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男女二人の留学生




月夜の事だ。


高い塔を囲む深森よりさらに南部


街道から東側に外れた山岳地帯



岩場から辺りを見渡す人影があった



金糸の刺繍に縁取られた深緑のローブ


深々と被ったフードの下、きつめの黒い目が細められ、漆黒の生真面目そうな造形に呆れが混じった



〈何してんだかυ〉



同じクラスの人間の姿が青白い月光の下、岩場に晒される。二人組の男女


女の方は金髪、濃紺の外套を羽織った女神像も吃驚なほど美麗な顔の女。百合のような美しさ


ある意味、腐れ縁男と近い空気を感じさせる上流階級の匂いを漂わせる娘―――クラスのマドンナだ


今までそういえば余り話す機会がなくて交流は薄い。彼女はいつも誰かと一緒にいる


男の方は色素の薄い青銀髪、褐色の肌、体格は魔導士にしては逞しい体躯の男。…こちらはそれなりに実技で顔を合わせるが余り会話の覚えがない。顔は精悍なタイプか


…王国側の協定国からの入学者だが。魔物の学生襲撃事件の調査が明日からでも入るのに何してんだか


国外で学生寮の人間は外出禁止になっていたから見つかれば処分は免れなかった筈。寮の正面玄関にも見張りがいたυ


抜け出して来た可能性


〈…まさか関わってる訳じゃないよなぁ〉と、遠目に二人を観察しに移る


二人して成績は優秀。別々の出身だったか、まぁ…同じ留学生って立場からすれば交流があっても何らおかしくはない。


で、二人が事件に関わっているならこの場で術を詠唱した魔導士に顔を合わせるのかも知れない


二人して母国の関与を否定する為にここに足を運んだなら、見て見ぬ振りでもオッケーだが、近付いてみなければ判断に欠ける


二人の背後の頭上から、岩陰に潜むようにジャンプし


暗闇に身を寄せて微かに笑っていた…


予感だ―――何か楽しい事が始まるかも知れない。



◆ ◆ ◆


「何を笑っている」

「誰!?」


刺すような声が月下に響いた。声音は静かだが警戒を孕んでいる


微かな金属音。魔導科では数少ない剣技の使い手が剣を抜いたのか


野生の獣のように無駄の少ない研ぎ澄まされた動作



いつバレるかと遊び半分で付けていた。いつまで経っても協力者など現れなかった。



〈意外と鋭いのな〉


クツクツと笑いながら彼らからは後ろ側の岩場から観念して口を開いた


『優等生なお二人が寮から抜け出ててるとは思わなかったよ』


声に覚えがないのだろう、同級生二人は静かに様子を見ている。美形が(スゴ)む姿は好きだ。


『安心しなよ。同じ目的、みたいだし?』


「出て来い」


『はは、冗談。

そんな深い仲じゃないって』


クラスでの交流は無いに等しいのでわざわざ顔を出す必要は無い。二人としては弱味になるので遭遇者を知り得る必要があるが


走る音が私へと近付いて来たので岩場から身を翻す。魔術を使うのは避けた。魔術を使えば多少なりとも魔術跡が残る。事件現場で疑いのかかる行為はしないデショ



穏やかで知識に溢れた日常が戦争で終わるかも知れないが、ただの偶然の事件だったという事でこれからも続くかも知れない


…退屈しのぎが決まった



家に帰って、ベットに入り、早く休みが明けないかと楽しみに夜気の寒さを遮るため布団を頭まで被った




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