抜け殻
*
「刀を持ち出しやがったか……」
那由他は舌打をした。「バカヤロウが」
聡は肩で息をしている。
「幾生さんが無理矢理ふんだくっていったんだ。こんなこと許されないよ!」
揉み合った後、聡はすぐ快晴を追ったものの、みるみる引き離され、途方に暮れていたところを那由他に出くわした。那由他は那由他で、蒔に頼まれて快晴を探し回っていたらしい。
聡は息を吐き出しながら頭を抱えた。
「自分が……情けない」
「逃げ足はやたら速いからな。俺だってあいつと舞で組んだ時、しょっちゅう逃げられたんだ」
聡がはっと顔を上げる。那由他は聡の顔を覗き込む。
「時間がないって……すごい剣幕だった」
「時間?」
那由他は腕を組んで、唸った。
「あいつが必死に、となると………やばいな」
「え?」
「あの娘に何かあった、とか」
「深鳥さん……?」
聡の声が震えた。
「なんで…………深鳥さんに、何かあったって、どうして刀なんかを、なゆ兄!」
聡は必死な表情で那由他の両腕をつかみ、揺さぶった。
「わかんねえ……くそ。けど嫌な予感がする」
高台にある神社からは、まだ電車が出発していないのを遠目で確認できた。
那由他と聡は急いで駅に向かうことにした。ソアラたちなら何か知っているかもしれない。
駅に向かいながら、事の顛末を聞いた那由他は、ふぅと深く息をついた。
「間違いない。あいつだ」
「やっぱり……」
聡は会合があった夜を思い出す。白い獣と見まがうような風神の装束を。
「あんな身のこなしは訓練してないとできないよ。なゆ兄かあの人かと……」
「お前の話だと、宮司があいつに何か指示した、ってことだろうな」
聡がむっとした顔をしている。
「僕は何も聞いてないよ」
那由他は聡の肩に手を置く。
「いや……なんか理由があるんだろ。それなりの理由が」
ホームに上がった二人は、その場に立ち尽くした。
――誰もいない? いや……
旅行鞄が二つ、ベンチの上に置かれていた。そしてその下に、黒面とブナの幹を削って作られた白い簓が打ち捨てられていた。
――さっきまでドクターもソアラも、快晴もここに……
「神隠しにでもあったみたいだね」
聡がぽつりつぶやいた。
「ああ……その神様までもぬけの殻だけどな」
残された物を検分する聡の後ろで、那由他はきままに歩き回る。止まっていては何も考えつかない。
――こんな真っ昼間に、あんな不気味な姿で、物騒なもん持って、一体何を………
那由他はぴたりと足を止めた。
――まさか、……………始末?
その時、きれはしのような風が二人の間を抜けていった。硬直したままの那由他に聡はおろおろする。
「なゆ兄? どうしたの? ねえ……」
「見えた」
那由他はごくりと喉を鳴らす。
「お前らの、学校――」
途切れた続きを催促するように、聡が那由他の腕を揺さぶる。
「学校って、何?」
那由他は遠くを見たまま、眉をしかめた。
「不法侵入者がいる」




