主張した私
「やっぱいいです」
ウニクロの入っているビルの一階エントランスの前で彼はピタリと立ち止まった。
「え?」
「今更……服を少し変えても中身が変わるわけじゃないし」
「……」
「それに、俺なんかが服に凝るなんて。キャラに合わないし、なんか」
「……『カッコ悪い』?」
少し俯く彼の方にピタリと体を向け、腕組みをした。
彼は少し戸惑ったように……しかしついにコクリと頷いて、呟いた。
「『何勘違いしてお洒落してるんだよ』って言われそうで……」
私はフーッと息を吐いた。
するとそれに気が付いた彼の、自信なさげに彷徨っていた視線が私の所に戻ってきた。
「……スイマセン、暴言吐きます」
ニコリと笑って足を開き、私はビシッと指を突き付けた。
「その考えがカッコ悪いです!やり過ぎは目に余るかもしれませんが、お洒落はもはや身だしなみ、人への礼儀です!」
「れ、礼儀……?」
「外側ばっかり気にしている人間が嫌だって言いたいんでしょう?もっと中身を見て欲しいと。イイですか、最初の数秒で相手への印象が決まりそれが長い間その人の心にずっと残るとまで言われているんです。ちょっと見た目を整えるのを怠っただけで、貴方と初対面の人は貴方の中身を誤解してしまうかもしれないんですよ!誤解されない程度に、良い印象を与えた方が貴方の中身をちゃんと見てくれるんです。その方が相手も嬉しいし、自分も嬉しい。お洒落して―――何が悪いんですか?」
ヒョロリと背の高い男の子が私を見下ろしている。
一気にまくし上げた後。私はハッと我に返った。
な、何という暴言を―――私は吐いたんだっ!
『暴言吐く』って宣言して、本当に暴言吐いちゃった……!
だってちょっと悔しくなっちゃったんだもん。
私が一所懸命やっている仕事も『お洒落』して貰うためのものだ。だって見た目をちょっと綺麗にすれば、その日一日良い気分でいられるんだよ!他人の事はどうにもできないけど……自分の事なら自分で何とか出来るんだよ。それだけでちょっと幸せになれる、そんなお手伝いを出来るのが嬉しかった。
だからこの男の子にも気付いて欲しかったんだ。
少しだけ自分を好きになって欲しい。自分でちょっと工夫すれば何とか出来る範囲の事で、『俺なんか』なんて言って欲しくない。
「あ、あの……私。ごめんなさい」
「え?」
我に買えた私は見上げていた視線をガクンと下げて、肩を落とした。
「……言い過ぎました。スイマセン、私すぐ熱くなっちゃうタチで……ごめんなさ」
「こちらこそ、スイマセン」
きっぱりとした声が頭の上から降って来て、私は再び顔を上げた。
「心配してくれたのに。グズグズ言って。確かに……『お洒落なんか』って意識し過ぎも……カッコ悪いですよね」
「あ、あの」
「ごめんなさい、こちらからお願いします。買い物……付き合ってくれますか?」
優しく包み込むように、少し恥ずかしそうに笑うその笑顔。
ギュッと、胸が絞られるような感覚がした。
「あ、はい。……付き合います。付き合わせて下さいっ!」
バクバクする心臓を押さえながら、私は喘ぐようにそう返事をしたのだった。