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TS転生×悪役令嬢×スキル奪取×自宅転移×ドラゴン×魔王=引きこもり

作者: 那須樹

Q.何これ?

A.最近の風潮を痛烈に大いに皮肉った物語(どこかで聞いたことのある煽り文)


流行りの要素を取り入れれば人気が出ると思った(小声)


 昔々、人々はわるい魔王の脅威に晒されていました。

 それを退治すべく、光の力を持った勇者が立ち上がりました。

 勇者は薄暗いダンジョンの中を進み、遂に魔王と相対しました。

 しかし、そこに居たのはさめざめと泣く1人の女でした。

 驚いた勇者が話しかけると、女は自分こそが魔王だと言うのです。

 訳を聞くと、女は不運にも気まぐれな闇の神の加護を受け、その結果どこからともなく現れた闇の眷属たちに担がれ、魔王にされてしまったというのです。

 女の助けになりたいと思った勇者は、湧き出る光の力を分け与え、彼女を闇の束縛から解き放ち、共に闇から世界を救い出しました。

 そして、世界を救った後、勇者は魔王であった女と共に、ひっそりと、ですが幸せに暮らしましたとさ。





「…………」


 薄暗い洞窟の最深部で、仄かの灯る不思議な鉱石の灯りで読んでいた絵本を閉じる。

 これが、俺が生まれた一族に伝わる勇者伝説である。

 そして、今俺が“こんな”状態に陥っている元凶でもある。


 ……挨拶が遅れた。俺の名前は■■■■、かつては日本でしがない社会人をやっていた男だ。

 そして、今世での名前はティーエ=スァクヤク、スァクヤク家の長女である。

 即ち、俗に言うTS転生という奴を経験することになった不運な(元)男である。


 だが、それだけならまだ良い。いや、良くないけど良いということにする。

 世の中にTSして苦労している人は居るかどうか分からないが、もし居るなら一言言ってやりたい。この地獄に比べたらその境遇は天国に等しいのだぞ、と。


 俺は腰を上げ、のしのしと湧水の泉へと近づき、水面を覗き見た。

 そこに写っていたのは、ギョロリと輝く金の瞳に立派な牙、そして、硬質な白い鱗に包まれた爬虫類顔であった。


 ……………そう、俺は龍の一族へとTS転生をしたのである。



 ◆ ◆ ◆



 気が付くと、俺は狭く暗い空間に閉じ込められていた。

 最初は訳が分からなかった。何せ、帰宅途中に電車に揺られていたと思ったら、いつの間にかそんな場所に閉じ込められていたんだから。

 確か、「ここから出せ!」とか叫んだ覚えがある。だが、球体らしき曲がった壁は相当の強度を誇るようで、俺の力ではどうしようもなかった。

 だが、何度も叩いている内に爪が壁に突き刺さり、極々小さな亀裂が入った。

 狭い暗闇に訳も分からず閉じ込められて恐慌状態にあった俺は、何故突き刺さったのかとか爪に痛みが無いとか、それ以前に自分がどのような状態なのかについて考えることすら思いつかず、我武者羅に亀裂を押し広げようと壁の破壊工作に勤しんだ。

 そしてようやく亀裂を広げきり、明るい外の世界へ飛び出すと、そこに居たのは2匹の強大な龍であった。


 俺は意識を失った。



 ◆ ◆ ◆



 俺が事態を把握できたのは数年が経ってからであった。

 俺が転生したこと。しかもよりにもよって龍に生まれ変わったこと。さらに女であること。どうやら生まれた家はかなり上の立場であること(人間で言う貴族、それも公爵とかそこら辺のように感じた)。

 後、俺は白龍に生まれ変わったのだが、これは龍にとってみればかなりの美形で、つまり俺は絶世レベルの美少女らしく、虚ろな目で周囲に流されている間に取り巻きやら何やらができ、オスの龍に言い寄られることも多くなった。


 だが、龍である。爬虫類顔である。人間の感性を持つ俺にとって、そして雄雌の違いすら分からない俺にとって、それはもはや恐怖体験である。巣穴に戻ってひたすら布団(的なもの)を被って過ごす日々を続けた(そしてそれが深窓の令嬢扱いに繋がってしまった)。


 これが人化とか出来るならまだ話は違ったのだが、どうもそういう話は無いらしい。親や大人に話を聞いても、そもそも人間がいるのかすら危うい。俺は絶望した。


 そして、布団に潜っている時に気が付いたのだが、俺にはどうやら特殊な能力があるらしかった。

 暗闇の中で、ブォンと音を立てて光り輝くウィンドウが虚空に出現したのだ。


―――――――――――――


名前:ティーエ=スァクヤク

種族:龍

年齢:12

スキル:スキル奪取、帰還


―――――――――――――


 これには思わず「おお!」と言ってしまうほど驚いた。何せ、懐かしの日本語を見ることが出来たのだ。

 そして「スキル奪取」の文字。これがあればもしかしたら人化を得ることが出来るかもしれないし、最悪様々なスキルをぶんどって強くなり、人間になる術を探して旅に出ることが出来るかもしれない。

 ちなみに「帰還」だが、これは自らが思い描くホームに帰ることが出来る魔法のようだ。だが、これを使っても俺はかつてのボロアパートに帰る事は出来なかった。どうやらこの地獄に生まれてからの年月は俺の意識を侵食するには十分だったようで、今では確かにこの巣穴が俺の家であった。

 だが、日本に帰れないとしても最悪人化だけは何とかしたい。俺は久方ぶりに巣穴の外をぶらつき、スキル奪取を使って大人たちのスキルを見て回った。


―――――――――――――


名前:ヌヌスヌス=メノノメノメ

種族:龍

年齢:234

スキル:なし


―――――――――――――


―――――――――――――


名前:マキサカ=スーパーソニック

種族:龍

年齢:330

スキル:なし


―――――――――――――


―――――――――――――


名前:オゥサ=マリュウ

種族:龍

年齢:839

スキル:なし


―――――――――――――


 俺は絶望した。一通り見て回ったが、龍にスキルを持っている奴などいなかったのだ。

 親にそれとなく聞いてみたところ、どうやら龍にとって重要なのは身体の強靭さと履けるブレスの威力のようで、スキルなんて言葉すら知らないようであった。

 恐らくだが、身体の頑丈さもブレスも、龍にとってみれば人間が呼吸するのと同じこと。実際のところは知らないが、ステータス欄に「呼吸」が出るとは考えにくいし、まあそういう訳であった。


 俺は再び布団に閉じこもった。



 ◆ ◆ ◆



 事態が動くのはそれから数年後であった。

 成人の儀を間近に控えた頃、俺が取り巻き(不本意)と共に散歩をしていると、俺と同じく白龍の少女(この頃になってようやく雄雌の違いが分かるようになった。そしてより一層瞳が濁った自覚があった)に出会った。すると、突如取り巻きがその子を罵倒し始めたのである。

 突然のことに瞳を白黒させる俺に、取り巻きたちは口を開いた。


「グウァグァ、ガゥグア!(ティーエ様、この女は不遜にもティーエ様の許嫁であるユシア様に近づいたんです!)」

「グァウガ、ガガゥグゥア!(今年の魔王役はティーエ様で決まったはずなのに、勇者役のユシア様を誑かして自分が魔王になろうとしたんですよ!)」

「グゥアウ……グア(そんな……私にそんなつもりは)」


 そして始まる昼ドラみたいな口撃。訳の分からぬ俺はただ見ているだけであったが(爬虫類の言い合いになんて割り込みたくない)、傍から見てると俺って悪役令嬢みたいだなぁ、なんて思ったりした。

ちなみに台詞だが、俺には本当にこのように聞こえている。意味の分からない鳴き声が聞こえ、その後意味のある言葉が直接頭の中にぶち込まれているのだ。


 口撃を受けた白龍の子が涙ながらに去って行った後、会話の中に嫌な予感を感じた俺は「魔王」について聞いてみると、それは今度行われる成人の儀で行われる儀式にまつわる単語であった。

 俺の生まれたこの龍の一族の始祖は、どうも勇者と魔王として分かれて戦っていた男女らしい。そして、成人の儀ではその世代一の美男美女で伝承の再現をするのが伝統らしい。んでもって、その時の男女は後に一緒になることが多いらしい。

 生まれてから何度も聞かされたこともあって聞き覚えのある伝承の話に「お前ら龍だったのかよ!」と言いたくなるがそれは置いておいて、それよりも重大なことがある。


 ―――どうも、今回の「魔王」は俺らしい。


 顔面蒼白――元々白いが――になった俺は許嫁について聞くのも忘れ、恒例となった布団ダイブによる現実逃避を行ったが、時間は無情にも過ぎ、成人の儀の前日、大人たちに連れられて薄暗いダンジョンの最奥部に放置された。

 そして、今に至るのである。



 ◆ ◆ ◆



「グルルルァーッ!?(こんなところに罠だとぉーッ!?)」


 遠くで微かに反響して聞こえる叫び声を耳から追い出し、俺は薄暗いダンジョンの最奥部で布団にくるまり微睡んでいた。


 あの後色々と考えた結果、「爬虫類のお嫁さんになるのは嫌だな」と思い、取りあえずダンジョンを運営して要塞化し、勇者役の何某さんを追い帰し続けることで持久戦を行う事にした。

 ぶっちゃけダンジョンと言ってもモンスターとかも居ないただの迷路で運営もくそも無いんだが、そこは俺の持つチートが役に立った。「帰還」スキルである。

 最初は普通に家に帰ろうと思い、実際に帰ったのだが、さびしがり屋で怖がり(どうやらずっと家から出ないでいた結果そういうことになっているらしい)な俺が勝手に帰って来てしまったと勘違いされ、優しげな言葉使いで諭され、再びダンジョンに放置されたため諦めた。

 で、どうしたもんかと色々試していたら、なんと帰還スキルを発生させる魔法陣を罠のように設置することに成功したのだ。


 現在、成人の儀が始まり数百日が経過した。一定時間でランダムに罠を再設置するシステムを構築し終えた俺は、度々聞こえる叫び声に邪魔されつつもひたすら無為に時を過ごしていた。

 元々1日で終わるはずの儀式を持久戦に持ちこんだため食料は何もないが、この龍の身体は少量の水で問題なく維持できるハイスペックさであり、ダンジョンの奥から湧き出る水で特に支障なく過ごせていた。

 また、百日が経った辺りでどうやら他の大人たちも参戦してきたようだが、俺の魔法に隙は無く、問答無用で追い返せていた。今では勇者役の何某がたまに挑戦しにくるくらいである。



 俺の目的はこのまま微睡んで過ごし、このままいつか来る“その時”まで眠り続けること。この世界で生きることも出来ず、かと言って死ぬ勇気も無く、というかこの強靭過ぎる身体がどうやったら死ぬのかも分からないため、ただひたすら夢の世界に逃避することを選んだのだ。









―――天を貫く山脈“龍の天嶺”に広がる人類未踏のダンジョン。その最奥部には神秘的な美しさを誇る白亜の龍が住んでいる。


―――彼女を見ることは叶わない。彼女の輝きに目を焼かれてしまう。


―――彼女に会うことは叶わない。彼女は穢れを嫌い岩戸に隠れてしまった。


―――彼女と話すことは叶わない。彼女は世に興味を示さない。


―――だが、もしも彼女を陽の元に連れ出すことが出来たなら……。





―――その時、世界の闇は晴れ、天から光が差すだろう。









 ここは天嶺のダンジョンの最奥部。美しき白龍の住まう微睡みの間。

 そこに、カツッ、カツッ、という靴音を響かせ、数百年、或いは数千年ぶりの来客が訪れる。


 来客は奥で微睡む白龍の姿に息を呑み、思わず手に持った剣を取り落とす。そして、その音で白龍はようやく金の瞳を微かに開く。





 これは遥か昔の神話の再来。或いは最も新しき伝説の始まり。


 何はともあれ、引きこもりの白龍が太陽の下に戻る時が、ようやく訪れたのだ。




テンプレートを重ね合わせて斜め下の結末を導き出したかった。

読み終わった後、苦笑いして「何か違う」と言ってもらえれば幸い。

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