無益な行為によって、こちらの

行動が阻害されているんだぞ」――という嫌味である。

無理もない反応ではあるが――



「――もしその支援要請が通った場合、こちらの人員の状況に関わらず

 即時実行していただいてかまいません」

「……何?」

「我々が先行させているメンバーは、砲撃であれ爆撃であれ

 損害を被る可能性は僅少である、ということです」


それはとりもなおさず、同等以上の力を持つフェイスダウンに対しても

効果は見込めない――という意味を含ませている。



アルカーにせよノー・フェイスにせよ、戦車砲の直撃を真っ向から跳ね返す

防御力をもつ。ましてや榴弾砲や焼夷弾による攻撃など、たいした障害にも

ならないだろう。



それを実感していない相手からすれば、胡乱げな反応になるのもいたし方ないが……




「……情報収集は可能な限り有効な手段を模索し、有用であれば即時実行して

 いただきたいですが……直接の攻撃は、我々のメンバーが敵の遊撃員を

 排斥し、基地の防衛機構を無力化ないし削減してからになる、

 と認識していただいた方がよろしいでしょう」

「……言わせてもらうが、その状況は攻撃とは言えん。

 単なる制圧だ」



そうですね、とは口にださなかった。だが、そういうことだ。

フェイスダウンに対抗できるのは、唯一アルカーの力のみ。

すなわち、火之夜とノー・フェイスだけだ。




自衛隊からすれば、歯がゆいにもほどがあるだろう。

だがその歯がゆさを、CETのメンバーは長い間味わってきたのだ。




火之夜一人に、全てを任せざるをえない無力さ。

その負担はノー・フェイスの加入により低減されたが、

それと同時にフェイスダウンの戦力も増強されてしまった。




無力感の、いたちごっこ。それを御厨たちは嫌と言うほど味わってきたのだ。

大切な人を死地に送り込み、自分たちは何一つ援護できない悔しさ。



(貴方たちも少しは味わえばいい)



そんないじわるなことを思い浮かべてしまうのも、無理はない。




窓から、海上を見やる。

距離が遠く、基地すら見えないが。その先では火之夜たちが

死闘を繰り広げているはずだ。これまでで、最大の死闘を。


だが、この戦いで終わりではない。まだ、その先があるのだ。



(私たちは――火之夜たちに、あと何度命をかけさせればいい?

 教えてくれ、フェイスダウン総帥よ。お前たちの横暴を抑えるために、

 大切な命を、なんど賭ければいいというのだ)




怒りと悔しさが、矢になって飛んでいけばいいのに。

そんな夢想をしてしまう自分が、少し情けなかった。



・・・



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