〈1〉
目の前の惨劇は全て夢であると信じ、頬をつねり、叩き、ネットで昔調べた夢から覚める方法を全て試したが、如何せん状況は変わらない。
何ということでしょう。いやはや、僕にできる事はこれまでですので…。
悟ったように座禅を組んださとしは、ゆっくりと…目を閉じて…
「え?寝ちゃうの?目の前の奴が見えてるんなら、逃げたほうがいいと思うんだけど」
閉じた目をそっと開けると、少女がさとしを覗きこんでいた。とびきりの美少女でもなく、とびきりの不細工でもなく、なんとなく、一度見たら忘れそうな顔である。
「うむ……」
そうだ。目の前の奴が問題なのだ。金髪のふわふわしたツインテールの奴だ。奴は華奢な体に似合わないバズーカ砲の様な物を、所構わずぶっ放していらっしゃる。
「逃げられるなら逃げたいところだぬ」
さとしは、すがるような目を少女に向けてみた。すると少女は、にこりと笑った。不思議とその笑みは邪悪なもので満ちているような気がした。
「貸し、イチということでいいよ。」
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白い無機質な廊下に、ゼエゼエとだらしのないさとしの声が響く。隣を見ると明らかに彼よりも動き回ったであろう少女は、事も無げになにか思案しているようだった。
「助けてもらって、助かりました…あの…一体…ここは…」
「うん。ここは今日の戦闘禁止区域だから…って、やっぱりそれも知らないのか」
ゆめなのに やけにこった せっていだなあ
「私は真野。暇だから、とりあえずあんたを助けてあげる。あんたの名前と…出身とか所属とか、分かるなら教えて。」
「え、僕は、田中さとし。素敵無敵な17歳。出身は、埼玉県で…」
「は、サイタマ?」
「さ、サイタマ…」
「…へぇ」
真野の黒い目が細められた。
「所属は…え…あ…陶芸部…」
「トウゲイ…ってなに?」
「この、あの、ウツワを、ツクル〜…」
手の動きまでつけたのに、伝わらなかったようだ。ちなみに、今作務衣姿なのは、部活とは関係ない。ただの部屋着である。
ついでに言うと、真野は、僕が今まで見たことのない制服を着ている。黒いワイシャツとスカートに靴下。白いセーターには黒い腕章。
ん、黒い腕章、さっきのバズーカー乙女もつけてなかっただろうか。
「ああ、腕章?なんつーか、危険度に応じて色分けされてんの。白が一番弱くて淡い色、暖色、寒色、黒って感じで、レベルが上がってく。」
熱視線に気づいて、答えてくれたのはいいが…
「え、真野サマは…」
「よし、移動するよ。ついてきて。」
真野サマはそう仰ると。スタスタと歩き始めてしまわれた。
夢よ早く覚めろ。