不死
「怪物……」
そうつぶやいて、ソアラは那由他の袖をつかんだ。
「こいつら、一体どこから」
那由他はソアラを後ろに押しやる。
「タネもしかけも」
両手を上げ、レイヴンは首を振って見せる。那由他は舌打ちする。
「ちっ……ずっと囲まれてたってか」
聡が背中から矢を取り、ピクシーを追い払う。那由他もソアラを守りながら足で払った。
「……生きているのか?」
深鳥を腕に抱えながら、快晴も口元を押さえている。腐臭が辺りに充満している。
レイヴンは苦笑する。
「そう、かろうじて生きている。常にまとわりついて、私の血を欲しがっている」
「てめぇの血はそんなにうまいのかよ」
那由他は唾を吐く。
「死にかけのこの子らにとって、私の血は命の糧……なぜなら私は不死を得た人間だからだ」
快晴は息をのむ。
「不死……だって?」
「人は永らく不老長寿を求めてきた。その執念が長い時代を経て、ようやく一つの形を成した。……それが私だ。不死にあやかろうと誰もが私をあがめ、膝にすがりついてくる。この子たちのように」
思い出したおかしさにレイヴンは笑いだす。その声は洞内に響き合い、増幅される。
ソアラはきっと睨みつける。
「そんなこと! お前が神とでも言うの?!」
「……神、か」
宙を仰いだまま、レイヴンは笑いをかみ殺す。
「不確かなものを信仰するなど、私には理解できないな。君の中にもまだ神がいるようだが」
レイヴンは宙から何かを取り出す。ソアラが白カラスに預けたクロスだった。
「ケルト十字……これもずいぶん古い信仰だ」
手がひらりと動き、再びクロスが消えた。
「神を崇める清らかな心は、時に残酷に異教徒を迫害する。歴史の悲劇の多くは、そうした神への忠義によって引き起こされた。そして……神が世界を創ったなどという認識が、科学の進歩を妨げてきたのだよ」
レイヴンは高らかに手を掲げる。
「Arcが求めてきたもの。それは人の手による救済だ。理知の力こそ、我らが信頼に値する。人間をはるか未来まで確実に導くもの……人間の持てる技術で人間を進化させ、宇宙へ船出する。それがArcの方舟計画の要だ」
「はっ、ずいぶんな主張だな。慈善団体にしちゃ、やることが過激じゃないのか?」
那由他がピクシーをあごで示す。
「これもひとつの慈善事業だよ」
レイヴンの手がピクシーを撫でる。触れた部分がシュウと焼ける。流動的なピクシーはまとわりつくようにレイヴンの血を吸い始め、その体はほのかに赤みを帯びてきている。レイブンは吸われている腕をだらりと垂らした。しかしその指先は溶け落ち、血の気が全くない。
ソアラは目を逸らし、吐き気に口元を抑えた。
「そうだ。この子らがよく眠れるようにひとつ、昔話をしよう」
レイヴンはいびつなそれらの塊を慈しむように目を細めた。
「Arcの前身は、しがない大学の小さな研究チームだった。常識や倫理さえうとましく思い、狂おしいほどの好奇心に駆られ、まだ見ぬ法則を血眼で探す。例え世間の中傷にさらされようとも」
しかし、その純粋な研究心ゆえに、彼らは真剣に地球の未来を憂えていた。




