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陶芸部の日常  作者: もち
新生活
8/33

〈1〉



差し込んできた光に目を顰めると、さとしは体を起こした。


「ろくろが…ない…」


これでは一日が始まらないではないか、そう憤慨しながら辺りを見渡すと、


「あ…。やっぱり、夢じゃなかったんだ」


見慣れないゴシック調の高そうな家具が自分を見下ろしていた。そう、自分は異世界にいたんだった。もう、陶芸は…できないんだ…。


この先の不安が漠然と渦巻いてはいたが、とりあえず階下のリビングに向かうことにした。


「ろくろ…ろくろ…」


そう呟きながら歩いていると、階段を降りた先にフードの姿があった。


「あ…おはようございます…」

「おはようございます」


今日のパーカーの色は灰色だ。制服のスカートは白。真野とは違う学校なんだな、とぼんやり考えていると、何やら不機嫌そうな顔でフードが見つめていた。


「な、なんでしょう?」

「いや、別に……。」


顔を背けながらフードは続ける。


「昨日の…」

「昨日?」


思い当たるふしが無いので、考えこんでいると、リビングから声がかかる。


「あ、おはよう二人共。ご飯冷めるから早くおいで」


ひょっこりと顔を覗かせたのは真野。赤チェックのエプロンが見事に似合っていた。


「ま、真野サマが作っていらっしゃるのですか?」

「そー。あと、真野でいいから。敬語もいらない」


そう言うと、さっさと部屋に戻っていった真野に続き、さとしもリビングに入った。


真野は、なんだか不思議な子だ。見ず知らずの他人の世話をここまで焼くくせに、向かい来る敵を笑顔で払いのける。

なにか企んでいたり、するのだろうか。


「おねえ、胡椒とって」

「はいはい」


ウインナーにスクランブルエッグ、サラダにクロワッサン。どれも綺麗に盛りつけてある。


「真野…は、料理得意なの?」

「まあまあかな。この家他に作る人いないしね」


悪戯っぽくフードを見やる真野に、フードは不機嫌そうな視線を返す。


「ジャージさんは、いないの?」

「ああ、あいつはいつまでも寝てるから、放っておいていいよ」


田中さんは質問が多いですね、と隣から。


「今日は幸運な事に休日だから、食べ終わったら直ぐに役所に行こう。終わったら街をちょっと紹介して…あ、通う学園も決めちゃおうか」


頭がついていかずにこくこくと頷いていると、じわじわと、大変なことになってきた実感が湧いてきた。


僕は無事に家に帰って、またろくろをまわすことができるのだろうか。



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