小さな代償の、本当の重さ
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小さな代償 ― 最終章(完結ざまぁ)
侯爵領の不作は、その年の夏に決定的となった。
春の失敗した植え付けの影響は大きく、麦の穂は細く、畑の半分はまともな収穫が見込めなかった。
倉庫の前で、農民たちが静かに列を作っていた。
配給のためだ。
かつてこの侯爵領では、こんな光景はほとんど見られなかった。
ハロルド侯爵は倉庫の帳簿を見つめながら、顔を曇らせた。
「……ここまでとは」
隣にいた執事が静かに答える。
「例年の六割ほどです」
沈黙が落ちた。
その数字の意味を、誰もが理解していた。
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領民の怒り
秋になるころ、ついに不満が表面化した。
「税を減らしてくれ!」
「食べる物が足りない!」
城門の前には、領民が集まり始めていた。
暴動というほどではない。
だが、怒りは確実に広がっていた。
ハロルド侯爵は顔を青くした。
「なぜこうなる……!」
執事は答えなかった。
答えは、誰より侯爵自身が分かっていたからだ。
農業管理を担っていたエレインがいなくなり、無知な改革で畑を壊した。
それだけのことだった。
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セリアの崩壊
一方、セリアは苛立ちを募らせていた。
「どうして私の言う通りにしないの!」
農民を怒鳴りつけるが、以前のように頭を下げる者は少ない。
むしろ、冷たい視線が向けられていた。
年配の農民がぽつりと言う。
「エレイン様の時は、こんなことにはならなかった」
その一言が決定打だった。
セリアは震えながら叫ぶ。
「全部あの女のせいよ!」
しかし誰も同意しない。
その沈黙が、彼女をさらに追い詰めた。
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決定的な報せ
冬の初め。
一通の知らせが王都から届いた。
ハロルド侯爵は書状を読み、手を震わせた。
「……ローレンス公爵領の収穫量、王国一位?」
信じられなかった。
続きの報告にはこう書かれていた。
・新しい農法により収穫量三割増
・周辺領地へ技術提供
・王家より表彰
その中心人物の名は――
エレイン・ローレンス公爵夫人補佐官
ハロルド侯爵は椅子に崩れ落ちた。
「……エレイン……」
かつて自分の屋敷で、黙々と書類を書いていた少女。
誰にも認められず、追い出された娘。
その娘が今や、王国の農業改革の中心人物になっていた。
「……私は……何を捨てたのだ」
誰も答えなかった。
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最後のざまぁ
翌年。
侯爵領の財政悪化により、王家から監査官が派遣された。
農政の失敗と領地運営の不備。
結果は厳しかった。
侯爵領は一部の統治権を王家管理下に置かれることになった。
事実上の降格だった。
城の廊下を歩きながら、ハロルド侯爵は呟いた。
「……もし、あの時」
エレインを認めていたら。
追い出さなかったら。
だが、もう遅い。
取り戻すことはできない。
それが――
小さな代償の、本当の重さだった。
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そして
同じ頃。
ローレンス公爵領。
春の果樹園で、エレインはリンゴの花を見上げていた。
白い花びらが風に舞う。
隣にはローレンス公爵が立っている。
「王都からまた依頼が来ている」
「農業研究所の設立ですか?」
「ああ。君が中心だ」
エレインは少し驚き、それから静かに微笑んだ。
「やれることをやるだけです」
公爵は柔らかく言った。
「その言葉で、王国が変わり始めている」
遠くで子どもたちの笑い声が聞こえる。
果樹園には新しい苗木が並び、豊かな未来を約束していた。
エレインはそっと枝に触れる。
木が優しく囁く。
『ここは君の場所だよ』
彼女は目を細めた。
もう振り返る必要はない。
失ったものを数える人生ではなく、
**育てる人生を、彼女は選んだのだから。**
⸻
完結
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