彼女は女の子4
僕達は今、ファクトリーの中心にある建物に囲まれた小さな広場にいる。さきほど不甲斐ない微妙な返ししか出来なかった僕に対して、彼女は特に気にした様子も見せずにニコリと笑って「ね、休憩しよ?何か飲みたいな」と提案して来た。手を繋いで赤レンガが敷き詰められた広場に踏み込むと、そこには大きな煙突が現れた。
「あ!サンタさんがいる!」
彼女は顔を上げて空を見上げている。その視線を追うと大きな煙突の外側を登ろうとしている大きなサンタがいた。
もともとビール工場だった赤レンガの建物は、今では資料館として開放されているらしい。その脇にある四十メートルもある工場の煙突もモニュメントとして残されている。その煙突の上を目指すように取り付いている大きなサンタは、ポッテリとした体型にこれまた白い大きな袋を背負っていて何ともユーモラスだ。
「あのサンタの体長、三メートルもあるんだってさ」
早速スマホで検索してみる。毎年この時期に飾られるものなのらしい。すると彼女が「へぇー」と感心したように頷いてから僕を振り返った。
「クリスマスって感じ、出てるね」
「うん。何か『イベント』って感じがするね」
僕も笑って頷く。そして手を繋いだまま、二人でイルミネーションとサンタを眺めていた。すると暫くして、僕の手を握っている彼女の小さな手にキュッと力が籠った。ドキッと心臓が跳ねて、思わず隣を見下ろす。
「ね、あそこのカフェに入ろ?」
「あ!……そ、そうだね、うん。寒いしね」
―――そうだった!もともとこの広場に面したカフェに用事があったのだ!
それに、これだけ人通りの多い場所だもの。構えなきゃならないようなことが、起きるワケがない。僕は自分の勘違いに胸をバクバクさせながら、慌てて頷く。
それから彼女に手を引かれるまま、広場に面したカフェに入った。注文を済ませ、それが出来るまで空いている席に腰を落ち着ける。ふと気が付くと、彼女が心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。黒縁眼鏡の奥の、大きな大きな零れ落ちそうな瞳に不覚にもまたドキドキしてしまう。僕の彼女は冗談みたいに可愛い。最近彼女と目が合うと胸がソワソワしてしまうんだ。
だけど今のドキドキは少し意味合いが違う。キョトンと見上げる瞳に僕の邪な下心を見透かされるような気がしてヒヤリとした。
「どうしたの?熱い?」
「い、いや!えと。その……うん、熱いかも!」
僕の顔が赤いのは―――急に温かい空間に入ったせいなのだ。
……と言うことにして置こうと思う。




