〈6〉
「…こんなの、いつの間に作ったの?」
「真野たんが連絡くれた直後だから、ついさっき〜」
陽気に答えるジャージに、真野は、訝しげな目を向ける。
いつの間にか外は暗くなってきている。
さとしは、覚めそうにないこの夢が、だんだん怖くなってきた。
「田中さんは、これが夢だとか、思ってそうですね」
生クリームを口に運びながらそう問うフードの声は、心なしか冷たい。
「正直言うと、夢だとしか…思ってません…」
すごすごと答えたさとしを、冷たい瞳が見つめる。
「気楽なもんですね。これが夢だったら、どんなに良かったでしょうか」
ごちそうさま。そう言い残し、フードは部屋を後にした。
真野は、真剣な顔でさとしを見据えた。
「真面目に聞いてほしいんだけど」
「は、はい…」
「さとしはたぶん、ここではない世界から来たんだと思う…。でも、これは絶対に夢ではないから、ここで死んだら、それで終わり。」
死。穏やかに平凡な日常を生きてきたさとしには、現実感のない話だ。
「ここで生き残るためには、ここの暮らしに馴染まなければならないの。不穏分子として消される前に、ここの住民にならなきゃならない」
穏やかな僕が不穏分子になりえる日が来るなんて…。
昨日のさとしが聞いたら笑うだろう。
「ただ、決めるのはさとしだよ。別に夢だと割り切ってみすみす死んでもいいし。」
よく見ると、なんとなく真野は楽しそうである。
「どっちにする、さとし?」
微笑みながら尋ねる真野に、さとしは死にたくないと答えるので精一杯だった。
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明日は休みだから、一緒に住民登録に行こう。今日はゆっくりお休み。
そう言われ宛てがわれた部屋のベットにうつ伏せになると、さとしは息を吐いた。
なんだか、どっと疲れた。
そもそもこれが夢でないとして、どうして自分はここにいるのだろうか、その疑問が頭から離れない。
必死に考えていると、ぎりりと頭を締め付けるような痛みがあった。
昨夜ベットに入ってからの出来事が一切思い出せない…。
何かあったのだろうか。いや、あったに違いない。
強い疑問が湧いたが睡魔には勝てず、さとしは、深い眠りに落ちた。