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Flap  作者: くり
3/13

接近

5話






「へぇ~♪そんなことがあったんだ。」







私は、学校に着くとすぐに綾芽に朝のことを話した。






「なんかさー。思うんだけど、矢吹翔君って噂通りの悪い人じゃないんだよね。目が合っても死なないし。」





「まぁ確かにね。噂はあくまで噂だし、美麗が会った矢吹翔が本当の矢吹翔なのかもね。」







「そうだよね!・・・なんか、嬉しいな。」








噂とは全く違う人だったことと、なにより私に本当の自分を見せてくれたことがすごく嬉しかった。









キーンコーンカーンコーン









チャイムがなり、綾芽と別れた。








教室へ戻り、自分の席についた。





「水谷、おはよう。」






「あ、町村くん。おはよう!」







町村君は、高校で出来た私の初めての男友達。名簿が前後だから、席も私の前で、よくしゃべる仲になった。






「水谷って頭いいんだっけ?」







「え、そこ聞く?っていうか私が補習呼ばれてたの知ってるでしょー!?」







「あーそうだったそうだった。なんか、ごめんね、いやぁなこと聞いちゃって。」






「あ、わざとらし~!」








「え?わざとだけど?」







「うわ!ひどっ!」








そういって、お互い笑い合った。




いつもこんなかんじ。


町村君にばかにされて、私が怒って、それで笑う。







町村君はなんか他の男の人とは違ってて、話しやすい。








よくしゃべる男の人は町村君ぐらいだ。













「なぁ水谷ー。ずっと聞こうと思ってたんだけどさ。水谷って彼氏いんの?」







町村君がなぜか真剣な顔で聞いてきたので、私は笑って答えた。






「彼氏なんているわけないじゃーん!だいたいよくしゃべる男の人っていったら町村君ぐらいしかいないもん。」









私はそう笑顔で答えた。









「ふーん。じゃあ・・・好きな人は?」










好きな人という言葉が耳に入ったとたん、私は反射的に動きを止めていた。











「え!いんの?!?!」











町村君が私の様子に気づいてすかさず聞いてくる。










「な、何言ってんのよ!いないに決まってるじゃない!」








私は必死になって言い返した。









「・・・ふーん。そっか。」











なんとかごまかせたようだ。










(はぁ・・・。)







ため息が出てしまった。






(町村君だったら言っても大丈夫な気がするけど・・・)









なんだか実感がわかない。








矢吹翔は私にとって


"好きな人"


であり


"初恋の人"




でもあるのだ。








そう思ったと同時に




矢吹翔の存在が私の中でどれほど大きくなっているのか思い知らされたのだった。










そのとき









教室がざわざわなりはじめた。







みんな一つの方向へ向いている。



教室の入り口のようだ。






私も気になってその方向を見た。









なんとその先には








矢吹翔がいた。







6話








矢吹翔は4組。





私は1組。









なぜ彼がここに?









頭に浮かぶのははてなだけ。







すると、彼が私のほうへ向かってきた。




私の前までくると彼は言った。







「ねぇ、これって水谷のじゃない?」






彼は見覚えのあるくまのキーホルダーを私に見せた。





私はあわてて自分のリュックを見た。





ついてあったはずのくまのキーホルダーがなくなっていた。






そのキーホルダーは彼の手の中にあった。






「確かに私のだ・・・。」








「やっぱり?良かった!下駄箱のところで拾ったんだよ。」





「ありがとう!」









「それ、はずれやすくなってるから気をつけてね。じゃあ。」







彼はそういって、みんなの視線をあびながら教室からでていった。








その瞬間







みんなが私の周りにギャーギャー言いながら寄ってきた。







「矢吹翔とどういう関係なの?!」








「おもいっきり目が合ってたじゃん!」






「もしかして付き合ってるの?!」










いろんな質問がとんでくる。





その日の朝は、いろんな誤解を解くために必死だった。














キーンコーンカーンコーン











「はぁ・・・やっと終わったー!」






最後の授業が終わり、帰る準備をした。








「今日は大変だったね~。」






前の席の町村君が笑いながら言った。







「ほんとだよー。もう朝の時点で全体力使い果たしてたもん。」





私がため息をつきながらそう言うと、町村君は笑った。





「お疲れ様でした~。

で、ほんとに矢吹翔とはどういう関係なんだよ?」






「もう!町村君までそれ?!その質問、聞き飽きた・・・。」






「どーなんだよ~?」








「だーかーらー!なにもないって!たまたま電車が一緒だったときにちょっとしゃべっただけ!」








「ふ~ん・・・。」







「なによ、その顔。」







「べつにぃ~?なんでもないけど~?」








「絶対なんかあるでしょ!」








そう言って、二人で笑った。














 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄








あー、もうすっかり暗くなっちゃったなぁ。








校舎の窓から外を見ると、空は真っ暗だった。





私は、今日日直だったため、居残りさせられて、雑用をこなしていた。




もう校舎には生徒がいない。





そろそろ帰ろうと思い、1組の教室から出ると、4組から音がした。









(誰かいるのかな?)








私は4組へと足を進めた。








すると




「矢吹君!」








そう。そこにいたのは矢吹翔だった。











「水谷・・・。水谷も日直?」








「うん!

'も' ってことは矢吹君も?」









「そうなんだよ。雑用任されちゃってさ。」










「私もだよ。」










「ひどいよな。

あ・・・。あのー、水谷。今日の朝は悪かったな。」







急に謝られたので、びっくりした。







「え!なんで謝るの?むしろ嬉しかったよ!あのキーホルダー、大切にしてたから・・・。」





あのキーホルダーは綾芽にもらったキーホルダーだった。







「そっか。なら良かったけど・・・。俺、いろんな噂立てられてるじゃん?」




話している彼の顔は、とても寂しそうだった。



彼は続けて言った。






「だから・・・もう関わらないほうがいいよ。いろいろ迷惑かけるし。じゃあな!」







彼はそう言い捨てて、教室から去って行こうとした。






私は反射的に彼を止めていた。




彼の腕を掴んでいた。




初めて出会ったときの彼のように。










「・・・待って。」







私の声は震えていた。







「私、矢吹君のこと迷惑だなんて思ってないよ!話す前は噂信じてたけど、ちゃんと話して本当の矢吹君を知ることができた。」





もう自分でも何が言いたいのかわからなくなった。



でも、伝えたかった。







「ありがとう。」






「私に話しかけてくれてありがとう。」





「笑ってくれてありがとう。」






「メロンパンのかすをとってくれてありがとう。」








「私の名前を'いい名前'って言ってくれてありがとう。」







「キーホルダーを拾ってくれてありがとう。」










「・・・たくさんたくさんありがとう。」







私は、もういっぱいいっぱいだった。




なぜか涙もでてきてしまった。




夢中になって言ってしまったから


はっ と彼の顔を見た。








彼は笑っていた。



そして私の頭をポンポンとなで、







「ありがとう。」








最高の笑顔で言ってくれた。








そう。そうだよ。



私はその笑顔が見たかったんだよ。





あんな寂しそうな顔なんか見たくなかった。







(私に笑顔をくれてありがとう。)









私は心の中でそう思い、彼をもう一度見た。





やっぱり彼は笑っていた。







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