第39話 突撃!パン屋さん!なのじゃ!
ゴロゴロと荷車を引くギルが、大きな煙突のある建物の前で立ち止まり、ツインテールを揺らしながらついてきていたルルに振り返り声をかける。
「さて、パン屋につきましたよ」
「おおー!ここがそうなのじゃな!」
「では行きましょうか」
ルルがツインテールを跳ねらせわくわくと扉が開かれるのを見守ると、そこには外からは想像もできなかった光景が広がっていた。
数多の筋トレマシンが立ち並ぶ空間が三人を出迎えたのだ。
◆
アスレチックの森で動く二つの筋肉の影。
半袖ハーフパンツの筋骨隆々で赤い髪を坊主にした一人の男が、ベンチに寝そべりバーベルを持ち上げている。
それを同じく半袖ハーフパンツで赤い髪をショートカットにした、逞しい肉体美を誇る女がそれを補助していた。
「ふんッはぁああああッ!」
「いいね!いいよ!」
躍動する筋肉がその重さを物語る。その叫びが限界を語る。それでも負けずに持ち上げ、ゆっくりと引き戻す。そして再度筋肉を酷使してバーベルを持ち上げる。
「せいッはぁあああああッ!」
「もう一回いける!もう一回!」
あまりの重さにもういいじゃないかと悪魔が囁く、だがもう傍らに立つ女房がまだいけると自分に期待を寄せている。
ここで諦めたら男が廃ると男は気力を振り絞り全力でバーベルを持ち上げる。
「ふんッがあああああああああッ!」
「よーし!いいね!最高だよ!」
「ゼハッゼハツゼハツ、フゥー……」
限界を超え、荒く息をつく旦那に最高だよと笑顔を向ける女房。理想の夫婦の形がここにあった。
よくやった、いやお前の声援があったからだとお互いに健闘を称えていた二人であったが、やっと誰かが入店していたことに気付く。
「あら、いらっしゃい!」
「おお、神父さん!今日の分の小麦持ってきてくれたのかい!」
「はい、表にありますのでよろしくお願いします」
「いつも助かるよ!ありがとうございます!」
「いえ、これも教会の務めですから」
◆
予想外の光景に固まるルルとバアル。
そんな二人を置いて二人の筋肉と会話を進めていくギル。
しばらくして再起動したルルが錆びたおもちゃのようにギギギと振り返る。
「……せんせぇ?」
「どうしました?」
「ここパン屋さんじゃないのじゃよ……?」
「え?パン屋ですよ?」
「いやまて、パン屋は筋力トレーニングをする場所ではないだろう?」
「え?」
ルルの質問に素で何がおかしいのかわからないとギルが答える。バアルがパン屋ではなく筋トレ会場ではないかと突っ込みを入れるが返ってきたのは疑問の言葉。
「あら!お客さんこの国の人じゃないね!」
「なら俺たちが説明しよう!」
先ほどまで筋トレをしていた二人組の男女は、着流しの美丈夫を見て異国の人間と理解すると、腕を肩幅ほどに広げて仁王立ちをし、全身に力を入れたフロントリラックスのポーズで話しを始める。
「その昔八人の聖女様がいた、そのうちのお一人が貧しい民のために立ちあがった!具体的には食事の改善に乗り出したんだ!」
「かと言って素人がどうこうできることなんてない、だから聖女様は祈った!すると聖霊様からお告げが来た!」
「それこそ美味いパン作りに欠かせないイースト菌のレシピ!そしてその使用方法!」
「そして我々はその使用方法を正しく実践するために体を鍛えているんだよ!」
「なるほどなのじゃ!」
「まて、どう言う使用方法なら体を鍛える必要が出てくるんだ」
ルルは元気よくなるほどと笑顔の花を咲かせて返事をする。
だが聖女がパン作りをお告げで聞いたところからいきなり体を鍛える話に飛んだため、理解が追い付かないバアルが待ったをかける。
それに対しフロントリラックスから両腕を曲げ、力こぶと逆三角形の肉体を強調するポーズ、フロントダブルバイセップスに移行しながら説明をする二人組。
「それは!筋肉!そして柔軟性!」
「この二つがあわさる時、パンは無限の可能性を開くのだ!」
「おおー!むげんのかのうせい!」
「まったくわからん」
二人の熱い説明を聞き、無限の可能性と拍手して喜ぶルルの横でバアルが首を振る。わかりづらいようなのでとバアルのためにギルが横から補足をする。
「なんでも指が柔らかければパン生地をこねるのに便利なので柔軟性を、手の温度が高い方ががパン作りに有利に働くのでそのための体作りをしているそうですよ」
「そう!つまりパン作りと体作りは表裏一体!健康な肉体が美味いパンを作る!」
「だからパン職人は筋トレをするのが正しい姿なのだ!わかったかな!?」
ギルの補足を受け継ぎ、筋肉だけではなく柔軟性もすごいのだと、うねばきゅーんと指の柔軟性を見せながらパン作りにおける筋トレの重要性を語りかけてくる二人組。
「わかったのじゃ!」
「……そうか」
二人組のノリに当てられ勢いよく返事をするルルと若干引き気味のバアルであった。
前回の話はこのための前振りだったという訳ですね
漫画知識を異世界で広めてはいけない




