金曜日
ピンポーン…ピンポーン…ピンポーン…ピンポーン…ピンポーン
鳴り止まないインターホンの呼び出し音に陽子は思わずドアを開けた。
玄関には黒いワンピースの女が立っている。
ノグチトシコだ!
陽子の直感がそう告げた。
ノグチトシコが叫びながら陽子に迫ってくる。
「なんであんたがここにいるの!」
「私の家を返せ!!」
「早よ出ていけ!!!」
ノグチトシコの持っていたゴミ袋が投げられ、陽子に直撃した。
中のゴミが飛び散り、陽子の顔にも何かの液体がかかる。
「もう止めて〜!!」
陽子は頭を抱えながら叫ぶと目を覚ました。
夢かぁ…。
服が汗でぐっしょりと濡れている。
陽子は濡れた服を着替えた。
その後はいろいろなことが頭をめぐり、結局ほとんど眠る事が出来なかった。
「行ってらっしゃい…。」
朝になり、陽子は和成を送り出した。寝不足で頭がぼぅっとしている。
少し休もう…。
雨戸を締め切られた薄暗い部屋の中で陽子は思った。
昨日の洗い物と、部屋の片付けは和成がやってくれたようだが、とりあえず詰め込んだ感じで、いつもの場所に片付けられてないのが気になったが、今は少しだけ休もう。
拓人の朝食が終わると、お気に入りのディズニーのDVDを見せて、陽子はソファーに横になった。
ピンポーン…ピンポーン…ピンポーン…ピンポーン…
インターホンの呼び出し音が鳴り響いている。
陽子は今朝の夢の事を思い出し、とても出る気分ではなかったが、そっとモニターで外の様子を伺った。
美和子だった。
「美和子さん!」
「あぁ…、良かった。無事なのね。今朝和成さんから様子を見て欲しいって頼まれてたの。お話できる?」
「はいっ!」
陽子はすぐにドアを開けた。
ガチャリ!
えっ…?
外に出た陽子は目を疑った。
そこには誰もいなかった。
えっ…、美和子さん…?どうして…?
と、考える間もなく、陽子の目に異様な物体が飛び込んできた。
黒い塊が門の内側に落ちている。
少し前まで命を宿った物だったのだろうが、今は赤い水溜りの中で、黒い肉塊となっている。
陽子の脳裏に昨日の葵の言葉が蘇る。
「うちの庭に猫の死骸が投げ込まれてから…。」
「猫の死骸が投げ込まれてから…。」
「猫の死骸が…。」
「猫の死骸が…。」
「死骸が…。」
「死骸が…。」
葵の言葉が陽子の頭の中を葵の言葉がグルグル回っている。
「いやぁ〜!!!!!」
陽子はリビングに戻ると、タオルケットを頭からかけ、震えていた。
「…子!」
「……ちゃん!」
「陽子!」
「陽子ちゃん!」
放心状態だった陽子は誰かの呼ぶ声にようやく目を開けた。
そこには和成と美和子がいた。
「良かった。美和子さんから何度インターホンを押しても返事がないって連絡があって、急いで帰ってきたんだよ。」
「陽子ちゃん…良かった。ゴメンね、ゴメンね…。」
2人の存在に安心したのか、陽子は和成の胸に顔を埋め、泣き出した。
「心配かけてゴメンね…。でも今はここにいたくない。少しでも早く他の所に行きたい。」
「分かったよ…。じゃあ少し外に行こう。」
「私の家でいいかな?」
美和子の提案に陽子は同意した。
3人は拓人を連れ、玄関へ向かったが、陽子は玄関のドアの前で2人に訪ねた。
「猫の死骸がなかった…?」
「猫の…?何言ってるんだよ。何もなかったよ…。」
和成の言葉に美和子も同意する。
2人に連れられて外へ出た陽子は意を決して目を開けた。
そこには何もなかった。
さっきのも夢だったのか…。
だんだん夢と現実の境が曖昧になっている気がする。
?!!!
陽子は道の向かい側にの電柱の影に誰かがいるのに気づいた。
ボサボサの茶髪に黒いワンピース!
表情は見えないがじっとこちらを見ている!
「あそこにノグチトシコがいる!!」
陽子の叫びに和成と美和子は振り返るが、混乱した様子で顔を見合わせた。
「誰もいないよ…。陽子…、大丈夫やから…。」
2人には見えていないのだろうか?
「そこにいるじゃない!何でみえないの!」
陽子の叫びに2人は困惑するばかりだ。
陽子には確かに見えている。
ノグチトシコはずっとそこに立っている。ボサボサの茶髪に黒いワンピース。手には黒い肉塊をぶら下げている。一瞬こちらを見てニヤッと笑った気がした。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
陽子は叫び、気を失った。




