第28話 元カノは運命を壊す
Side:横瀬
ここは学校近くのファミレス、今はふびと様ファンクラブの集会。
「中村さんに彼氏ができたのだって、みんなで祝福しましょう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「これで全員が彼氏持ちね」
私はまだ彼氏ができていない。
私はまだよと声に出掛かったけど、惨めになるのでやめた。
このファンクラブを辞めようかな。
そう思ってうつむくと、鞄に付けたお守り袋が目に入った。
あれにはふびと様からもらった恋愛運アップの石が入っている。
そうよ。
ふびと様の不思議パワーを信じないでどうするの。
たぶん私の相手はふびと様よ。
残り物には福があるというぐらいだからきっとそうだわ。
「みんな彼氏ができてもふびと様のファンは辞めないのね」
皮肉を込めて言ってやった。
「推しと彼氏は別。誰も芸能人と結ばれるとは思ってないよ」
「だよね」
「そうそう、遠くから応援するのが良いのよ」
根性なしどもが。
そのおかげで私はふびと様と結ばれる。
ざまぁ。
「ねぇ、彼氏を連れて来て、大規模デートしない? どこか貸し切ってさ」
「それいい」
「どこにしようかな。カラオケボックスは入りきらないし」
「私、良い所しっている。ライブハウスなんだけど、平日は赤字で、最近はおばちゃんがやっている教室とかに、貸し出しているみたい」
「じゃあ任せた」
「どんとこい」
ちょっと、私は彼氏がいないんだけど。
こうなったら、波久礼に頼むしか。
庇ってくれてたことも謝りたいし。
着々とデートの段取りが決まっていく。
もう後戻りは出来ない。
集会が終わってから、波久礼に電話した。
『何だ?』
無視しないで出てくれた。
『こんなこと今更だと思うけど、庇ってくれたことを感謝したいの。ちょっと会いたい』
『まあいいだろ』
喫茶店で待ち合わせをした。
私の方が先に着いたみたいね。
しばらくして波久礼がやってきた。
御花畑さんと、小前田さんと、あと顔を見たことはあるけど知らない2人を連れて。
「今更謝ってもらってもな」
「野神から守ってくれていたのだって。ぜんぜん気がつかなかった」
「ああ、守ってた。知らなかったのは興味がなかったからだろ」
「とりあえず、謝らせて。ごめんなさい。もっといい方法があったと思う。私のせいだわ」
「謝罪は受け入れる。それだけならもう行く。5人で遊んでいた最中だからな」
「あの、偽装彼氏としてデートに行ってほしいの」
「俺になんの義理がある。借りはないはずだ。貸しの方はいっぱいありそうだけどな」
「お願い」
「行ってあげたら。なんか事情があるみたいだから」
御花畑さん助け舟を出してくれた。
「分かった。今回きりだぞ」
ピシっと石が砕ける音がした。
鞄のお守りを触ると石が粉々になっているのが分かった。
やった。
でも波久礼は嬉しそうではなくて、怪訝な顔をしている。
「あー、災難除けの石が一つ駄目になったな」
波久礼が財布程の袋の中を覗き込み確認している。
どうも私に彼氏ができたという感じではない。
だけど、私の石は粉々になった。
波久礼が運命の相手なの。
何かが違うような。
波久礼の災難除けの石というのも気になる。
まさかふびと様に貰ったんじゃないわよね。
「その石は誰に貰ったの?」
「ああ、買ったんだ」
「そう買ったの」
ふびと様からではないのね。
よく考えたら波久礼と付き合うのは2度目。
だから、こんな感じになったのかも。
波久礼はふびと様の劣化版みたいな奴だ。
私にはちょうどいいってことなのかな。
ううん、きっと違う。
私の恋心はふびと様に届いたのよ。
きっとそう。
「じゃあ行くぞ」
気持ちの整理がつかないまま波久礼が去って行った。
とりあえず、良かったのかな。
ふびと様に会ったら、恋心が届いたか確認してみよう。
なんと言って確認したらいいのかな。
直球で付き合って下さいって言えば良いのかな。
そんなの無理。
ファンクラブの人達は全員が彼氏から告白されていた。
ふびと様に会えばはっきりする。
きっとそう。
早くふびと様出現情報がSNSに書き込まれないかな。
私はスマホの画面を見つめた。




