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風が廻る場所  作者: 飛水一楽
〈風車の章〉
4/116

廻りだす物語 *

挿絵(By みてみん)

illustrated by mariy





 宙を舞う 


 弧を描きながら 


 ゆっくりと落ちていく 


 どこまでも


 …… 

 

 最後に見たのは 


 青い青い空 


 眼の奥深くに広がる


   


 あなたは……………………ダァレ?




  *



 柔らかな風が前髪を揺らした。耳にはガタンゴトン、と遠く繰り返す電車の音。深鳥はうっすらまぶたを開き、辺りを見渡す。車内は明るさに満ちていて、電車はやっと地上に出たようだ。


 ――夢……?


 不思議な夢を、見ていた気がする。ここではないどこかに、誰かといたような……

 (あかつき)に染まる草波の中、すらりと佇む人。風にひるがえる黒髪。間近に深鳥を捕らえる、涼しげな眼……


 ――誰、だったっけ?


 名前を思い出そうとしたとたん、記憶は忽然と消え去った。吹いた風にさらわれてしまったかのように。

 深鳥はそっと溜息をつく。


「もう少し寝てていいよ。次の駅までまだだから…ふぁ……」

 隣に座る父があくびをしながら言った。

 次の駅、といっても、そこがもう終着駅だったりする。駅間がひどく長くて、ゆうに一時間はあると思える。


 乗車駅を出て、長い長いトンネルに入ってから、電車は一度も止まることはなかった。時折、薄明かりにぼうっと浮かび上がる駅がいくつか見えたが、どれもすぐ闇の中に溶けていった。電車はただ黙々と進み、単調な音のくり返しを聞きながら、いつの間にか深鳥はうたた寝をしてしまっていた。


 ゴトン。

 しばらくしないうちに電車が止まった。

「通過車両が参ります。少々停車いたします」

 アナウンスの独特の節が面白くて、深鳥はくすくす笑う。眠気はどこかへ行ってしまった。

「通過車両……貨物列車かな?」

 そう呟く父は、なにか思いついたように自分のひざを軽く叩く。深鳥は父の顔をのぞき込む。

「深鳥、見ててごらん」

 父が振り向きざまに椅子にひざを掛け、窓を閉めた。その途端、ゴーッという音と共に、互いの電車の間に圧力が生じる。

「ひゃっ」と深鳥は思わず声をあげた。窓のガラスがガタガタと鳴る。音が止んだ時には、片方の電車はすでに遠くに見えた。

「ハハハ。やっぱりびっくりすると思った」


 もう、と呆れ顔で母が見る。

「あなたね、深鳥は初めてのことばかりなのよ。いつも驚かせてばかりいて……ほんと悪ガキみたいなんだから」

「まあまあ。なぁ深鳥。いろいろ新鮮で素敵だろう?」

 深鳥は景色に目を奪われ、窓に張り付いている。


 電車は大きく迂回し、方向をわずかに変えていく。橙色の光が差した。

「次はーチクラ~チクラ」

 三人が電車を降りると、ホームの延びた先に温かな色の夕焼けが広がっていた。

 

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