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嵐神さまは願い事がお好き

作者: 邑上主水

 最近ほんとわけがわからない事ばっか続く。

 平和で静かな所が唯一の取り柄だったこの田舎町に物騒な通り魔事件が起きたり、突然アタシの妹が原因不明の病にかかったり。


 極めつけはアタシの目の前に居るこいつ。


「君が里奈?」

「そ、そーだけど」


 高校から帰ってきて、女っ気の無い我がへやの扉を開けた時に、そこにいた男。長髪の黒髪に、長いまつげ。透き通る雪のようなきめ細かい肌に整った顔立ち。一見女の子かと思ったが、どうやら男っぽい。

 ぶっちゃけカッコイイ部類に属すると思う。

 だけど、道端でこんなイケメンに声をかけられたのであれば、ときめいちゃったかもしれないけど、この状況からそんな気は微塵も起きない。

 

 知らない男が部屋に居た、ってだけでびっくりモンなのに、今アタシの目の前に居るこいつは、古めかしい単着物なんか着ちゃって、ぷかぷか浮いてるんだよ! イケメンが!

 いろんな意味で度肝を抜かしてつい「うぎゃぁぁぁッ」って叫んじゃった。慌てて二階に上がってきたママに言い訳するのが大変だったじゃないの。

 ……言い訳する必要はなかったな。


「やっと会えた! ご主人」

「ご、ご、ご主人?」


 空中であぐらをかいた体勢のまま、ふわふわとアタシの顔を覗きこむようにその男が言った。

 ご主人って何よ。執事か。アタシはアンタを執事として雇った記憶はございませんけど。


「いやぁ、マジで助かったよ。あの『急須』に閉じ込められて400年位経っちゃってさ。ご主人に出してもらえなかったらホントやばかった」


 急須なだけに万事休すね、などとふざけた事をほざきながら男がカラカラと笑う。

 一体何を言っているのかがマジで判らない。

 ポカンと口を開けてふわふわと漂う男を目で追うアタシに何かを思い出したらしく。ぽんと手を叩いて男が続けた。


「あ、御免御免、ご主人。僕、あの急須に封印されてた、嵐神命あらがみのみことって言うんだけど」

「アラガミノミコト……神様か何かをやられてるんスか?」


 アタシの頭はキャパオーバーのスポンジ状態だったから、そんなばかみたいな返しをしちゃった。でも、いかにもって名前じゃん。

 だけど、そんなアタシの言葉にアラガミさまは満面のえみを浮かべた。


「おぉ、流石ご主人! 飲み込みが早い!」

「お、おう、ありがとな」


 意外にも正解だったみたい。てか、なんという笑顔か。純真無垢なその笑顔に思わず抱きしめて頬ずりしたくなってしまったではないか。危ない。

 思わず男気あふれる返答を返してしまったアタシはどぎまぎしながら、アラガミさまに釘付けになってしまった。


「そ、それで、神様がアタシに何の用事ですか?」

「え? 決まってんじゃん。ご主人は急須から僕を開放した。僕めちゃうれしい。ンで僕、神様……」


 邪な欲望を押さえ込んだアタシの心境など知るはずもなく、華奢な指で1つずつ手差し確認するようにアラガミさまが確認しながら説明する。

 そして線が細い両腕を大きく広げ、ハグしてとでも言うのではないかと思ってしまったアタシをよそに、アラガミさまは最後の言葉を放った。


「ご主人の願い事3つ叶えてあげる。はい、何でもどーぞ」 


***


 これは何かのドッキリだ。家族の罠だ。ボーイッシュなアタシは彼氏ができずにもう高校3年。せめて最後の一年だけでもイケメンの彼氏とキャッキャウフフな高校生活を送りたいと耳タコで言っていたアタシを貶めようとする罠に違いない。フン、その手には乗らないもんね。

 両手を広げたまま、ぷかぷかと浮いているアラガミさまをジト目で見つめながら、その背中に糸がついていないかアタシは目を凝らした。


「あれ、願い事無いの?」

「……あなた、誰?」

「だから、嵐神命アラガミノミコトだって言ってんじゃん」


 ニコニコと変わらない笑顔でアラガミさまが言う。


「えーっと……アタシがあなたを急須から呼び出したから、願い事を3つ叶えてくれるの?」

「うん」


 未だ持って変わらない笑顔でアラガミさまが頷く。

 3つの願い事ーーー

 急須から呼び出した神様が願い事を3つ叶える……ってどっかで聞いたようなハナシだな。ええっと、なんだっけ。ほら中東辺りのペルシャとかそこらへんの。


「あ、信じてない?」

「ええ。ものすごく」


 ンな突拍子もない話、信じるほうがおかしいでしょ。

 少しさみしげな表情になったアラガミさまに心がちょっとチクチクしたけど、アタシを騙そうとしている家族のいたずらならば、容赦なく粗を探させていただきますわよ。


「ちなみに、だけど、なんで急須の中に閉じ込められてたの?」

「いやー、それがね。元康の奴が征夷大将軍になりたいって言うからさ、どーにかこーにかやってやったんだけどさ。なったら急に手のひら返して、寝てるところを陰陽師に……」

「ちょ、ちょっとまって。元康って……」

「あ、えーっと、征夷大将軍になった時は徳川家康って言ってたかな。知ってる?」


 なんともスケールが大きい話だ。そして今歴史の教科書にも載ってないヤバイ事を聞いた気がする。……本当の話だったら、だけど。

 でも、なんとな〜くこの神様がおっちょこちょいで馬鹿だということはわかった気がした。


「それで、アタシがその急須からあなたを助けた、と」

「400年も経っちゃってるのには、さすがにビビったけどね」


 一応辻褄は合ってる。昨日確かに、パパが集めていた骨董品の中にあった急須の蓋を開けた記憶もある。すごく古びた急須で、パパも江戸時代位からの年代物で、価値があるものだと言っていた。


「願いを叶えてくれるって言ったわよね?」

「うん。何でも良いけど、3つだけね」


 4つにしてとかはナシだよ。と付け加える。

 そうか。簡単じゃん。願い事を叶えられるなら、このおっちょこちょいな神様は本物で、無理だったら偽物ってことになるよね。

 今アタシが叶えて欲しい願い事。イケメンの彼氏が欲しいってのもあるけど、その前に……。


「妹の病気を治してほしいんだけど」

「え? 病気?」


 アタシの願い事は意外な物だったらしく、アラガミさまはきょとんとした表情を見せた。


「妹が突然原因不明の病気にかかっちゃって。何が原因なのか全くわからないんだけどさ。あなたが神様なら治してくれない?」

「ふむ」


 アラガミさまが難しい表情で腕を組み、なにやら考え込んだ。

 ほらみたことか。妹の病気を治すなんてできるわけがない。だって街のお医者様だって頭を抱えたほどの原因不明の病気なんだから。


「どんな症状なの? それ」

「症状? えっと……」


 アタシは妹の状況をアラガミさまに話した。

 馬鹿らしいと思いつつも、ほんの少し、この人が本当に神様であってほしいと思っていたのかもしれない。それほど妹の病気は処置方法も原因も判らない病だった。

 その症状が現れたのは一週間くらい前からだった。

 最初は身体の違和感だったらしい。それからその違和感がひどくなり、突然意識を失い倒れたり、心臓が押しつぶされるような痛みに襲われたりしていた。


 ストレスからくるものかもしれないとお医者様は言っていたが、そんなわけない。

 うちの妹は、マイペースでおっとりとして、姉のアタシが言うのもあれだけど、ぼーっとしている天然ふわふわ系の女子だ。ストレスと無縁の場所に居るといっても過言ではない。


「なるほどな。面白そうな話だね」


 えへへと笑いながらアラガミさまが言う。

 面白そうって、こっちは全然おもしろくないんですけど。可愛い妹が苦しんでいるんですけど!

 それが顔に出てしまったのか、アラガミさまが慌ててフォローを入れてきた。


「あ、御免。コッチの話。なんとなく予想はついたけど、実際にその子を見てみないと判んないな」

「……まだ帰ってきてないよ」

「うん知ってる。ご主人が帰ってくるまで色々見せてもらったもん」

「見せてもらったって……妹の部屋を覗いたの!?」


 変態だ! この神様変態ですよ!

 女の子の部屋を物色する、変態神様ですよ!


「す、少しだよ! でも安心して。俺の姿はご主人意外見えないから」

「いや、そーいう問題じゃないでしょ!」


 馬鹿だ、やっぱりこの神様馬鹿だ。馬鹿で変態でおっちょこちょいなイケメンだ。

 ……萌え要素満載なのに心がときめかないのはどういう事だろうか。

 その後、部屋で何を見たのか事細かく問いただし、シュンとなったアラガミさまとアタシは妹を探すことにした。


***


 僕には神通力がある。アラガミさまはそう言っていた。

 だったらその神通力で妹を治してよ、と言ったが、


「それは駄目。もし仮に一時的に僕の神通力でその子の身体が治ったとしても、『原因』を排除しないと何も変わらない」


 と返された。

 出来ないからって言い訳して、と思ったがマジな顔でそういうアラガミさまにやけに説得力があったので、その言葉を飲み込んだ。

 アラガミさまは「原因」と言っていた。原因ってなんだろ。


「つか、ご主人、あの箱は何!?」

「あれ? あれは移動に使う『車』という物よ。あなたの時代で言えば……馬みたいなモノかな?」

「クルマ? へぇ、400年経ったらニンゲンは不思議な移動手段を使うようになったんだね」


 目をキラキラとさせながらアラガミさまが鼻息荒く興奮している。

 アラガミさまの姿が他の人に見えないのは本当にありがたい。だって車に向かって興奮している着物を着たイケメンって超不審者じゃん。空に浮いてる時点で不審だけど。


「そんなことより、妹は何処にいるか判った?」

「あ、そうそう。あの山の麓にある社に居るね」

「社? 神社?」

「まぁ、そんなもんだよ」


 確かにあの山の麓には古びた神社があった気がする。だけど明らかに通学路とは逆方向だ。妹がそんな場所に用事がある訳はない。


「てか、何か知っているでしょ。あなた」

「え? あ~、まぁ昔良く聞いた話だしね。そういうの」

「良く聞いた……って?」


 アラガミさまは通りゆくクルマたちに夢中になったまま、上の空でアタシに返した。

 

「ご主人の妹の性格を聞いて、ああ、あれだなって」

「あれって何よ?」

「まあ、行けば判るよ」


 もったいぶってアラガミさまが言う。

 でもまぁ、なんとなく予想が付いているんだったら妹の病は治るのかも。

 アラガミさまへの不信感はなりを潜め、いつの間にかこの神様を信じている自分に驚きながらも、アタシ達は神社に急いだ。


***


 この神社はかなり昔からこの場所にあるらしい。再開発事業も計画されないほどの田舎町だから、ずっとそのまま残っていたんだろうけど、聞く所によるとおばあちゃんの子供の時からあったらしい。

 森の中にひっそりと佇む神社の鳥居。苔まみれで何か異様な雰囲気すら感じてしまう。


 そんな不気味な神社の社の側に確かに妹は居た。

 ボーイッシュなアタシと違って、ふんわりとした空気を漂わせているお姫様の様な妹。実に可愛い。

 そんな妹がこんな神社に一人でいるのはかなり違和感があった。


「裕美?」


 思わずアタシは妹に声をかけた。妹に感じた違和感が、この場所と合っていないミスマッチから生まれるものじゃなく、もっと違う何かに感じたからだ。

 アタシの声に気がついた妹、裕美がゆっくりと振り返る。

 ぼんやりと視点が定まっていない目。やっぱり何かがおかしい。

 だけど、その手に握られていた「それ」にアタシは釘付けになってしまった。


「……猫?」


 小さな猫。裕美が大事そうに抱えていたのは可愛らしい白い猫だった。

 なるほど。アタシはピンと来た。ウチの両親は猫が大嫌いだった。だから、拾った猫をこの神社に置いて餌を与えていた……というわけか。

 裕美がこの神社に来た理由がわかったアタシは思わず胸をなでおろしたがーーアラガミさまは違った。


「やっぱりね」


 いつものあぐらをかいてプカプカういているポーズでアラガミさまが険しい表情を見せる。

 予想があたっていた、とでも言いたげだ。


「どうしたの?」

「……あれは猫鬼びょうきだ」

猫鬼びょうき……? なにそれ」

「昔っから居る、物の怪の類だね」


 そう言ったアラガミさまが地面にゆっくりと降り立った。意外と身長が高かったのねアラガミさま。

 他のニンゲンには自分の姿は見えないといっていたが、裕美にはどうやらその姿が見えているようで、今まで見たこともないような形相で裕美がアラガミさまを睨みつけている。

 

「おい、猫鬼びょうき、何やってんの君」


 アラガミさまが、気だるそうにふらふらと裕美に近寄っていく。

 と、裕美が抱く猫が突然威嚇の声を上げ始めた。猫の鳴き声じゃない。頭に響くのは、恨みつらみが募ったようなじっとりとした声。


「誰だか知らないけど、この子は渡さないよ」


 それ以上近づくな。白い猫と呼応するように裕美もまた唸り声を上げ始めた。

 ーー怖い。

 何か得体のしれない恐怖にアタシは身がすくみ、一歩も動けなかった。


「……その子の心が移っちゃったからかもしれないけど、僕の怖さを忘れちゃったんだね」 

「近づくなと言ってるッ!」


 空気が爆ぜるような声が響いたと同時に、裕美がアラガミさまに飛びかかった。

 

「やめて裕美ッ!」


 アタシにはそう声を上げるしか無かった。

 だけど、アラガミさまは違った。


「大丈夫、ご主人。この子を傷つけるようなことはしないから」 


 風に乗って、アラガミさまの声がアタシの耳に届いた。

 どこか安心するような優しい声だった。子守唄のような落ち着く声ーー


 と、次の瞬間ーーアラガミさまの黒髪が逆立ち、その単着物が大きくまくれ上がる程の突風が起きる。辺りの木々が身を震わせ一斉に合唱を始め、大きな空気のうねりがアラガミさまの身体を包む。


「アラガミさまっ!」


 ついアタシは叫んでいた。これはあの猫の仕業なのか。だとしたらアラガミさまが危ない。

 だが、アタシの予想は大きく外れた。

 アラガミさまの周りを踊っていた空気が次第にアラガミさまの右手に集まり、そして、一筋の空気の渦がアラガミさまの細く綺麗な指から放たれた。


「……ウニャッ!」


 パシンという何かがぶつかり、飛び散った音が辺りに響くと同時に、猫の鳴き声が木霊した。

 猫の鳴き声というよりも、何か人語で猫のマネ声を言っているような。


 そして、ぽとりと裕美の腕から白い猫が落ちた。

 飛び降りた、という感じではなく、ぽとりとそのまま地面に落下したって感じだった。

 そして同じく、裕美はその場に崩れ落ちた。


「裕美!」


 アタシは裕美の元に走った。一体何が起きたのか判らなかったけど、倒れた裕美を抱きかかえ、怪我はないかアタシは必死に裕美の身体を確かめた。


「怪我は無いよ」


 静かにアラガミさまがそう言った。

 たしかに、裕美に怪我はなさそうだ。気を失っているだけなのか、静かに胸を上下させている裕美はさっきの恐ろしい形相からは想像出来ないほど穏やかな表情だ。


「裕美に一体何があったの?」

猫鬼びょうき。猫の物の怪だね。捨てられたこの猫の思念が妖かしを呼び寄せ、その体に憑依させたんだよ。昔からよくある話」


 猫の思念? 捨てられた恨み、ということかしら。

 地面に蹲ったままの白い猫をみながらアタシはそう思った。


「聞いた所ご主人の妹は、温厚な性格だって言ってたからね。波長があったんだと思うよ。猫鬼びょうきがもっとも好むニンゲンだもん」

「憑かれていた?」

「ま、そんなトコ」


 そう言って、アラガミさまは倒れた白い猫をペシペシと叩き始めた。


「おーい、猫鬼びょうき

「……ウニャッ!?」


 白い猫はまるで寝坊した子供のように飛び起きた。なんとも可愛らしい。さっきのアレが無かったらキュン死にしてしまうところだ。


「……アレッ、嵐神さま?」

「久しぶりだね、猫鬼びょうき

「アレレッ!? アタシどうしてこんな所に……」


 やっぱり、さっきアラガミさまが「忘れていた」って言ってたけど、今までのことが全くわからないらしい。小さな白い猫の頭に「?」マークが沢山見えるもん。

 

「君は多分あの子の心と同化しちゃったんだね。それであの子の身体にも影響を及ぼしてた」

「あの子……裕美ちゃん!」


 白い猫がキョロキョロと辺りを見渡し、アタシに抱きかかえられている裕美を見つけると、安堵の表情を浮かべた……気がした。


「危なかったよ。もう少しであの子は君に呪い殺される所だった」

「うぅぅう……」


 白い猫はやってしまった事の重大さに気づいたような雰囲気で、しょんぼりとうなだれてしまった。多分、人間に悪影響を及ぼす事を禁止しているとかそういうのがあるのかしら。


「ご主人、これでご主人の妹はもう大丈夫。猫鬼びょうきには後で僕が叱っとくから」

 

 白い猫の首を掴みひょいと持ち上げてアラガミさまが言う。


「ゴメンナサイ」

「……えーと」


 とてつもなく落ち込んでいる白い猫に思わず情が湧いてしまった。だって、ほらどんよりとしたオーラが放たれているんだもん。小さな猫から。


「ほ、本人も反省しているみたいだし、ほら、裕美も無事だったんだし、もういいんじゃないかな」

「えっ、本当ニャ!?」


 アタシの言葉に白い猫がうれしそうに目をまんまると見開いた。

 そ、そんなにアラガミさまのお叱りは怖いのか。いや、さっきのアラガミさまのあれから想像するに、とてつもないお叱りなんだろう。

 馬鹿とかおっちょこちょいとか口が裂けても言わない方良いな。うん。


「まぁ、ご主人がそういうなら……」


 仕方ないな。とアラガミさまが白い猫を地面に離すと、猫は一目散に逃げる……かとおもいきや、こちらにかけだしてくる。

 

「あの、あの、お願いがあるの!」

「お、お願い?」

「アタシ、裕美ちゃんとずっと一緒に居たいのニャ!」

「えぇッ!?」


 一緒に居たいって……妖怪のアナタと妹が? 

 いや、妖怪云々の前に、絶対無理。だってアタシの両親は猫嫌いだもん。


「……駄目?」

「いや、そのー……」


 そんな目で見ないで欲しい。アタシが可愛いモノに弱いのを知っているな。こやつ。

 そんなアタシを見て、アラガミさまがポツリと呟いた。


「ま、一回聞いてみればいいんじゃないかな」


 それもそうかもしれないな。

 ーーそう言うアラガミさまの表情がやけにニヤニヤしているのが引っかかりますけれど。


***


「おねぇちゃん、ママが飼っていいって!」


 うれしそうな声を上げながら、裕美が例の白い猫を抱きかかえてアタシにそう報告すると、喜びの笑い声を上げながら、廊下を駆けていった。


 あり得ない。

 アレほど猫を嫌っていたママがOKを出すなんて。匂いが嫌い、庭の畑にうんこするから嫌い。そう言っていたのに。


「……あなた何かしたでしょ」


 考えられるのはひとつしか無い。

 相変わらずアタシの傍らでぷかぷかと浮かんでいるアラガミさまにアタシは小さく問い詰めた。


「うん、ちょっと『説得』をね」

「説得?」

「それがご主人の2つ目のお願いでしょ? 僕知ってるよ?」


 頭の後ろに手を回し、ニヤニヤと笑みを浮かべながらアラガミさまが空中を泳ぐ。

 た、確かに2つ目のお願いはそれにしようかと思っていたけど。


「ご主人の考えていることは、なんかすぐ判る」


 なんか癪に障る。まるでアタシが単純みたいな言い方。


「ああそうですか。じゃぁ3つ目のお願いがなんだか判るっての?」 

「そんなもの判るわけ無いじゃん」


 馬鹿だなーご主人は、とアラガミさまがカラカラと笑う。

 こ、こいつ。天使の様な顔して憎たらしい。

 ーーあの神社でアタシに優しい声かけた時に少しキュンとした自分がアホみたいじゃない。 


「じゃあ、しばらく3つ目は言ってやんない」

「じゃあ僕もしばらくご主人につきまとう事にするね」


 アラガミさまはうれしそうにそう言った。

 400年もあの急須の中に閉じ込められていたんだ。外の世界が楽しくて仕方ないのは当然だろう。

 

 最近は本当に訳の分からないことばかり続く。

 小さな田舎町に住むアタシと、急須から現れたおっちょこちょいで馬鹿な神さまとの変な共同生活は始まったばかりだ。

ナツさんの童話パロに創作意欲を刺激されて作った作品いかがでしたでしょうか。

ヘタしたら長編になりそうな勢いのプロットになってしまった……。

お読み頂きありがとうございました^^

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― 新着の感想 ―
[一言] 嵐神←アラジン 急須←ランプ 成る程‼︎ こういうのを思いつくのが 書きて様の才能ですよね ‼︎ 恐れ入りましたm(__)m おっさん?な嵐神様も里奈ちゃんもいいコンビになりそう。妹思…
2014/07/19 16:02 退会済み
管理
[一言] アラガミ様がめちゃくちゃ可愛いっ!!ヾ(o´∀`o)ノ 台詞のいちいちにキュンとしてしまいました。 かっこいいおじさまだけじゃない主水さまの引き出しに、やられた!! 疑い深いヒロインも可愛…
[一言] ニャ――――ヾ('□'*)ノ――――ン にゃーも、猫かいたいのにゃ、猫嫌いなにゃーのおかーさん、説得して欲しいにゃ。 はっ。 わ、わ、忘れろにゃっっヾ(。。;(猫ぱんち …
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