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#2 髭の下の可愛い顔

第二話 髭の下の可愛い顔


-こよりside-


お店からのオーダーに、ソウタ様の文字があった。


「あ。ほんとに来てくれるんだ。」


若い子は素直でいい。


40-50代は絶対行くと言っても口だけだ。


こよりは地味にソウタさんが来るのを楽しみにしていた。


敏感で反応が良いからいじめがいがあるし、ぼそっと言う一言が面白いのだ。


鼠蹊部の魅力に取り憑かれた男。ふと思い出して笑う。


インターホンが鳴り、まずはソファまで案内する。

「ほんとに来てくれたんだね!嬉しい!」


そう言うと、ソウタさんは相変わらず目を合わさず、ぶつぶつと話し出した。


「メンエスだけのために来るなんて…しかも1人で…メンエスってみんなで飲みに行った後のデザートみたいな感じやのに…それをメンエスのためだけに来るのは違和感あるっていうか…来る道も怖かったし…」


…え、なにそれ。

せっかく来たなら、そこは社交辞令でも「会いたかったから」とかでいいでしょ。

やっぱり変わってるかも…。


「そっかー、そんな中来てくれてありがとう!今日も120分だね」


「あっ…。財布、車に置いてきました…どうしよう…」


「え…。取ってきてもらえますか…?」


「は、はい!!ほんとにすみません、すぐとってきます…!!!」


財布忘れるか?普通…。

でもこよりはなぜかこういうところを見て可愛いと思ってしまうタチだ。


マッサージしながら、会話を交わす。

「そういえばおいくつなんですか?」


顔、肌、筋肉のつき方、話し方で、だいたいの年齢はわかるものだ。


20代後半だろうな。


「22っすね」

「えっ…待って、22????

見えなさすぎる!!笑 20後半だと思った!笑」

「老け顔なんです」

「…そうかも…笑 とか言ってうそ、ごめん笑」

「いや、ほんと老けすぎてるんで」


本気でびっくりした。


確かに輪郭は少しおぼこいかもしれない。

でも髭が濃いし、声もダミ声だし、肌も汚くて、服もダサい。


ごめん、それは言い過ぎたかも。

でもどう見ても22に見えない。


こんな若い頃からメンエスに来るなんて…。ママは将来が心配だよ。ママじゃないけど。


夜のお店なのに初回でお客さんのパーソナルなことを根掘り葉掘り聞くのはなんとなく良くない気がするので、こよりは仲良くなってから聞くようにしている。


基本情報があるとやはりお客さんの理解が進む。


ふああ。とあくびが出かけて、まずい。と口を塞いだ。よかった、うつ伏せだから見られてない。


最近連日シフトに入っていた疲れか、眠気がすごい。


ただでさえルームは間接照明にヒーリングミュージック、人を寝かしつける力がありすぎる。


最後ソウタさんに添い寝しながらマーメイド(自分の太ももでお客さんの太ももをはさみ、なでるようにマッサージする)している時に、こよりは数分寝てしまった。


5分も経っていなかったが、本当に寝落ちしてしまったのは初めてだった。


「す、すみません!!!あったかくて思わず寝てしまいました…ほんとにごめんなさい!お時間大丈夫でしたら延長して施術するので…」


慌てて起き上がると、

ソウタさんは優しい笑顔をしていた。


「いや、寝顔可愛かったので…見れてラッキーでした。」


え…?不覚にもこよりはときめいた。


お金払ってるのにセラピストが寝るなよって思うでしょ、普通。

なんだ急に。イケメンかよ…?


「それに、俺も昨日朝まで飲んでて二日酔いで…頭痛かったのでちょっと寝れてよかったです」


「え!そんな体調悪いのにきてくれたの?ごめん、私が来週来てって言ったから…しかも、体調悪かったんだ。なんで言わなかったの?」


「お姉さんが気を使うかと思って…」


え…


コミュ障だったんじゃないの…?(失礼)


私が寝なかったら体調不良を隠し通したであろうソウタさんの様子に、こよりは不器用なだけで心根はすごく優しい人なのかも。と感心した。


施術後、シャワーから帰ってきたソウタさんと初めて目が合った。


あれ…?こんな顔だったっけ。


こよりはソウタさんが意外とかわいい顔をしてることに今更気づいた。


これまでなんとなくで見てたからヒゲや肌荒れなど全体の雰囲気に引きずられていたが、パーツごとに見ると、すごくこより好みの顔だった。


くりくり二重の大きな目に、大きな涙袋。ふっくらした唇、少し出た可愛い前歯。子供のように膨らんだ頬。


小動物のような可愛らしさがある。


もっさりした髪型とヒゲ、ダサい服が彼の魅力を隠しているから、この可愛らしさに気づいてる人はもしかしたら少ないのかも。


「もしまた都合悪くなったら直接連絡してください!会えるのは嬉しいですけど、無理してまで来なくていいですからね?」


こよりはLINEのQRコードを出した。


「え、連絡先交換するんですか?あ、お店のLINEですか?」


「いや、私の個人LINEだけど…あ、嫌だった?予約もLINEの方が簡単かと思って。お店の方に電話してくれてもいいよ」


「LINE苦手やからあんまり連絡できないですけど…それでもよければ」


自然な流れでソウタさんの連絡先ゲット。


ほっといたら毎週予約はさすがにしてくれないだろうけど、押しに弱そうだから来てと連絡すれば来てくれるに違いない。


毎週来るのを習慣づけたら、月4本の本指名になる。これはかなり大きい。


指名が増えると上位ランクになり、指名料が上がるのはもちろん、ベース給も上がり、人気嬢という評価で指名率も上がって、好循環だ。


こよりは全てを失った自分に、何か誇れるものを取り戻したかった。ここで自分の価値を証明したかった。


玄関までソウタさんを送る時に、先週調子に乗ってソファに押し倒したことを思い出した。


今日このまま帰したら今日は何もしてくれなかったなって帰り道に残念に思うかな。

なんかした方がいいよな。


靴を履いて、

「ありがとうございました」というソウタさんの口を塞ぐように、そっと控えめなキスをした。


「こちらこそ。今日来てくれて嬉しかった。」

ソウタさんの目をじっと上目遣いで見つめて微笑む。


相手の目をじっと見つめるのは学生時代の女友達から学んだテクだ。


男性には古典的でわざとらしいアプローチがささる。


先週は激し目だったから、今日は上目遣いで清楚(?)に。メリハリが大切。


「え…あ…、ありがとう…ございます、また来ます」


またキョドってる。

可愛い。


仕事終わったら早速LINEしとこ。


恋愛経験少なそうだよなあ、ソウタさん。

ウブな20代は可愛いしリピートも取りやすい。


問題はメンエス慣れしてるお触りおじさん達をどうやって触らせずに本指にするか…


お客さんの多くは40-50代だから、そこに刺さらないと成績は上がらないが、こよりはその層が苦手だった。


可愛い、喋ってて楽しい、マッサージがうまい。口でいくら褒めてくれても、実際に返ってくるリピートは1〜2割といったところだった。


手応えと実際の成績に大きな乖離がある。


40-50代のお客さんは、会社でも家庭でも疎まれることが増えて寂しい、体力も減って若い頃より自信が持てない、そういう空虚さを抱えているのではないだろうか。


自分の男としての価値を実感したい。


だから本当に求めているのは、エロに直接お金を払わなくても女性に受け入れられてエロいことをさせてもらえる自分。


まだ女性を感じさせることができる男としての自分の価値を感じて、自分の中の空虚さを埋めたいのではないだろうか。


ただ性欲を満たしたいだけならデリヘルやソープなど他にもっと最適な選択肢がいくらでもある。


あくまでマッサージにお金を払っていて、マッサージや雑談を重ねる中でお互い気に入って、合意の上で触り合いっこしている、と言う構図がいいのかもしれない。


そこまで考察を重ねた上で、女の自分にはやはり1mmも共感できない。


一瞬だけ体を繋げて満たされてもすぐ乾いてしまわないのかな。


外側の刺激、肉体的な快感でごまかすのではなく、内側から自信や活力を取り戻してもらえないのだろうか。


家庭と社会の中の自分を維持するために、プライドも見栄も、全ての肩書きをおろして安心できる場所は作れないのだろうか。


それはまさにこよりが求めていたことでもある。


こよりは自分で自分を癒すことができなかった。自分が幸せになって許される気もしなかった。

でもお客さんを癒せた時、初めて自分も生きていていいような気がしたのだ。


これは贖罪だ。


人に誇れる仕事ではないけれど、こよりにとっては自分を誇りにできる最後の砦だった。


ラスト1件どんな人が来るんだろ。

ソウタさんみたいな人だったらいいなあ。

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