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それでも、最強の盾であれ  作者: もちもち物質
第一章:機械仕掛けの体
19/53

19話:厄介払い*2

 エメディアの宣言に、老オーガは間違いなく、戸惑っていた。

 ……スファルを擁護するエメディアは厄介であろうが、そのエメディアの『恩恵』があるため、無下にもできない。そういった葛藤が見て取れる。

「あなたには関係のないことだ」

 結局、老オーガはなんとか苦し紛れに、エメディアにそう言って済ませようとするが……エメディアはこの程度で引き下がりはしない。

「いいえ!これは彼の名誉のためでもあって、私自身の名誉のためでもあるわ!だって、私も彼と共闘して、一緒にゴーレムを倒したんだもの!それで?ここに証人が居るわけだけれど、それでも信じて下さらない?ダンジョンをクリアしたのはスファルだ、っていうこと!」

 エメディアが畳みかけると、老オーガは何ともやりにくそうに、エメディアを見下ろした。

「あなたの名誉が必要だというのであれば、それは私が保証しよう。しかし……」

「スファルの名誉だって必要よ。私、彼と共闘したの。それ以外に理由なんて、必要ある?」

 ……そうしてエメディアが一歩も退かずにいると、老オーガは何やら考えて……言った。

「……あなたは、スファルの妻となるつもりがあるのか?」


「無いわ」

 エメディアがきっぱりと答えると、スファルは『ねえのかよ……』と、悲しそうな顔をした。エメディアはなんとも気まずげな顔をしていた。

「そうか……?ならばそれに入れ込むのは止めた方がいい」

 一方、老オーガは『分からない』というような顔をしている。……彼は、スファルがエメディアを手に入れたものだと思っていたのだろうか。

「入れ込む?ねえ、自分達の功績が正しく認められるように主張することが、『入れ込む』ことになるの?」

 そうしてエメディアはいよいよ呆れて老オーガを見上げた。物怖じしないお姫様の言葉に、老オーガはいよいよ渋面を見せつつ……ずい、と、エメディアに凄んでみせ始めた。

「正しい、か……。では、ダンジョンの核はどうした?証拠など、残ってはいないのだろう?」

「ええ。私が食べたわ!」

「……それでは、確たる証拠があるとは、言えぬ。そちらに功績がある、などと言おうが、事実は覆らん」

 老オーガは、『言葉以外の証拠は無い』と少々安堵した様子を見せていたが……エメディアは、にっ、と笑って続けた。

「あら、そう!でもそれは、そっちも同じことじゃない?そっちだって、ダンジョンの核はもう、残ってないわけでしょう?」




 エメディアの言葉は、老オーガにとってあまりに突拍子もないものだったのだろう。

 グレイには分からない部分も多いが……恐らく、オーガの一族は、その長に従って生きる。長の言うことが絶対に正しく、それに従うことが『当たり前』なのだ。

 だが今、エメディアは、その『当たり前』を、簡単に放り捨てて見せた。『あなたの証言が何だっていうの?』と。

 同時に……『あなたにこの場の裁定を下す権利はあげない』とも。

「な、何を言う。……ダハブが持ち帰ったダンジョンの核は、確かに、私が確認した」

「へえ。でもあなたの証言だけじゃ、それが正しいことかどうかなんて分かりはしないわね」

 老オーガが唖然とする前で、エメディアは只々、魅力的な微笑みを浮かべて堂々としているばかりである。

「おい、女!トゥルバの長に対して、不敬だぞ!」

 たまらず、といった様子でスファルの弟らしいオーガが声を荒らげたが、エメディアは全く動じない。それどころか、彼のことを挑戦的に見つめ返す始末だ。

「それに……ねえ、ダハブ・トゥルバ?あなたがダンジョンに入ったところを、一体、誰が見たのかしら」

「……は?」

「それで、スファルがゴーレムの頭を持ち帰った瞬間を見た人は、どれくらい居ると思う?」

 ……エメディアの言葉に、オーガ2人が青ざめた。

 そう。

 スファルは、実によくやった。彼が狙ってそうしたわけではないにせよ……彼は、非常に上手くやったのだ。

 ダンジョンが消えてすぐ、その場で、多くの人々に『ダンジョンをクリアしたこと』を宣言した。

 その場で、ゴーレムの頭を見せびらかした。

 自分がその時そのダンジョンに居たことを、大いに印象付けた。

 ……つまり。


「分かってもらえた?今、外はお祭り騒ぎよ?……もし、あなたが『ダハブ・トゥルバがダンジョンをクリアした』って皆に言ったところで……一体、どれくらいの人がそれを信じるかしら?」

 老オーガはいよいよ、くだらない嘘でスファルの功績を奪うことなどできないのだ、と悟っただろう。




 老オーガは、どうすべきか、と思案している様子だった。……だが。

「……親父」

 そんな中、スファルが一歩、老オーガへと近づいた。

「これでもまだ、俺のことは認められねえって言うつもりか?」

 スファルは、老オーガより高い身長で老オーガを見下ろすようにして、問う。だがその表情には、堂々たる自信より、緊張に張り詰めた不安が見て取れた。

 ……そして。


「……いやはや、大した度胸の娘だな」

 老オーガは、エメディアに微笑んでいた。エメディアは、きょとん、としてから、じりじりと警戒しつつも、『……どうも』とだけ返す。

「オーガの長を相手に、このように弁が立つ人間の娘は、そう多くはなかろう。名を、何と言ったか」

「……エメディア・アンバーローズ」

「そうか。エメディア、というのか……」

 老オーガは鷹揚にエメディアに頷き返すと、ようやく、スファルへと視線を向けた。

「スファルよ。我らの間には、誤解があったようだな」

 スファルは老オーガの言葉を聞いて、ぽかん、としていた。だが、老オーガに向けられた微笑みを見つめ、徐々に、その意味を理解し始める。

「親父……!」

 目を輝かせて、スファルが一歩、老オーガへ歩み寄った。老オーガは笑って、スファルへと手を差し伸べ……。


 その時だった。


「スファル!」

 グレイは飛び出した。

 魔法の気配を、確かに感じ取って。

 大楯持ちとしての勘に突き動かされて。

 そして何より……嫌われる、ということがどういうことかを誰よりも知っていたから。

 ……老オーガの表情は、これから殺される相手に向ける優越感に満ちていたから。


 そうして、グレイの大楯は『矢のようで、矢ではない何か』を弾いた。




 ガキン、ガキン、と鋭い音がして、大楯は確かに、何かを受け止め、弾いた。……だが、それが何なのか、グレイは咄嗟に、判断できない。

 矢では、なかった。何かが飛んできたが、それは矢ではなかった。

 また、礫にしては、あまりにも速すぎた。それは石の礫より小さく、それでいて重い……金属の小さな塊か何かだったように思えるが、それにしても、あまりにも速かった。

 正体不明の敵の攻撃に、グレイは寒気を覚える。『盾役』にとって最も恐ろしい相手は、知らない相手だ。未知の攻撃手段を防がねばならないという状況は、あまりにも恐ろしい。

 ……だが、何はともあれ、防いだ。グレイは、スファルを貫いていたであろう未知の攻撃を防いで、ここに立っている。

 これには、老オーガも慄いた。……先程の未知の攻撃は、攻撃を見てから咄嗟に動いていたら間に合わないものだった。老オーガは、ここでスファルを確実に仕留めるつもりだったのだろう。だが、そのアテは外れた。他ならぬグレイが……『攻撃される前に、攻撃される予感だけで動ける』グレイが、ここに居たために。




 さて。こうして、場に居た者達は出遅れた。

『攻撃される』とすら思っていなかったスファルやエメディアも。『攻撃が全て防がれる』とは思っていなかった老オーガとスファルの弟……そして、この場に居る『誰か』も。皆が予想を裏切られ、戸惑ったために出遅れたのだ。

 ただその中で唯一、動けた者がいる。

 そう。攻撃を感じ取り、実際にそれを防いでみせて、多くの者達の予想を裏切った……グレイその人である。


 グレイは、自分だけが動けたその一瞬の間に判断し……老オーガへと、突進した。

 つまり、スファルが戦いにくいであろう相手を、自分が相手取ることを決めたのである。

「スファル!動け!階段の上だ!」

 その上で、グレイはスファルを叱咤する。叱咤しながら、老オーガを突進で倒し、そのまま大楯ごと圧し掛かって、ついでに一発、脛に蹴りを入れてやることも忘れない。

 そうして、スファルはグレイの声にはっとして動き出す。

「……そこかァ!」

 スファルはグレイの声に従って……先程『献上』したばかりのゴーレムの頭部を掴み、玄関ホールの奥、階段を上った先へと、投げた。

 上質な魔石があり得ない速度で飛んでいき、容赦なく階段の手摺を破壊する。……その裏に隠れていた何者かをも、巻き込んで。

 バキ、ガシャン、と、金属が壊れるような音が聞こえた。相手の鎧が壊れたにしては、随分と派手にいったようだが……そちらを確認している暇は、無さそうである。


「くそっ……この、人間風情が!父上に、何たる無礼を!」

 ……老オーガを押さえつけようとするグレイの横から殴り掛かってきたのは、スファルの弟、ダハブである。

 グレイは咄嗟に判断して、大楯は老オーガを押さえつけるために使い続けた。ダハブの拳は、そのまま鎧で受け止める。

 ……半ば賭けであったが、グレイは賭けに勝った。ダハブの拳は……スファルのそれよりも、弱い!

 グレイは、『これなら大楯無しでもあと一発なら耐えられるな』と安堵し……そして、スファルが階段の方に向かって走っていくのを見て、いよいよにやりと笑った。

「おいおい、あんた、スファルの弟だろ?……やっぱり、兄貴より弟の方が、弱いもんなんだな」

 そうしてグレイは、自分の役割を確実に果たしにかかる。

「……何だと?」

「あんたの方が、スファルより弱い。あいつなら、俺の鎧を一発で粉々にしただろうよ!」

 グレイがダハブを嘲笑ってやれば……ダハブの意識は、完全に、グレイへと向いた。

「貴様!偉大なるトゥルバの血を、愚弄するか!」

「偉大なる?冗談だろ?弟贔屓で不正を働く奴らが、偉大だって?」

 ……そうしてグレイが煽ってやれば、グレイの大楯の下敷きになっていた老オーガもまた、動き出した。

 大楯の下から火花が散り、グレイが慌てて跳び退けば、グレイがさっきまで居た場所を、炎が掠めて飛んでいった。

 更に、ダハブもまた、グレイに殴り掛かってくる。その拳には炎が纏わりついており……成程、魔法が得意なオーガ、というのは確かなようだ。

 だが、彼らの戦い方は、下手である。

「小癪な!」

 ダハブが火の玉を複数飛ばしてきたが、グレイはそれを大楯で弾きつつ、その幾つかは、躱すことで処理した。

 ……そして、グレイに当たり損なった火の玉が飛んでいく先は、老オーガである。老オーガは、これを魔法で相殺して処理するか、はたまた避けるか……無駄な一手を必要とすることになる。そうなると結局、2人のオーガは碌に連携できない、ということになるのだ。

 ましてや、ここは屋敷の中。そこで火の魔法を使うとなれば、当然、あれこれ考えて魔法を使う必要がある。家を燃やさないように、壊さないように……と思うのであれば、やはり、彼らは全力で戦うことなどできやしないのだ。

 つまるところ、彼らは、戦い方が下手。そういうことになるのだろう。




「よぉし!もらったぜ!また1人ッ!」

 一方、スファルは戦い方が上手い。

 家の中だからといって、躊躇しない。階段の手摺を足場にし、シャンデリアにぶら下がって、それはそれは自由に戦う。……そうして、階段の上に隠れていた兵士らしいものを殴りつけ、吹き飛ばし、吹き抜けから落として勝鬨の雄叫びを上げている。

 ……だが。

 スファルが落としたその兵士を見て……グレイは、咄嗟に理解が追い付かなかった。


 兵士が落ちて、体がばらばらになって……しかしそこに飛び散ったのは、血や肉ではない。

 鎧の残骸と……その中から零れ落ちる、金属片と、歯車と、ネジだ。




 その時。

「いやあ、実にお見事!」

 ……玄関から拍手をしながら入ってきたのは、白銀の鎧を身に纏った、騎士風の容貌の男であった。


「素晴らしい。姫君は中々の騎士を連れているようだ。ふむ、事前に聞いていた話とは少々異なるようだが……」

 白銀の鎧を煌めかせながら、その騎士はエメディアの前まで進み出る。グレイは咄嗟に、エメディアを守るべく動いたが……それよりも、騎士がエメディアに到達する方が、早い。

「おお……初めてお目にかかります、エメディア姫」

 白銀の騎士は兜の奥で笑いながら、エメディアの前で恭しく一礼し、そして……エメディアの手を取った。

「噂に違わぬお方だ。薔薇の蕾も恥じらう美しさも、獅子も平伏す勇敢さも……太陽のように眩いその魔力も!嗚呼!実に素晴らしい!」

 ……白銀の騎士は、舞台役者か何かのように台詞を紡ぐと、改めてエメディアを見つめて、喜ぶ。

「百万に一つも無い奇跡だ。貴女こそがこの世界の至宝だ。こうまで完璧な存在は他に無い!」

 見つめられ、美辞麗句を贈られに贈られるエメディアは、はじめこそ緊張していた様子だったが、それもじきに困惑と嫌悪に変化させていく。

「……あの、御託はいいわ。ご用件は?」

 結局、エメディアはなんとも嫌そうな顔で白銀の騎士に、そう言った。『できるだけ離れたい』というような顔をしているエメディアだが、白銀の騎士は相変わらずエメディアの手を取ったまま、離さない。

「おお、これは失礼。……私はアイオン・シルヴァスター。貴女をお迎えに上がりました」

 更に、騎士は続けて……エメディアのみならず、グレイをも、愕然とさせた。


「さあ、エメディア姫。どうか私と共に……メカニジアへ!」


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― 新着の感想 ―
エセ臭い騎士はちょっと良いAI搭載のメカちんなのかな
メカにはひとつ足りないものがあってな…… それはもち……ぷる……もやんとしたさわり心地である……! え?もちぷるのやわらかい機械もあるって……?それはそう
次々と愉快な人たちがお話を展開してくれて、毎晩楽しいです! ありがとうございます! 親父も弟もあんまりにもダメダメ臭がすると思ったら、メカに良いように利用されてたんかな?
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