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Flap  作者: くり
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過去

9話










「矢吹君…」





私はつぶやいた。







そして沈黙が続く。




それにこらえられなかったのか

町村君が私の耳元でささやいた。





「おい、なにやってんだよ。

挨拶とかしねーのかよー。」







町村君はそう言ったあと





「じゃっ!また学校でな!」






と言い捨て、隣の車両へと去ってしまった。





(町村君…。ありがとう。)






町村君は私に気を使って場を離れてくれたんだ。

よし、頑張らないと!








「矢吹君、おはよう!」






私は勇気を振り絞って声をかけた。







少し間が合いたが、矢吹君もおはようと返してくれた。








「それよりもいいの?彼氏?どっか行っちゃったじゃん。」







矢吹君は町村君が行った隣の車両を見ながら そう言い、座席に座った。







どうやら彼氏とは町村君のことらしい。







私は急いで訂正した。








「町村君は彼氏じゃないよ!学校の席がたまたま前後ってだけ!」










「…ふーん。そっか。」










……………。








やはり沈黙…。








話題話題!









「あ、あのさ!」







私が矢吹君に話しかける。



けど彼は ん? と言うだけでこっちを見てくれない。






それでも私は続けた。








「えっと…。矢吹君って兄弟とかいるの?」









「いるよ。二つ離れた姉が一人。」










「へぇ!お姉さんがいるんだー!

なんて名前なの?」









「美里。矢吹美里。」










「美里さんかぁ~。いい名前だね!」






私は笑顔でそう言い、彼の顔を見た。






すると彼はこう言った。









「そうかな?俺は嫌いだけど。みさとって名前。」








彼は怒っていた。









いや、怒っていたが顔は悲しそうだった。










「え、あ、なんかごめん…。」










「べつに大丈夫。」










そう言ったすぐあとに、電車は駅に着いた。








じゃあ、と彼は行ってしまった。










(あーもう!何やってんだ!私のバカ!)









心の中で自分を責めた。




でもどうしたんだろう。


お姉さんと何かあったんだろうか。









私の頭の中はハテナマークでいっぱいだった。












駅を降りて少し歩くと町村君が見えた。











「町村君ー!」










私は名前を呼びながら、町村君のもとへ駆け寄った。










「え?水谷?お前、なにやってんだよー!矢吹と一緒じゃなかったのか?」











「あー。…まあ、ちょっとね。」











町村君は私の顔をじっと見つめ











「ま、とりあえず学校行くか!」











と言って歩き出した。











「せっかくチャンスをつくってくれたのに申し訳ないね…。」






私は歩きながら町村君に謝った。











「はぁ?なんだよそれ!べつにいいし!てかそっちのほうが俺にとっても都合いいし!」










と町村君は言った。












「それどういう意味ー?」










「べつにー?なんでもなーい!」












「なにそれ~!まあいいけど。

それよりさ、町村君は好きな人とかいないの?」












「んー?いるけどー?」












「え!いるの!?誰誰?!」












「教えな~い♪」












「えー!じゃあどんな子?」












「んーっとねー。可愛いくて優しくてドジで天然で、見てるとほっとけなくて、守ってあげたくなるような子…かな?」












「へぇ~!うまくいくといいねー!」












「まぁね!水谷、応援してくれるか?」











「もっちろん!誰か知らないけど、すごい応援してるから!頑張ってね!」












「……おう。」












町村君は言った。





少しさみしそうに見えたのは気のせいだろうか?







そして私はこのとき何も気づいていなかった。




…私は何も知らなかったのだ。









何を?










それはまだ言えない。


















そうしている間に学校へ着いた。















10話



























「だーかーらー!サンタクロースはいないって言ってるだろ!?」












「だーかーらー!サンタクロースはいるの!!去年プレゼントもらったもん!」












「それはお前の親だよ!!水谷の親!」













「はぁー?そんなわけないし!!ちゃんとサンタの格好してたしー!」













「お前なぁ…サンタクロースがほんとにいないって小学生でも知ってるぞ?」












「私は今でも信じてるから~。」












私と町村君は登校中に

サンタクロースがいるかいないかで

ずっと言い合いをしていた。





サンタクロースいるに決まってるじゃん!ね?!















「だいたいさー。今時サンタクロースを信じてる高校生なんているか?」













「まだそれ言うー?だからぁー、サンタクロースはほんとにい………ん?」












私は話の途中で学校の昇降口に一枚の写真が落ちているのに気がついた。








拾ってみると、その写真には一人の女の人がうつっていた。






かなりの美女だ、と見た瞬間思った。






目はぱっちり二重で

鼻はすっと高く、ほんとに美しかった。







綾芽もかなりの美形だが、いい勝負だ。







その人は制服を来ていて、名札がついていた。

目を凝らして見ると














………ん?











矢吹?





え?









……確かに似てる。





美形具合といい、なんか雰囲気が。








そう、矢吹翔に似ているのである。








私は、もしかして、と思った。







頭の中で混乱していて

町村君のことをすっかり忘れていた。









「おい。どうした?なんか怖いぞ。」











そう町村君に言われて

はっとして









「あ!ごめんごめん!教室行こっか!」











そう言い、写真をこっそりと制服のポケットへ入れた。















ーーーーーーーーーーーーーーーー












「なに?話って。」










昼休み。


私は矢吹翔を屋上へ呼んだ。






朝の写真のことだ。











「ごめんね、急に呼び出したりして!…あのさ、これ、今朝拾ったんだけど…もしかして…って思って。」











そう言いながら、私は彼に写真を見せた。










その瞬間、彼の顔は険しくなり


勢い良く写真を取った。




やはり彼のお姉さんの写真だったのだ。























「…この前さ、美里って名前好きじゃないって言ってたじゃん、俺。」










彼はこっちを見ないまま話し始めた。










「俺さ、姉貴のことずっと軽蔑してたんだ。ちょうど一年前に姉貴が仲良かったクラスメイトを自殺へ追いやったって噂されてて。」









彼は続けた。








「そのとき俺は姉貴よりも噂をことを信じてしまった。あの日からずっと姉貴を軽蔑し続けた。後になってそれはただの噂だって分かったんだけど。」












そこまで言うと、彼の顔がこちらへ向いた。

そして彼はかなしい笑顔を見せ、こう言った。











「俺は姉貴を信じてやれなかったんだ。」












彼はまた違う方向へ顔を向けてしまった。












「最悪だよな…最悪な弟だよ。」












彼は泣いてはいなかった。



が、声は震えていた。













「そんなことないよ。」











私は言った。そして微笑んでこう言った。












「矢吹君、辛いのに話してくれてありがとう。私でよかったら、これからも話聞くよ?」












「…水谷。ありがとう。」











彼の本当の笑顔が見れた瞬間だった。








(久しぶりの矢吹スマイルGET!)






と気持ち悪いことを考えてながら、頭の中でガッツポーズをしてしまう自分。











それから昼休みのあいだ、

私は二人で屋上でしゃべり続けた。








幸せな時間だった。












この幸せがずっと続けばいい






そう思っていたー……









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