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限りなく個人の愉悦を優先した結果こうなった…



塔の下層。外へと通じる直径3mほどの通気孔


堅牢な岩を塗り固めた壁の一角、通気口の鉄格子を外し、そこを出口に地面に飛び降りた留学生を見下ろすロードという名の同級生


『君達の幸運を祈るヨ』


軽く手を振れば、真っ直ぐな黒髪が揺れる。


だがしかし


「…」


恐らく二度と再会は望めぬこの状況において、もう少々名残惜しんでもよいのではないだろうか…?υ

その事実は置き去りにされていないか留学生二人はいまいち緊張に欠けた同級生の様子が気掛かりだった


まさか事実を理解せず自身らを助け、国賊と化したなら……後は処刑される日が遠くない日に待ち受けている。




◆ ◆ ◆


「貴方は大丈夫なの?」


金髪美女が確認するように尋ねてきて、ひそめられた美しい造形に、内心ルンルンしながら会話を交わす


『…恐らく』


無事に帰れるかと言えば、まぁ帰れるのだが。問題はその後だった。急場だったのでダストシュート内の魔術痕の消し方が雑になりそうなのが頂けない。個人を特定するに至るまでの痕は残らせないが、通過形跡は残るといった感じか。ダストシュートはもう逃走経路として使えないだろう



『君らと違って貴族じゃないんでね


例え殺されようが他人を巻き込む事はないよ』


そういっておどけるように笑う


二人の表情は余り変わらなかったが空気が重い



戦争が起こるだろう

帝国と王国の間で、200年前以来の血みどろの争い。

凄惨で、無慈悲で、人一人の命なんて塵のように一瞬で消え去る。

ある意味地上で唯一平等な場所だろうか


ロードは種類の異なる二人の美形を見下ろして、思う


この二人も戦場に出るだろう。魔導士は勝敗を分ける決定的な戦力である。…そうなれば戦場で合間見える可能性はゼロではない。

帝国兵の生き血を浴び、戦慄に咆哮する姿は、泥臭く、悲壮で、何と美しい事か


〈……イイ!〉


アウスリケアの特色とも言っていい民主主義。親が誰であろうが魔導士は一介の魔導士に過ぎない。貴族制度が無いのだ。帝国領内には出て行きやすい



だけどこの様子ならアウスリケアに留まった方が


〈レベロに今後の予定を聞いてみようかなぁ〉



苔に吸われたかすかな足音が鳴り、思考中断


「俺達と来ないか…?」


褐色の青年が眉を寄せて、コチラを見ていた


『行かない。


まだバレてないしね』


此度の生では見事に国家反逆者になったワケだが、罪なんて物は罪と認識する他者に知られて初めて罪となる


「だからこそ今動くんだろうが」


至極当然な事が聞こえたが気のせいだ。アーヴァインは厳めしさと頑強さを見る者に印象づける浅黒い顔に戦士の知恵を浮かべるも、ロードは手を横に振って断る


事実が露見すれば死罪は免れないが、このタイミングで姿を消せばまず間違く上層部は関連性を探し出してくるだろう。そうなれば王国領に亡命しなければ死ぬまで追われる。

…誰も来ない山中なんてのもいいね


この国の異常性は精鋭部隊が宗教の如く上層部を守り、番犬の如く日々を全うしている。精鋭なんて確かにどこも宗教入ってるが我が国はダントツだと思う。亡命しても狙われる可能性は高い



森へと消えゆく男女を見送りながら思うのだ。夜明けまではまだ時間があった

それが吉と出るか凶と出るかは知らないが、少なくとも追っ手の足を躊躇させるだろう。

魔物が活発化している中を走り抜ける自殺志願者はいないだろうし、指揮官も魔導士達も馬鹿ではないから周囲に警戒しつつ逃亡犯を追う


マドンナ…フレアは補助系の魔法が使えたので多少魔物をやりこめる魔法を使用できない事もない。

まるで霧に溶けるように消えて行った背中を思い浮かべながら、運が悪くなければ助かるとだろうと予想を踏む


こちらとてこれから自宅に帰らなければならないので、踵を返し、焼却時間が迫るダストシュート内に戻れば

やはり来た時と変わらず、漂う塵の臭いが鼻に付いた


薄暗い空洞はただ広がる




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