Drop・0
小説家を目指しています。良かったら批評や感想など下さい。
――七月九日、近所で行われた、夏祭りの帰りの出来事だった。
自宅方面、南西の空がほんのり紅く染まっていた。夕日の時間にしては、もう遅すぎるはず。と言っても正確な時間はわかっていないが、祭りが終わったのは夜の九時ごろ。最後まで遊んでからの帰宅と考えれば、現在がどんな時間かは安易に想像できた。
じゃあ、あの光は何なのだろう。その答えは、少年が目的地である自宅へたどり着くのと同時に明らかとなる。
溢れんばかりの人だかり。真っ赤な消防車が、それ以上に真っ赤になってしまった自分の家に、水を掛けている。
状況が理解できなかったが、徐々に呑み込んで行く。火の独特な鼻を刺す嫌な臭い。燃えているのは自分の家。家には、母親が一人――。
きっと逃げている。そんな淡い期待も、すっかり見物客と化していた野次馬の一言でかき消された。
「ここの奥さんが一人、逃げ遅れたらしいわよ」
誰に話したかは定かではない。そもそも、誰かと話しているかすらも定かではない。ただ、少年を混乱に突き落すには十分すぎるほどだった。
少年は、泣き、声にならない叫びを上げた。
手に持った射撃の景品。童話〝赤ずきん〟や〝三匹の子ブタ〟では嫌われ者でお馴染みの動物。狼のお面が地へと落ちた。それすらも気にならないくらいに。
火は消防による決死の消化活動と偶然に降った雨によって完璧に消し去られ、残ったのは木造だった自宅が黒い炭と化し、見る影も無いガラクタだった。
ただ、泣き叫んだ――
※
少年は、一日で涙を流すことを止めた。少年にも守らなければならない者がいたからだった。
――妹。この世で、血の繋がっているただ一人の人間。母がいなくなった今、彼女を守れるのは自分だけ。
六歳の少年の心に、重い思いが刻み込まれた。
雨に濡れ、人に踏まれ。焼け跡の近くにあった狼の面は、ぐちゃぐちゃだった。