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豊穣の加護  作者: たま


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3/3

小さな代償の、本当の重さ

いつも読んでいただきありがとうございます。

他にも作品がありますので読んでもらえたら嬉しいです。

宜しくお願いします。

小さな代償 ― 最終章(完結ざまぁ)


侯爵領の不作は、その年の夏に決定的となった。


春の失敗した植え付けの影響は大きく、麦の穂は細く、畑の半分はまともな収穫が見込めなかった。


倉庫の前で、農民たちが静かに列を作っていた。


配給のためだ。


かつてこの侯爵領では、こんな光景はほとんど見られなかった。


ハロルド侯爵は倉庫の帳簿を見つめながら、顔を曇らせた。


「……ここまでとは」


隣にいた執事が静かに答える。


「例年の六割ほどです」


沈黙が落ちた。


その数字の意味を、誰もが理解していた。



領民の怒り


秋になるころ、ついに不満が表面化した。


「税を減らしてくれ!」


「食べる物が足りない!」


城門の前には、領民が集まり始めていた。


暴動というほどではない。


だが、怒りは確実に広がっていた。


ハロルド侯爵は顔を青くした。


「なぜこうなる……!」


執事は答えなかった。


答えは、誰より侯爵自身が分かっていたからだ。


農業管理を担っていたエレインがいなくなり、無知な改革で畑を壊した。


それだけのことだった。



セリアの崩壊


一方、セリアは苛立ちを募らせていた。


「どうして私の言う通りにしないの!」


農民を怒鳴りつけるが、以前のように頭を下げる者は少ない。


むしろ、冷たい視線が向けられていた。


年配の農民がぽつりと言う。


「エレイン様の時は、こんなことにはならなかった」


その一言が決定打だった。


セリアは震えながら叫ぶ。


「全部あの女のせいよ!」


しかし誰も同意しない。


その沈黙が、彼女をさらに追い詰めた。



決定的な報せ


冬の初め。


一通の知らせが王都から届いた。


ハロルド侯爵は書状を読み、手を震わせた。


「……ローレンス公爵領の収穫量、王国一位?」


信じられなかった。


続きの報告にはこう書かれていた。


・新しい農法により収穫量三割増

・周辺領地へ技術提供

・王家より表彰


その中心人物の名は――


エレイン・ローレンス公爵夫人補佐官


ハロルド侯爵は椅子に崩れ落ちた。


「……エレイン……」


かつて自分の屋敷で、黙々と書類を書いていた少女。


誰にも認められず、追い出された娘。


その娘が今や、王国の農業改革の中心人物になっていた。


「……私は……何を捨てたのだ」


誰も答えなかった。



最後のざまぁ


翌年。


侯爵領の財政悪化により、王家から監査官が派遣された。


農政の失敗と領地運営の不備。


結果は厳しかった。


侯爵領は一部の統治権を王家管理下に置かれることになった。


事実上の降格だった。


城の廊下を歩きながら、ハロルド侯爵は呟いた。


「……もし、あの時」


エレインを認めていたら。


追い出さなかったら。


だが、もう遅い。


取り戻すことはできない。


それが――


小さな代償の、本当の重さだった。



そして


同じ頃。


ローレンス公爵領。


春の果樹園で、エレインはリンゴの花を見上げていた。


白い花びらが風に舞う。


隣にはローレンス公爵が立っている。


「王都からまた依頼が来ている」


「農業研究所の設立ですか?」


「ああ。君が中心だ」


エレインは少し驚き、それから静かに微笑んだ。


「やれることをやるだけです」


公爵は柔らかく言った。


「その言葉で、王国が変わり始めている」


遠くで子どもたちの笑い声が聞こえる。


果樹園には新しい苗木が並び、豊かな未来を約束していた。


エレインはそっと枝に触れる。


木が優しく囁く。


『ここは君の場所だよ』


彼女は目を細めた。


もう振り返る必要はない。


失ったものを数える人生ではなく、


**育てる人生を、彼女は選んだのだから。**


完結


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