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それでも、最強の盾であれ  作者: もちもち物質
第一章:機械仕掛けの体
27/52

27話:鉄の国*1

 ……そうして。

「助かったわ。どうもありがとう」

「何、大したことではない。私は私の役割を果たしたまで」

 グレイ達は、アイオンによって、検問を素通りすることに成功してしまった。というのも、アイオンは堂々と検問の列を抜かして進み、検問を行っていた兵士達に『ご苦労。彼女らは私の客人だ。ここを通るぞ』とだけ言って、誰にも止められることなくそのまま門を抜けてしまったのだ。

 ああいったやり方ができるというのならば、アイオンはやはり、貴族か、それに準ずる立場なのだろう。そうでもなければ、あのように検問を素通りすることなどできるはずもない。

 ……妙に役者めいた言動の、奇妙な騎士ではあるが……ひとまず、彼のおかげで面倒を1つ潜り抜けた、とは言えるだろう。

 グレイは変わらず緊張しつつ、アイオンに感謝しないでもない。




「さて、如何かな?メカニジアの街並みは」

 さて。

 アイオンは門を抜け、そのまま歩きつつ、両腕を広げて自慢げに、街並みを見せつけてきた。

 ……メカニジアの街並みは、非常に整然としている。ローザテイルの王都も整った美しい街並みを有するが、メカニジアの整い方には劣るだろう。

 そう。メカニジアの街並みは、とにかく……整いすぎているほどに整っていた。

 ぴしり、と整列した家屋は、煉瓦や石でできている。山ばかりで植物がそう多くないメカニジアならではの建物だろうが、建物を構成する石材の1つ1つが非常に整っていて、均質だ。

 磨かれた石畳もまた、奇妙なほどに均質に見える。塵一つ落ちていない通りによく似合うが……『整いすぎている』という印象は拭えない。

 同時に、グレイは違和感の正体に気付く。

 ……植物が、無いのだ。

 妙に均質な石畳の道、きっちり同じ意匠の、鉄の街灯。やはり均質な石材の建物には、鉄の格子と窓硝子が使われており、金属の板を使って葺いたのであろう屋根が印象的だ。そして……それらの中を見回してみても、植物があまりにも、見当たらない。

 道の脇にも、石畳の隙間にも、小さな草も苔も見当たらないのである。

 そして、植物の代わりによく見られるのが……鉄のパイプである。

 パイプ自体は、ローザテイルの王都にもあった。炉から煙突として突き出たパイプの下は温かいので、冬場はお世話になったものである。

 だが、メカニジアの街並みを見ると、それがあまりにも多い。家屋と家屋の隙間はパイプが幾本も絡み合うようにしながらも上手く纏まって設置されているし、道の脇には、道に沿うようにパイプが見られることもある。途中で地面にパイプが向かっているのは、もしかすると、パイプが地中を通っているからかもしれない。

「変な街だなあ、おい」

 遠慮も配慮も無いスファルがそう零すのを、グレイは肘で小突いて黙らせた。が、確かに変な街だ、と、グレイも思う。

「洗練された街の姿は、そうでない街に住む者からしてみれば、奇妙な姿に見えるのだろうな」

 アイオンはスファルの言葉に笑いながら、そう答える。……皮肉めいた言葉だが、アイオンはそれを意図していないように見える。ただ、事実と感想を述べているだけ、という意識なのかもしれない。


「さて……まずはこちらへ」

 そうしてアイオンに導かれて進んだ先で、グレイ達は屋敷の門をくぐることになった。

「明日、王城から迎えが来る。それまではこちらでお待ちいただこう」

 通された屋敷は、白亜の石材と硝子でできた、実に美しいものであった。鉄の門を抜けて進み、庭を通り……そこでグレイ達は、メカニジアの町に入って初めて、植物を見つける。

 そう。庭には、植物があった。この、石材の灰色と鉄の銀と黒、それらで構築された街の中で、いっそ異質なまでに瑞々しく青々とした植物が、庭を飾っているのである。

「綺麗な花……」

 エメディアが、思わず、といった様子で、生垣に咲いた白い花に触れる。花の甘い香りが、ふわ、と漂い、これもまた、どうもメカニジアらしくないように思えた。

「ふふふ、実にいい庭だろう?」

 そして、アイオンはエメディアの反応を見て嬉しそうに、そして誇らしげに語る。

「ここは、私の美学に基づいて設計されている。咲き誇る花の美しさには、どんな硝子細工だって勝てはしない」

 アイオンは生垣の花を一輪摘むと、それをエメディアの髪に飾った。……実に気障なやり方だが、それはそれとして、飾られた白い花は、エメディアの桃色めいた髪によく似合う。

「植物は思い通りに動かないことも多いが、それを手入れして美しく整えていくことには喜びがあるものだ。……ふふふ、女王陛下には、叱咤されることも多いが」

 アイオンは肩を揺らしながらそう言って……エメディアを、静かに驚かせた。

「女王陛下?」

「このメカニジアを統べるお方だ。そして私は、女王陛下へ直々に仕える騎士の1人だ」

 ……アイオンはメカニジア内でも要職に就いている人物なのだろう、とは思っていたが……女王直属の部下だとは、思わなかった。

 これが幸か不幸かは、まだ分からない。分からないが……どうやら、グレイ達は、中々に厄介な立場の相手と、知り合いになってしまっていたようである。




「では、こちらが客室だ。どうぞ、ごゆっくり。ああ、食事は部屋に運ばせた方がいいだろうか?」

「そうね。そうして頂けると助かるわ。ありがとう」

 そうしてグレイ達は、アイオンの屋敷の客室に通された。

 石造りの壁と床を有する、如何にも硬そうな部屋、という印象ではあるが……こちらに使われている石材は、通りの建物に使われていた石材よりも艶があり、白地に淡い灰色の縞が入っているのがなんとも美しい。……スファル曰く、『いい大理石だなあ』とのことである。グレイは知らなかったが、特殊な石らしい。

 そうして、アイオンが『食事の手配をしてこよう』と出ていってしまった後、グレイ達はしげしげと部屋の中を見回して……困惑する。

「……部屋、すごく明るいのね」

「魔導のランプだな。随分と値の張るものを、よくここまでふんだんに使えたもんだ」

 客室に限ったことではないが……アイオンの屋敷は、贅を尽くした造りとなっていた。

 魔石を動力として使うランプは、火の光より白く眩く、そして揺らぐことなく、部屋を照らしている。グレイはランプに灯した火の、弱く揺れる明かりばかりを使って生きてきたものだから、こうした揺らがない光の下に居ると、何やら落ち着かないような気分になってくる。

「ほーう……大したもんだな。見ろよ、この窓」

「ああ、いい窓だな。硝子だっていうのに、罅が入ってない」

「罅……は?いや、そりゃ、そうだろうが……?」

「……裏通りの冗談だ。忘れてくれ」

 ……グレイは『下手な冗談なんて言うモンじゃないな』と後悔しつつ、改めて、窓を観察する。

 スファルが指し示した窓は、美しく均質な板硝子が嵌め込まれたものである。単純ながら、高い技術を思わせる代物だ。

「……やっぱり、メカニジアはすごいのよね」

 そうしてエメディアは、深々とため息を吐いた。

「それこそ、ローザテイルなんて、簡単に制圧できちゃうでしょう。こんな技術がある国なんだから」

 ……アイオンの意図は分からない。

 だが……エメディアの言うところは、分かる。

 これだけの技術を、さも当然とばかりに見せつけられてしまえば……国力の差というものは、明らかだ。

 メカニジアがローザテイルを侵攻しようとすれば、それは、十分に可能なのだろう。




「ローザテイルは、資源があるわ。国土も広い。それから、魔法の研究自体は、他国に引けを取らない……と、思う。それから、魔力を多く持った人間がそれなりに多い、っていうのは、かなりの長所よね」

 エメディアは、客室のベッドに腰掛けると、ため息を吐きつつそう、小さな声で話し始めた。……グレイやスファルに伝えたいというよりは、自分の中で整理したいのだろう。

「メカニジアはその点、国土がローザテイルよりもずっと狭いし、そもそもの平地が少ないから……食料の安定供給が難しいのよね。だから、人口には限りがあって……優秀な人が居ても、人数は揃えられない。鉄鉱石はたくさん出るみたいだけれど、魔石の鉱脈はまだ見つかっていないみたいだし……」

 エメディアは数えるようにそう言って、眉間に皺を寄せた。

「でも、技術が、とんでもなく高いのよね。少なくとも……未知の武器を、持ってるくらいには」

「……あの、矢でも礫でもないやつか」

 グレイは、エメディアの言わんとするものが何か、すぐに分かる。……スファルの屋敷で飛んできた、礫のような、しかしそれよりもっと重くて速い、何か。

 アレを凌ぐのは、かなり難しい。グレイも、あの時はなんとか凌いだが……次にまた同じことをやれと言われても、できると断言はできない。

「おー、アレか。俺もアレは気になってたんだよ」

 スファルもまた、目を輝かせてエメディアの話に乗ってきた。……彼としても、例のアレは気になるらしい。

「スファル。あんたから見て、アレは何だった?あんたなら、アレにどう立ち向かう?」

 アレが何に見えたか。対処ができるものなのかどうか。そのあたりは、グレイとしても気になる。特に、身体能力に秀で、グレイにできないことをやってのけるスファルの意見なら、尚更だ。

「うーむ……俺は、アレは礫だと思った。だが、石じゃ、ねえな。音が違った」

「音?」

 エメディアが、『そんなの、あの一瞬で分かったの?』と言いたげな顔をしていたが……戦場において、音は馬鹿にならない情報源である。どこから、どんな音が聞こえたかを把握できれば、どこに誰が居て、どんなことをしようとしているのかが分かるのだから。

「グレイ。お前の大楯、何でできてる?」

「主には鋼だが、これも魔導の代物だから、鋼より硬いと思ってくれていい。だが、音はあまり響かないんだ。あんたが殴った時の、覚えてるだろ?」

「ああ、覚えてるぜ。ってことは……ほーう、成程な。やっぱり、石じゃねえ。鉄か、銅か、鉛か……そんなところだろうな」

 スファルは一つ頷いて、そう言った。鉱山の町に住んでいただけあり、鉱物には詳しいらしい。

「鍛えた鋼みてえな硬さは無かっただろうな。鉄にしても、鋳物とかだろう。だが、聞こえた音はもうちょいと、粘っこかったから……俺の見立ては、鉛だ」

「粘っこい……?音が……?」

 ……エメディアが首を傾げているのだが、これにはグレイも首を傾げたい。『粘っこい音』と言われても、グレイには今一つ、ピンとこない。まあ、スファル独自の感性によるものであるので、深く考えることは止めた。

「ま、とにかく、相手は鉛か何かの礫だ。それも、オーガの戦士が投げるより速く飛ばす仕組みがあるんだろうな……」

「……スリングショット、か?」

 礫の類を速く飛ばす、と考えると、真っ先に考えられるのはスリングショットである。大型のものなら投石機として使われるが、小型のものなら手に持って使うこともできるし、グレイの知る限りでも、王都の裏通りでスリングショットを使って小石を飛ばし、鳥を射落としている者は居た。

「かもな。だが、見たところ、そういうモンはあの場に見当たらなかった……」

 ……とはいえ、もし、あの場でスリングショットの類が使われていたなら、グレイもスファルも、気づいたように思う。

 少なくとも、メカニジア兵を2体ほど、吹き飛ばしているスファルだ。メカニジア兵に接近することはあったのだろうし、そうした道具を持っていたら、分かっただろうが……。


「……昨夜見たメカニジア兵は、筒みたいなものを持っていた」

 ふと、グレイはそれを思い出した。

 昨夜、宿場の近くに居たメカニジア兵。あれが持っていた、筒のようなもの……今思えば、武器のようなものは、そのくらいしか無かった。ならばアレが武器だったと考えるのが妥当ではないだろうか。

「ほー、筒、か……。どういう仕組みかは分かんねえが、筒から鉛の玉を飛ばす、みてえなことができる、ってことか?」

「そう考えた方がいいだろうな。筒を見たら、鉛の玉が飛んでくると思った方がいい」

「筒、というか、筒の口が見えるだけでもその可能性があるんでしょう?厄介ね……」

 エメディアがため息を吐いたところで……ふと、ドアの下の隙間から、にょろん、と何かが入ってくる。

 何事か、と思って見てみると……なんと、それはウサミミであった!いつのまにやら、部屋から抜け出していたらしい!

 ぴょこ、ぴょこ、と跳ねながら、寝台の上のエメディアの、その膝の上へと乗っかり、更にそこでぴょこぴょこもちもち、と跳ね始める。

「あらあら、元気ねえ……」

 そうして話が途切れ、暫し、皆でウサミミを見つめるだけになったところで……。


 こんこん、とドアが叩かれる。

「お食事の準備ができました」

 ……どうやら、食事が来たようである。

 そしてどうやら、ウサミミは廊下で見張りをしていて、人が来たからこちらの話を中断させに戻ってきたのであろう。

 つくづく優秀なスライムである。ウサミミはエメディアの膝の上で、エメディアに存分に撫でてもらい……満足気に耳を揺らしていた!




「食事は間違いなくうちに軍配が上がるわ」

「そうか?これも別に不味くはないだろ」

「美味しくはないのよ。不味くないかどうかと美味しいかどうかは、また別の話なのよ」

 ……メカニジアの食事は、質素であった。単に、ローザテイルからの客人に出す食事はこの程度、とされているのかもしれないし、単に、アイオンの屋敷でのみ、こうなのかもしれない。

 だが……いずれにせよ、グレイ達に運ばれてきた食事は、まあ、腹を満たし、生き永らえるためだけのもの、といった印象である。

「……メカニジアがうちを侵略したい理由の1つが食事だったとしても、私、驚かないわ」

 エメディアは噛みしめるようにそう言うと、それでも食事を食べ進めていくのであった。




 そうして、翌日。

「移動の準備が整った。さあ、どうぞこちらへ」

 アイオンに導かれ、3人は屋敷を出て……屋敷の門の前に停めてあった馬車に乗り込む。

 ……いよいよ、メカニジアの女王に会うことになる。


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― 新着の感想 ―
見張りや諜報員としても有能ウサミミ。やはりスライム軍団結成か。ちょっとクソデカスライムなんかにも出張して欲しいです。
>ぴょこぴょこもちもち、と跳ね始める。 ぴょこぴょこは容易に想像出来ますが、もちもち跳ねるとは一体…?なんかこう、コシのある感じで「ぼよんもっちり、ぼよんもっちり」と弾力に富んだ跳ね方なのでしょうか…
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