彼女の変化
設定を思いついたので、おまけ話を追加します。
付き合って一年くらい?のお話。敬語も取れました。
待合わせ場所に現れた彼女を見て、僕は目を丸くした。
「髪の色……」
「あ、うん。元に戻したの……どう?」
恥ずかしそうに俯く彼女。見慣れた金髪が栗色になっていた。それこそ大学で見掛ける女の子に比べてちょっと明る過ぎるかな?って思える程度。服装は相変わらず黒っぽい魔女スタイル。だけどこうなると普通にお洒落な可愛い女の子って感じだ。
勿論今までの格好も。ちょっと変わっているけど、彼女に似合っていた。でもこちらはもっと……
「似合ってる」
つーか、可愛すぎる……!
今まで金髪が目立っていたから、男どもは金髪に注目するばかりで彼女自身をスルーしていた。だけど彼女の一際白い肌に浮かぶ大きな瞳―――やばい。周囲を通り過ぎる若い男の目が幾つも、賞賛と驚きの視線を向けている。
しかし彼女は周りの視線など気にならないように、僕を上目遣いに見て恥ずかしそうに肩に掛かる柔らかな茶髪を弄んでいる。
うん、可愛い。可愛いから……
「行こ!」
僕はやや強引に彼女の手を取って、人々が往来する地下通路の溜まり場を逃げ出す事にした。これ以上知らない奴等に見せるのは勿体無い……!
手を繋ぎ目的地に向かう途中で、尋ねた。
「『元に戻した』って……地毛がその色?」
「うん、こんなに真っ赤なの」
「……珍しいね。もしかしてお父さんかお母さん、外国の人なの?」
肌が白く目がお人形のように大きい彼女だが、日本的な顔立ちをしている。だからただ髪を弄るのが好きで、染めているのかと思っていた。
「おばあちゃんがイギリス生まれなの、でも半分日本人で。だけど家族の中でこんなに朱い髪は―――私だけなんだ。中学校の時引っ越したら事情を知らない先輩に睨まれちゃって。面と向かって聞かれたら説明出来るんだけど……遠巻きに嫌味を言われるのが嫌で、ずっと黒く染めてたの」
その反動で美容学校に入学した後、元よりずっと派手な髪色を試すようになったとか。
「変な目で見られる事もあるけど、押し込めるより思い切って派手にしたら気分がスカッとして楽しかったの。でも最近、もうそろそろ元の自分を出して見ても良いかなって思うようになって……」
「……本当によく似合ってる。染めるの、勿体ないくらい」
そう言うと繋いだ手にギュッと力を込めて、彼女がはにかんだ。頬っぺたが真っ赤だ。そうさせているのが自分だと思うと、何やらムズムズと抑えの利かない感情が湧き上がって来る。この感情は―――満足感と優越感。彼女が僕の褒め言葉に頬を染めていると言う事実が、僕に新たな自尊心を与えるのだ。
「そう?実は中一以来。久しぶり過ぎて……スッゴく恥ずかしいの。スッピンで歩いているみたいな気分」
「どうして……戻そうと思ったの?」
彼女は気まずげに視線を逸らした。そしてポツリポツリと説明の言葉を漏らす。
彼女は僕と付き合うようになってから、ずっと隠して来た髪色に戻す事に抵抗が無くなったのだと言う。どうやら髪を明るく染めるのも―――ある意味彼女にとっては黒く染めて地味になるのと同じくらい、敢えて『装っている』と言う感覚があったようだ。実際それを楽しんでいたようではあるが、どうしても今まで元の髪色にするのだけは……黒色に染めるより彼女の中で抵抗感があったらしい。
「だから、アナタのお陰です!……アリガトね」
何という殺し文句……!
僕は今日も、こうして彼女に撃沈されてしまうのであった。
本編だけで簡潔に纏めるつもりだったのですが……。
読者様の感想を読み直してニマニマしてたら、思いついてしまいました。
完全な蛇足ですが。お読みいただき、誠に有難うございました。




