接触。そして模擬戦
五年目の始まりにクラス内で模擬戦が行われ、教師の監視下で学校支給の武具を使用し、魔導士同士で戦った。
闘技場のように広い訓練施設は今までより数倍広く、魔法国家アウスリケアの魔導士育成の方針を裏付けていると自分に悟らせる。…――魔法は武力。強い魔導士は国の要
自立した魔法国家だが国の規模としては小さく、戦争が勃発すれば少数精鋭で勝利しなければ待つのは悲惨な運命。つまり他国に絶対舐められてはならない。先ずは一時災害の回避
戦争になれば魔導士の中でも専門の戦闘職は先陣切って戦地に放り込まれる。
残る研究職、技術職は出来る限り後回しにさせるので…いかに戦闘職の魔導士に強さを求められているか理解頂きたい
さて、
模擬戦に関してだが長杖か杖か木刀しか選べなかった。殺傷力を抑えた武器を使え、と。そういう事らしい
儀式用の用途には短剣か中型の剣だが木製の短剣じゃ武器にもならないので学校側は木刀を加えた。
選ぶ者は毎年一割いるかいないか程度。その多くは国外の出身者
担当教師が対戦相手を選び、炎専攻者には水専攻者、近距離戦も含む木刀選択者には同じ木刀選択者といった具合に能力の釣り合いを見て選ぶのか
〈…あーυ〉
ロード・グリュヒュンデこと自分の試合相手はアーヴァイン・クラナルド
あの夜会った留学生の青年
今までに数える程度に手合わせした経験があった
◆ ◆ ◆
競り合う木刀。
【ギギ】
まるで悲鳴を上げるように力の拮抗に擦れ、ぎちぎちと互いの手元で鳴り
野性味を帯びた褐色の男。青銀髪の下の整ったパーツが歪む。
一向に攻めないこちらに苛立っているのか。威圧感が増した顔が獣のようで、とても艶やか
『』
私は競り合いの最中だと言うのに気付いた時には、相手には旋毛を見せる形で、忍び笑っていた。
《魔導士たるもの物事の深層と表層を見ろ。そして理性と知性に尽くせ。》
つまり省略すると間違っても王侯貴族の皮の良さに惑わされてはならない、との教えは何ら己を縛らない。目の前の青銀の鋭く貫く双眸が苦渋に歪めばいい
急激に手の力を抜き、太刀筋をズラすと
巻き取るように右回りに木刀が弧を描かせる。その動作に連続して足を勢い良く振り下ろし、全体重で男が木刀を振る術を奪い取る
「そこまで!」との教師の言葉に、相手の喉元から首にかけて当てがった木刀を静かに下ろした
壇上から円を描くように設置されている観客席では同級生が模擬戦を眺め、暇な上級生の姿もチラホラと見える。…賭をしていたなら損した人間は多かったろう。残念。
対戦相手はコチラを一瞥すると、逆方向にある出入口から出て行った
精霊の加護持ち3人と黒髪1人と異例な年だけに観客は多かった筈。
上級生の担当教師、それに媒体を通して見物していた国内の魔導士は勿論、帝国の上層部とて含まれているので他国で出世したいなら、今回のような公開模擬戦で結果を出すといい。野心と金と血にまみれた鉄臭い薔薇色の人生が送れるに違いない。
〈…〉
壇上から下りて、通路がある観客席を通るなり拍手が聴こえて、振り返ってみれば蝙蝠が飛んでおり、日常において年に1度見るか見ないかのソレに礼をした
《相変わらず努力家だな、お前は。見事だったぞ》
『ありがとう、父さん』
低い男の声に返答を返す声は出来の良いの娘のように聞こえる。研究所所長の肩書きを持つ今回の父親は幼少期から家におらず、同じ町に住んでいるというのに顔は2、3年に一度合わせる程度。余程仕事が好きなのか、それとも……母に愛情が無いのか
『』
何にせよ冷めた家庭だ失笑した。一番哀れなのは母である。
自分は成人したら父に貴族の嫁として売られるかも知れないので学校卒業と同時に他国に出た方が安全だと実は判断している。
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