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風が廻る場所  作者: 飛水一楽
〈鳥籠の章〉
56/116

抜け殻

 *


「刀を持ち出しやがったか……」

 那由他は舌打をした。「バカヤロウが」

 聡は肩で息をしている。

「幾生さんが無理矢理ふんだくっていったんだ。こんなこと許されないよ!」

 

 揉み合った後、聡はすぐ快晴を追ったものの、みるみる引き離され、途方に暮れていたところを那由他に出くわした。那由他は那由他で、蒔に頼まれて快晴を探し回っていたらしい。


 聡は息を吐き出しながら頭を抱えた。

「自分が……情けない」

「逃げ足はやたら速いからな。俺だってあいつと舞で組んだ時、しょっちゅう逃げられたんだ」


 聡がはっと顔を上げる。那由他は聡の顔を覗き込む。

「時間がないって……すごい剣幕だった」

「時間?」

 那由他は腕を組んで、唸った。

「あいつが必死に、となると………やばいな」

「え?」

「あの娘に何かあった、とか」

「深鳥さん……?」

 聡の声が震えた。

「なんで…………深鳥さんに、何かあったって、どうして刀なんかを、なゆ兄!」

 聡は必死な表情で那由他の両腕をつかみ、揺さぶった。

「わかんねえ……くそ。けど嫌な予感がする」







 高台にある神社からは、まだ電車が出発していないのを遠目で確認できた。

那由他と聡は急いで駅に向かうことにした。ソアラたちなら何か知っているかもしれない。

 

駅に向かいながら、事の顛末を聞いた那由他は、ふぅと深く息をついた。

「間違いない。あいつだ」

「やっぱり……」

 聡は会合があった夜を思い出す。白い獣と見まがうような風神の装束を。

「あんな身のこなしは訓練してないとできないよ。なゆ兄かあの人かと……」

「お前の話だと、宮司があいつに何か指示した、ってことだろうな」

 聡がむっとした顔をしている。

「僕は何も聞いてないよ」

 那由他は聡の肩に手を置く。

「いや……なんか理由があるんだろ。それなりの理由が」

 

 ホームに上がった二人は、その場に立ち尽くした。


 ――誰もいない? いや……


 旅行鞄が二つ、ベンチの上に置かれていた。そしてその下に、黒面とブナの幹を削って作られた白い(ささら)が打ち捨てられていた。


 ――さっきまでドクターもソアラも、快晴もここに……


「神隠しにでもあったみたいだね」

 聡がぽつりつぶやいた。

「ああ……その神様までもぬけの殻だけどな」


 残された物を検分する聡の後ろで、那由他はきままに歩き回る。止まっていては何も考えつかない。


 ――こんな真っ昼間に、あんな不気味な姿で、物騒なもん持って、一体何を………


 那由他はぴたりと足を止めた。


 ――まさか、……………始末?

 

 その時、きれはしのような風が二人の間を抜けていった。硬直したままの那由他に聡はおろおろする。

「なゆ兄? どうしたの? ねえ……」

「見えた」

 那由他はごくりと喉を鳴らす。

「お前らの、学校――」

 途切れた続きを催促するように、聡が那由他の腕を揺さぶる。

「学校って、何?」

 那由他は遠くを見たまま、眉をしかめた。

「不法侵入者がいる」



 


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