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お宅訪問は下層の自治集団(ギルド)

すれ違った傭兵は見上げるほどに大きい


胸板は厚く、木の幹のように太い腕


幾度も傷の入った日焼けた琢磨しい肌


魔物、賊、時と場合によっては同業者と争い闘い、鍛え抜かれた鋼の肉体


ほとばしる汗が男臭い


そんな巨漢な男衆が酒場の入り口看板を越えた先で、各自テーブルについて騒いでいるんだから此処は男の世界である


「行かないの?」


君は慣れてたと思うんだけど、との含みを青年の張り付いた笑顔に感じる。端正なその横顔は既に内部へと向いて


自分とて臆しているのではなく、…何となく昨日の事のように傭兵業を懐古していただけ…。………視覚的なムサさは何処も変わらないが


『行こう』


魔導士の国と言えど酒場に学生が来たら…――風景からは微妙に浮く


既に店内からの視線を徐々に集めていたが気にせず、カウンターで樽を担ぐ坊主頭の中年男性に声を掛けた


『シャーセスはいますか?


同じクラスのロードです。プリントを預かって来ました』


「ん?、ああ、(セガレ)なら奥だ」


逞しい体躯で酒樽らしくチャプチャプと水音のするそれをカウンターの奥に下ろすと、店主は店の奥を指差した


ロードとレベロは顔を見合わせ、行こう、と互いに頷く


二人の学生が暖簾をくぐり奥へ歩く中、同級生の訪問に親父は「構えなくて悪いな」と朗々と笑った



〈……?〉


その顔は息子が学校を無断欠席していると知っている風でなくて、黒髪の人物は通路を進みながらも消えない疑問に軽く後ろを振り返った




◆ ◆ ◆




「…俺、死ぬかもしんねぇ…」


「短い付き合いだったけど楽しかったよ、シャーセス。


ありがとう。君に感謝しよう」


「…|||」


幽鬼のような顔をした同級生は布団を頭から被り直し、それきり黙り込んでしまった。これは駄目か。本当に洒落に為らない状態らしい…と傍目に判断して、学生用の質素なローブを頭から被った黒髪の人物は、シャーセスに宛てられた課題用の紙束を台の上に置いた

学校を休んでいる間も魔導具制作は欠かさなかったのか、2メートルほどの台は工具と素材の破片で散らかっている。表はギルドなので傭兵へ売る物を何かしら作っていたのか?と勝手に予測


「……それで、一体何があったのかな」


君からも何か言ってよ、といった水色王子の視線に、そもそも二人で会話を進めだしたのは君らだからと肩をすくめる


黒髪は本人から見えない位置なので軽く笑っていた



「見ちゃった……||」


蚊の鳴くような声で体の小柄な若者震える


『何を?』


ようやく自分は口を挟んだ


蓑虫のように布団に丸まった相手がごそごそと動き、布が擦れた。……ベッドからいかがわしい本が落ちたよ?。見ていいよね


台に寄りかかるように雑誌を開いた。


同級生を挟み、窓に近い位置にいたレベロ


ボソボソと語り出す毛布の塊



「その日南西部の転移装置をくぐって、郊外の森にいたんだ…。」


〈その日っていつだよ。戸惑うから。自分にしか分からない言葉で話すのは止めなさい…〉


元日本人は内心突っ込みを入れつつも、流し読みする女体の写る成人誌から離れない視線


「時間的には研修後の休暇中。


…俺、


新しい魔導具、もっともっと……実用的なの作ろうと思って、とりあえず工房と図書館を往復してたけど素材が足りなかったんだ。それで森で穴熊から皮を剥ごうとして…―――」


基本的に話しの腰は折らない自分達は多少の疑問は後回しで話を聴く。しかし穴熊狩りなら夜に森に入ったのかーυ魔物にバラバラにされっぞ


「あの研修があった北東を見た時、森の奥から5、6人の大人が出てくるのを見たんだ…。


最初は傭兵が魔物の素材でも剥ぎに来たのかなって思って近付こうかと思ったんだ、……―――でも、


でも、…そいつら、やけに黙り込んでてさ、剣しょって張り詰めた空気で…足下の枝を踏んだ俺を見て剣を抜いたんだ!――――逃げたんだけど追って来た中に魔導士までいて攻撃魔法唱えて来たし」


〈姿も見られた…と〉


話しはそれで終わりか、と自分が口を開こうとした時―――


小柄な青年は顔を毛布に包まれた腕で覆い、小さく呟く


室内に響く声


「…青い竜の紋章が入った懐中時計


あいつら、帝国兵…だったんじゃないかなって」



もし襲撃を起こした犯人がいるとして多数の死者を出した現場の方角と上級の魔物蔓延る深林を抜けた日数は一致していた




◆ ◆ ◆



『ないわー』


明らかに馬鹿にした様子でシャーセスの工房に来た同級生の片割れはクツクツと笑う。一方、窓際でも男子生徒が微笑んでいた。……布団にもぐる彼を見下すように、だ。


――――ほんとコイツら縁切りてぇ


『ブライアン。想像力は魔導具技師に必要不可欠だと思うよ』


言葉の後に噴き出す



魔導具技師希望の見習い魔導士は真剣に取り合わない二人を見て怒りにわなわなと肩を揺らした。そもそも数年前、素材集めに休日平野に出なければ、優等生の本性を芋づる式に知る事もなかった。特に物腰柔らかな王子の方。


『本当に帝国兵ならわざわざ人に見つかる方角じゃなくて、東から街道回り込むデショ』


「つーか!読むな!!」


……嗚呼。あの日の自分とか気絶すればいいのに…。

自己嫌悪にまみれながらシャーセス・ブライアンは巷で噂の(※傭兵達の)ポルノを恥じらいもなく広げる彼女の手から奪い返し、後ろ頭で一本の三つ編みに束ねた髪を怒りに揺らす


「レベロも止めろよ!?幼なじみだろ!?」


「仕方ないよウチの子、好奇心旺盛だから。」


もう出てけ!と顔を赤くした青年


思春期の中学生のように二人を部屋から押し出すと完全に黙り込んだ。この様子なら明日から登校して来るだろう。こなかったら私が先生にお仕置きされてしまう。是が非でも来て、シャーセス。熱出ても来て。


黒髪の学生は念を押してか締め切られたドアを四度叩く


『明日は来てよー』


そう言って、酒場の通路奥の部屋前から踵を返す優等生二人



稼ぎ時に忙しそうな店主に声を掛けて、下層から中層に登るべく町の中央へ



〈…愉快な事になってきたなぁ〉



黒い瞳はいっそ涼しげに弧を描く




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