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魔導士の関門



天に二物を与えられる人間は必ず存在した。彼等は生まれながらに人が羨む要素を複数持っていた。御曹司だったコイツはそれだ。そして、――――他人から自分がどう見えるかよく知っていた



「お帰り…ッ、ロード…」


艶やかな水色の髪が鼻先を掠め、女の私より美しい美麗な顔が涙ぐみながら頬の熱を重ねる

人混みの中抱きしめられるも周囲も似たり寄ったりなので誰も注意を払わずして、つまりこの私の表情は目の前の人物しか見ていない


〈嗚呼…。||余計疲れた〉



事の始まりは[さかのぼる]。少々血生臭い話しにはなるが2日前の事です








牙を剥く狼の群れ。周囲は混乱し、見習い魔導士の研修で、死者がそうそう出るほど難易度が厳しいものは今現在は聞き及んでいなかったが、と脳裏で呟く


あの腐れ縁男が偽りの人当たり良さを発揮して仕入れた情報だ。だというのに話しがちょっと違う


手に握る鉄を振るう


『邪魔臭い』


【ズチュッ  ブシュ!!】


魔導士ローブの長ったらしいフードを手で払いのけ、唐突に目と鼻の先まで距離を詰めた狼型の魔物に槍を突き刺した。魔力を込めているので小気味いいほどにサックリと鉄が骨を貫いて、新たな鮮血が壁に散る散る


「ひッ!!」

『五月蝿い。戦え』


痙攣する狼の残骸を壁に投げ捨てればグシャリと水気を帯びた音が鳴り、己のグローブも血に汚れた

自身の左後方でガタガタと腰を抜かして先ほどから構えようとしない同じ見習い生に背を向け、教師の姿を捜す。基本的に先生方は強い。この不測の自体の対処に当たっているだろう



〈…〉



魔法都市南部の岩窟地帯で行われる見習い魔導士の研修は魔導士基礎教育の4年間における集大成であり、授業内でしか使用しなかった戦闘魔法の訓練納めだった。小学5年生が中学3年生に。つまりひよっこの集まりで…本来ならオーガなど動作がウスノロな魔物を中距離から迎撃する筈だ。動きの素早く撃たれ強い狼型の魔物は牙を向き敵を威嚇しに掛かり、本能から放たれるその獰猛かつ剥き出しの圧力を浴びてなお詠唱を続けられる者が魔導士の道へと進む。言ってしまえば前線が苦手な者はここで魔導学者に転じる。中層以上は閉鎖的な研究所の町なのでこの時点で辞め、なおかつ町に残れば中層以上影では笑われる事だろう。下層に行ったとしても実力的に怪しくて…魔導士としての道は断たれたも同然だが



『偶然にしては随分と数が多い、な!』【ザシュッ】


『ハッハァ!』


笑い声を漏らし、鉄槍を振るう。悪人顔は存分にニヒルに笑んでいる事だろう。突風が発生し飛びかかる狼を弾く。風は自身の足元から吹き出している。絶えず鍾乳石内の通路から次々に飛び出す毛先がピンクの青色狼。頭部を狙い一気に刺し貫く。


此度の輪廻前にギルドに所属していた習慣で種類にはよるが獣は皮を剥ぐので出来るだけ綺麗な状態で殺す。



〈あっ、先生だ〉


テンションを下げて、しかし敵前なのでそのまま構えを解かず教師を迎える


「お前達!無事か!?」


『大丈夫です。奥にもまだ何人か逃げ込みました』


魔法にも治癒、補助、攻撃、特殊、と種類は豊富だが補助に分類される結界魔法を得意な見習い生がいたのを見かけたので魔力が切れていなければ生き残っている


野球ボール大の狙撃魔法を複数放ちながら背後に付いた30歳程度の若い先生に笑顔を向ける。この先生は後にどうなるのだろうか?。死者は多数出ている。不測の事態とはいえ魔法都市の上層部に処分は委ねられる事になるだろう。



ちなみに腐れ縁男レベロは2つに分けた隊の片方にいたので既に研修は終え、日取りがこちらより早く、今は休暇中。家で読書をしているか、元来[おモテ]になるので楽しんでいる事でしょう。


〈恨めしくなる。あの運の良さ…||〉


魔力の濃さが髪の色の濃度に現れる中、例外として聖霊の加護付きで生まれた為魔力は一般の魔導士より強い。しかしレベロの髪の色は水色なので余り目立たない。黒髪を毎回引き継いでしまうコチラは[はなから]傍目にエリートと決め付けられ、ごまを擦られるか警戒されるってのに…



国は魔力の強い子供を刷り込みやすい今の内から首輪を付けて飼い慣らす処遇らしく、上の先輩が愚痴を漏らしたように生きる道に自由が無いらしい。それだけはレベロも同じだが



前発隊の帰還と入れ替わりで出発した今現在蜘蛛の子を散らすように散り散りになっている後発隊にいる自分は家の物理的な温かさが恋しくてうなだれた。…例えば暖炉とかです


◆ ◆ ◆



魔物が徘徊する深林を国外からの来訪者が襲われないよう国は塔下層の3方に大規模な転移装置を建国時に設置した。北、東、南西に3カ所ある転移は一瞬で街道から魔法都市まで瞬間移動を可能にする。その南西の街門は今は騒然としており、マンツーマンで遺体を運ぶ衛兵と、所々で悲哀に声を上げる遺体となった見習い魔導士の保護者と、遠巻きに眺める国外の人間だろう野次馬が集まっていた。


生きている生徒達も疲れ切った様子で顔を俯けている。生徒の中には国外出身者も存在したので心身共に疲弊している事だろう。早く休んで頂きたい


〈…〉


槍を握り歩く緑色に金糸のローブの見習い生は歩き続けるも人混みを抜けようとした矢先、横からスルリと伸びた腕に行動を遮られる



「お帰り…ッ、


ロード…」


色白で、天性な秀でた美さ持つ水色髪の少年が無事に帰還した子供を迎える保護者達と同じく安藤に満ちた顔で顔を近付け


「無事で良かった…」


水色の睫毛が震えるのを至近距離に私は若干居心地悪くて目を逸らした。


頬や額にキスの嵐。


親愛の唇はその後両頬と額と続き、涙目のままレベロは肩に顔を埋める




「それで…―――――――――――――――――――――――――…楽しかったかい?」



コイツは悪魔だ。



そして冒頭に戻る。

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