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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

クリスマスしよう。地球が回り続けるから。

作者: 紅月

 イルミネーションがまぶしい。スーパーのお惣菜に並んでいる鶏肉が食欲をそそる。ああ、ケーキも食べたいなあ。ああ、今年の冬も寒い。

 むしゃくしゃしてきた。むしゃくしゃを晴らすべく男は外へ出て行った。


◆◇◆◇◆◇◆


 道を歩いていた彼女はため息をついた。別に、幸せそうな親子連れやカップルがうらやましいわけではない。むしろ一人身で好きにできる。少しのつまらなさはあるものの、縛られないことの方が大事だと、彼女は考えている。

 ああ、死にたい。彼女の思考に浮かんでは消える。

 呼吸するかのように出てきた思考に違和感はない。いつごろからかは忘れたが自然と出てくるようになった。

 生きることに苦労せずにいられたころ、具体的には学生に戻りたい。

 中学生の時は高校を選ぶことができなかった。

 高校生の時は大学を選ぶことができなかった。

 大学生になって、きっと就職先も選ぶことができないだろう。

 とにかく選ぶことができなかった。

 欲がない、とよく言われた。彼女にしてみれば的外れだ。空っぽなのだ。

 確かに彼女は人に比べて欲はない方かもしれない。だが、彼女は考えを持たない。自分の意思を持たない。他人の考えに追従し、他人の意志に従う。反発する考えはあるかもしれない。それを表に出す意思は持たない。

 沈黙は金。黙すればいい。何も言ってはいけない。それは彼女の中で決められた動かないルール。

 自殺をする勇気を持たない彼女は人形のように動き続ける。

「あー。今日バイト終わったらケーキとチキン買って帰ろう」

 せっかくのクリスマスなのだ。これくらいの贅沢は許されるだろう。

「願わくば、聖なるこの日に世界が滅亡しますように」

 中二臭い。自嘲しながら彼女はバイト先へ向かった。


◆◇◆◇◆◇◆


 すっかりに手になじんでしまった真っ黒な凶器。

 暗くなり、もうすぐ日が変わる時間になってしまった今、この道を通る人はあまりいない。それに今日はクリスマスなのだ。多くの人は家の中にいるだろう。

 男は口ずさみながら歩いていく。前に見えているのは一件のコンビニ。

 こんな日に店番なんてさぞ寂しかろう。今からプレゼントを届けに行ってやる。

「赤い服着て白いひげ生やした爺からのものじゃねえがな」

 男は唇をゆがめる。これを笑みだというのならば、世の中の笑いの定義の幅はかなり広いことになる。


◆◇◆◇◆◇◆


 バイト仲間と適当に会話する。まあ、相手は彼女が欲しい今どきの大学生。彼女はアニメや漫画などの知識しかない。

 しかし、彼女は自分のオタクと称すことはしない。自分程度がオタクを名乗るなどおこがましい。真のファンに失礼だと考えているからだ。適当に相槌を打ちながら聞き流す。

 あのアイドルがどうだ。あの新曲がいい。何を言われてもどうでもいい。

 早く、考えずに生きていけるようになりたい。

 彼女は今日も無心に働き続ける。眠るように痛みを感じず死ねることを願いながら客を迎える。それがこの日最後の客で、彼女にとっても最後の客だった。

 入店直後にばらまかれた銃弾がいくつもの穴を体にあけた。

 彼女より奥にいたバイト仲間はかすり傷で済んだようだ。反射神経がいいなと倒れながら思った。そのまま逃げていくバイト仲間を責める気はなかった。撃つだけ撃って去って行った男もどうでもよかった。

 思ったよりもずっと痛くて、思ったよりも突然だったけれど。

 彼女は確かに自身の死を感じることができたのだから。

短編あとがき。

 約一年ぶりになります。

 お久しぶりなかたはお久しぶり。初めましてなかたは初めまして。

 地球滅亡もなかったので短編をあげました。

 クリスマスとは全く関係のない内容になっています。

 長編のプロローグとして考えてたんですが、そのあとの内容が全く思い浮かばなかったので短編で終了です。

 それでは皆様よきクリスマスを。

2012.12.22 紅月

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