カウンターと使いの男
白いシャツに茶色いベスト。品の良い衣服を来た気弱そうな二三十代前半ぐらいの男は一枚の手紙を差し出すと私の顔をじっと見た。平凡な顔立ちは何だかサラリーマンを思わせる。こちらは仮面で上半分が隠れているから結局互いの目が合うだけの現在。…で?
「フレアという名に覚えはありますか?」
ある。…、あと数年ぐらいは忘れそうにない名前だよ。
水を飲みながら非戦闘要員だろう男の要件を待つ
無愛想な料理人がこの場で密談なんてするなよ?と忠告するように睨んで来ている。酒場だけに人は多く利用する。面倒事を持ち込まれては彼等も迷惑なのだ
《Rへ》
手紙の裏を見せられ、神妙な顔付きの男が本人確認をした。
ええ、そうです。
自分がRです。
領主の娘であるレシフレアの名は余り不用心に出さない方がいいので意図的に伏せて会話している。別の意味で私の名も伏せていた。この男はレシフレアから多少の事情を聞かされていると見て間違い無さそう。手紙を受け取って、蝋で封をされた便箋を開く。ざっと目を通した内容は――――魔法都市からの脱出の礼。それに伴い私の身を案じている、また、連日の襲撃に今は前線から離れられない事を申し訳なく思っている―――とさ。
『ミクレスト側の前線はどうなっているの?』
「…ええ、今は騎士団が押さえ込んでいますよ。」
『へぇ…。騎士団…ねぇ』
現役の騎士はまだ見た事はない
アウスリケアの軍部は秘密保守の為に動く警察みたいな機関だったから騎士団の存在は真新しい感じがするね。
此度の人生、アウスリケアや周辺の街ぐらいしか歩く機会が無かったので、精々見かけても自警団や元騎士のお爺さんをギルドで見るぐらいだったのだ。
騎士団が前線を持ちこたえているので…まぁ一年は国が滅びる事はないだろう。力は拮抗している。戦争は数で勝負ではあるが、魔導師と亜人はまた別だ。
どうせ王国内に知り合いなどいないので、フレアの顔を見れるなら見たいが、回復要員ともなる彼女は救護に引っ張りだこだと予想できる。…
金髪美女の少し窶れた顔………、儚げな美貌に理性もノックダウン!思わず押し倒したくなるような様子だったらどうしよう……
生唾を呑みながら隣りのリーマン男に彼女の様子を聞いた。どうやら忙しいらしいが私から彼女に会いに行くには問題ないらしい
『よし。じゃあ来て下さい』
「はっ!?ちょっと!」
腕を引っ張るように歩けと促せば、「今からですか!?」と驚き慌てふためく声が隣りからして、酒場は夕食を食べに来ていた兵士達で溢れ返っていたが、私とこの男から視線が絶える事なく監視の目が続き、居心地は可もなく不可もなく。
『と、言う訳で、隣りのミクレストに向かいたいのですが』
「辞めるっつー事か?たった一週間足らずで?」
武器庫にいた長身のオッサンに交渉に入った。獣脂の蝋燭の臭いが籠もって、大砲や斧や槍などが樽に収まる薄暗い武器庫はジリジリと焼けた油の臭いが漂っている
『いえ。別に辞める気は無いのですが、《去ね》というなら辞めますよ?』
「戻って来なかったら、見つけ出して乳揉むぞ」
戦力確保といった様子で拠点兵長のオッサンは不遜に笑う。現在、ガーグ領国は商業的な国なので武力に優れていないと見た。北部のデレカトリムとの物資の流通が盛んで、商業都市なのだろう
南部からのダルト領国からの兵力と亜人の連合軍によって戦況は支えられていた
オッサンからは傭兵のような正規の兵士のような変な雰囲気を感じていたが、このオッサンは巷にいる破落戸が一番似合っている
。