決断の時
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凪から5週間後。
先日、名倉じぃと那由他が座っていた場所に今日は宮司が座っている。宮司と快晴にお茶を出してから深鳥がその場を下がろうとすると、
「済まないね」
宮司が呼び止めるように詫びた。
「いいえ」
深鳥が笑顔で答えると、宮司も安心したように快晴に視線を戻した。
深鳥が二階へ行く足音を耳にしながら、快晴は切り出した。
「今朝の観測結果ですが……大気中の放射線量の値がまもなく基準値を超えます」
急にその場の空気が重苦しくなる。快晴は意を決して宮司に進言した。
「世界政府の力を借りる必要があります」
間を置き、宮司が投げ返してきた。
「具体的には……どう考えている?」
「はい」と快晴は相槌を打った。
「都市のシェルター技術を導入するしかないかと。仮設的なものなら一週間あれば」
「……そうか」
宮司はしばらく沈黙し、深く息をついてから言った。
「列島に国無き今、千久楽は自然保護区として世界政府に直接保護される立場にある。もし千久楽を委ねることになれば、様々な調査が入るのは必至。貴重な環境資源として今後人の立入りを禁じられる可能性もある。……住人が戻れなくなるかもしれない」
宮司の見解に、さらに快晴が付け加えた。
「これを機に千久楽の住民に対する〈検査〉もあり得ます。政府の裏にArcも控えてるようですから」
「Arc……か」
宮司が呟いた。快晴は力強く言った。
「どちらにせよ、風が吹くのを待っていたら千久楽は人の住めない土地になってしまいます」
宮司は不意に立ち上がると、窓辺まで歩き、静止した外の景色を眺めた。
「とうとう――千久楽を開く時が来たようだ」
立ち上がる快晴に、宮司は振り返り、穏やかな笑みを浮かべた。
「快晴、これが待ちわびた終わりだろうか……口にしてみると案外静かな境地だ」
快晴は宮司の様子を見守り、首を振った。
「終わりというよりは、大きな方向転換かもしれません」
宮司と目線が合う。快晴は続けた。
「我々は侵略によってではなく、自らの意思で開くこと選びます……それが滅びとなるか、船出になるか、大切なのはこれからだと思います」
快晴の言葉に、宮司も納得したように頷いた。
「ああ、我々にはまだやることがある。先祖が守ってきた土地をそう簡単に手放すわけにいかない。祭もまだ…………そうだ、祭のことは名倉先生から?」
快晴は頷いた。
「春の奉納祭のように大風を呼びたいという年長組たっての意向でね」
一瞬、快晴の表情に影が差した。
「そのことですが……代役を立てることはできませんか?」
快晴の提案に宮司が驚いた表情をする。
「深鳥を祭に出したくありません」
宮司はすぐに快晴の心情を理解した。
「そうだな、こないだの風紡ぎの時のこともあるし……代役か……然青さんの家もこないだ隣町に避難してしまったし……全くの素人が今から練習しても――」
快晴と宮司が顔を見合わせた。
「適任者が」
「あ、ああ……出来なくはないかもしれん、が……」
その頃。避難先のシェルターで、聡が2連続でくしゃみをした。
「あれ…………風邪かな?」
聡の何気ない一言で、年長の老人達がこぞって世話を焼きだした。
「若ほら、マスク! 頼むがら移さねでくれ、な」
「んだ、誰かぽっくり逝っちまうから、な」




