接近!国境地帯、ガーグ領国北方平野
平野は度重なる戦闘に所々陥没し、剥き出しの地表を晒していた。
草原にぽっかりと開いた穴は投石か、魔法による物か、どちらにせよ激しい衝突模様を想像させる
陥没を迂回するように歩きながらも血に汚れた草は絶えず茂り、折れた剣や槍が突き刺さったまま放置されていた。うわー。結構凄い事になってる…。まさに王国側の防衛ラインの前線がこの平野と見て間違いなさそう
平野に一人突っ立ったままのロードのフードを風が揺らし、魔物の死骸が残された戦地で南部に広がる街の城壁をロードは眺めていた
「ここは女子供が来る場所じゃねぇよ」
街の門をくぐり、負傷者の姿も見かける街中で兵士の詰め所に入るなり、出入り口付近のオッサンが声をかけて来た。やたらと長身な眼光鋭いオッサンだった。何やだこの人
『…』
値踏みと観察が合い混ぜな視線を無視して、受付と思しきカウンターに向かう
…とは言っても詰め所内は負傷者の手当てや部隊の編成なんかで[てんやわんや]しており、とても今日街に来た旅人の相手をしていられる状況ではないのが往来する人の行き来で理解できた
「槍使い(ランサー)…か」
何を思ったか、ロードが右腕に握り込んだ槍を見て、軽装備な中年男はクッと口元を上げた。
槍に何か思い入れでもあるんだろうか。オッサンのしなびた思い出に興味は湧かないが……。
『貴方は?』
詰め所の兵士が忙しさの余り相手をしてくれそうにないので、諦めて入り口の中年男を見返す
オッサンは筋肉隆々の腕を組んだまま、紫の髪の下の目で私を不躾に眺め回していた。…。フードを被っているのに素顔を透視されている気分。常人から逸脱した気配を放っている
「ただの兵士だ」
『傭兵雇ってくれそうなとこ、知りませんか』
ただの兵士が勤務をサボれるか。明らかに見え見えの嘘をスルーして、職をくれと要求した
「ギルド行け」
『無理です』
間を置かず返した返事に、どこか傲慢な空気のオッサンが笑った
ギルドの本部は王国にあるが、国境で帝国と王国の干渉が途切れていない限り、ギルドの利用は帝国からでも見れる。生存が知られてしまう
「………、帝国人か?」
〈感づかれたか。〉…頭の回転の早い男だ
騎士ほど重装備でない武装した中年がかました爆弾発言に、詰め所が一瞬、水を打ったように静まる。だがオッサンが周囲を御するように手を仰ぐと再び兵士達は動き出した。警戒は少しされてはいた
『元、帝国人。』
「此処で雇わなかったら?」
ちなみにこの街の平野の先にある、山岳地には帝国側の兵士が潜んでいる。
スパイの可能性も捨て切れない。脱走兵なら戻っても厳重な処罰の後、前線復帰だ。両国が一定の時間を開けて争う状況下でお前はどちらに付く?とオッサンは問ってきていた
素直に話す事にした。
『ミクレストで職探し。
ちょっとした知り合いがいるんで、まぁ…会えるとは言い切れませんが。』
「ちょっとした知り合い、なァ?」
ガーグ領国と並び、現状、物理的に王国の双璧を成しているミクレスト……、金髪美女も今頃は後援として戦場に出ている可能性は高い
ひとしきりの腹の探り合いはオッサンが満足する形で終わった。私はこのオッサンを面倒な類いと理解した。利用できる物は例え敵でも利用する。そんな喰えない臭いが鼻に付いた
付いて来い、と言ったオッサンは入り口から歩き出す
…、
サワリ
『』
反射的に自分の倍はある足を踏みつけるも涼しい顔したオッサンは尻を触った己の手を見てニヤついている。
「安産型だなァ」
挑発するような悪びれた一言に珍しく苛立ちを覚え、感情に反応した魔力がバチッと電流に変わって音を発した。
辺りの兵士達が魔導師と判るや否や警戒を濃くした
「魔導師とは珍しい」
『お触りは無しです。黒炭にしますよ?』
。