〈3〉
ケーキ屋についた真野は、時計を確認する。
訓練終了時間まではまだ時間がありそうだ。
「お、真野じゃねえか、売り子が怯えてんぞ、ケーキなんか誰かに頼めよ」
店の奥から一人の長身の男がでてくる。
その寄せられた眉と鋭い瞳とは反対に、優しい味の、とても美味しいケーキをつくる男だ。
「ふーちゃんが、辛いケーキ食べたいって。」
「またあいつか。太んぞ。」
「ふーちゃんは太らない」
辛いケーキとはこの男、ワサビの作るケーキのことだ。色白の肌と翠色の短髪から、彼はワサビと呼ばれている。
ショーウィンドウからケーキを取りつつ、ワサビは呟く。
「…なんか妙なもん拾ったらしいじゃねえか。噂になってんぞ」
「もう?はっやいね〜」
はぁーと、盛大にワサビは溜息をつく。
「おまえはさ、もうちょっと自覚を持てよ…」
「え?人気者の?」
「……」
真野は、綺麗に包装されたケーキを手渡されると、微笑んだ。
「わさびくんに迷惑はかけないよ。安心して」
「…そういうことじゃねえよ」
じゃねー、と店を出かけた真野に、ワサビは声をかける
「そういや、メリーがお前の事探してるらしいぜ。なんか怒ってたらしいが。」
「えー、めんどくさ」
「…送ってってやろうか?」
「いやいや、わさびくんは仕事あるでしょ」
それに、守られるほど弱くないよ、と笑い、今度こそ真野は店を後にした。