美容室で髪を切ったら【最終話】
美容室で再び髪を切った翌日、僕は花屋に向かった。
初めて美容室で髪を切って貰って……服をちゃんと選んで買って……今日、初めて花屋に踏み込んだのだ。
御礼の気持ちを伝えたい。
だけど言葉だけじゃ足りない。
そう思った僕は―――髪を洗って貰いながら気もソゾロ。
自分の聞きたい事がなかなか聞き出せなくて、彼女の質問にも少しおざなりに答えてしまった。やっと『女の人は何を貰ったら喜ぶか』という遠回しでも何でもない質問を口にすることが出来た時、彼女が直ぐに口にした答えは『お花』だった。
『素敵な男性に好意を示されて喜ばない女の子はいないと思います』
と言われて浮かれた。
と言うか舞い上がった。
え?僕の事を今、『素敵な男性』って言ったの?聞き違い?
ドキドキと胸が高鳴る。
花屋で花を選ぼうとして―――選べなかった。
どれも良いような気がして迷う。あの子が好きなのはこれ?いや、こっちが似合うかも。でもこっちの方が好みだったりして……。
引かれないように一本だけって思ってたのに。
一本ずつ違う種類の花を選んでいたら―――思った以上に大きな花束になってしまった。
持って来たお金でギリギリ足りて、ホッと胸を撫で下ろす。
それから美容室へ向かう。
あ、いた。
今日もいつもの時間帯、彼女はビラ配りに精を出している。
タイミングを見計らって一歩踏み出す勢いが強すぎて……見ていて思わず口元が綻ぶ。
一所懸命に頑張るあの子に―――感謝の気持ちを伝えたい。
僕はドキドキと高鳴る胸に花束を抱えながら、彼女に近付いた。
声を掛けると、目をまん丸にして―――僕を見上げる。
黒づくめの金髪をツインテールにした、真っ赤な唇の小さな魔女さん。
「あの……」
バクバクと痛いくらい胸が高鳴る。
僕は花束を彼女の目の前に勢いよく差し出した。
「好きです!付き合ってください!」
あ。
ヤバい。違った、まず感謝の気持ちを伝えて……それから徐々に仲良くなれたらって思っていたのに、本音がフライングしてしまった。
ポカンと口を開けた彼女の手から、ビラがバサリと落ちた。
「きゃー!」
と彼女が慌ててビラを拾い始めたので、僕も焦って花束を片手に散らばったビラを追った。
何とかすべて回収して―――それから、改めて花束を渡したら。彼女は真っ赤になって受け取ってくれた。
「よろしく……お願いします」
そう小さな返事が聞こえた時、バクンと心臓が波打った。
美容室で髪を切ってみたら―――なんと。
僕に可愛い彼女が出来ました。
【美容室で髪を切ったらモテました。・完】
お読みいただき、有難うございました。




