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第5話 


 ――リエルたちを冒険者の集団は追い立てる。

 彼らには大した目的もなかった。ただ公認冒険者であるウィルに対して嫌がらせをしようと思っているだけだ。

 あの綺麗な顔をした男や少女に対して少々やりすぎてしまうかも、と彼らは予期していたが気にすることはなかった。やりすぎて投獄されるような結果になっても構わないのだ。古い冒険者にとって、誰かを痛めつけたという罪は勲章でしかない。

 リエル達が建物の角を曲がったので、彼らもそのまま追いかけようとした。

 暴力の気配に胸を高鳴らせながら、彼らも建物の角を曲がった。


 結果として彼らはウィル達に追いつけることはできなかった。


 建物に囲まれた狭い通路に入ったとき。仲間の一人が唐突に倒れた。

 いや、何者かによって殴り倒されていた。


「――ッ??」


 いつの間にか彼らの目の前に一人の男が立っていた。

 その男によって仲間の一人が踏みつけにされていた。倒れている仲間は叫ぼうとするが、男によって喉を思いっきり踏まれて黙らされる。

 金色と黒色が混ざった特徴的な髪。ぎらついた目。

 

「よぉ。雑魚ども」


 冒険者ジャックが立っていた。

 旧来の冒険者の象徴ともいえる、暴力の体現者。

 面白半分で人を半殺しにする人格破綻者。


 既にリエルとウィルの姿はない。

 ジャックはけたけたと笑い、足元に横たわる男を蹴飛ばした。蹴飛ばされた男は壁に衝突し、そのまま倒れこむ。

 そしてほかの冒険者たちと向き合う。


「ご主人様のお出かけを邪魔させるわけにはいかねぇんでね。てめぇら。とりあえず死んでくれや」


 冒険者たちは思わず後ずさる。先ほど蹴飛ばされた男の方に視線を向けると、男は泡を吹いて気絶をしていた。

 冒険者の一人。赤髪の男はジャックを睨みつける。


「でめぇ。ジャック! お前、なんのつもりだよ」


 ジャックは「ハァ?」と首をかしげる。


「だ、か、ら。言っただろう? 馬鹿か、お前は。俺様のご主人さまの楽しいお出かけを邪魔させねぇためだよ。そんで、邪魔はお前らのこと。だから死んでくれって話だ」


 ジャックは舌を出して、相手を挑発するように笑う。

 

(ああ~。こういう感じだよな、俺ってやっぱり)


 心の中でジャックはそう思った。

 暴力で他人を怯えさせる。

 とりあえず相手を馬鹿にする。

 そういうカスが自分なのだと実感する。


 赤髪の男はぺっと地面に唾を吐き捨てる。


「ふん。噂は本当だったみてぇだな! あのジャックがガキに尻尾振っているってのは? あんなガキのどこが良いんだぁ?」


 男の挑発に取り合わず、ジャックは眠そうにあくびをしてみせる。


「はぁ。そういうの良いから。どーせ、くたばる雑魚が何を言ったとして、何の価値にもならねぇんだからよ」


「……て、てめぇ。上等じゃねぇか」


 赤髪の男が怒りを強くしたのを見て、ジャックはまた笑う。


「よっしゃ。じゃあ、やりあおうじゃねぇか……おい! そこの奥にいる奴らも隠れてないで出てこい!!」


 赤髪の男達の仲間がまだいること。建物の奥にいることをジャックは気づいていた。

 ジャックは挑発するように手招きする。

 赤髪の男はとうとう怒りが頂点に達したのか、後ろを振り向いて仲間達に呼びかける。


「おい! お前ら出てこい!! このゴミをぶちのめ――――」


 男は最後まで言うことができなかった。

 一瞬、背後を向いた。

その隙を突かれてジャックに飛びかかられ、蹴り倒されたのだ。


「律儀に待ってやるわけねーだろ!!! バー――――――――カ!!!!!!」


 ジャックは笑い、赤髪の男を蹴り倒した。

 彼の仲間が続々と出てきたが、既に遅い。

 赤髪の男はジャックに殴られ、更に目を潰され、一瞬にして歯も砕かれた。


 ジャックは男達の方を見て、手招きする。


「こいよ!! 雑魚共!!!」


 目の前の冒険者達は懐からナイフを取り出し、ジャックに襲いかかってくる。


「はぁぁ? おっそ!! 寝ぼけてんのか、てめぇら!!!」


 ジャックは全ての攻撃を避け、一人のナイフを簡単に奪い取り、目の前の男の足を切り裂く。悲鳴が上がる。次の瞬間には別の悲鳴、ジャックに建物の壁に押さえつけられ、そのまま叩きつけられた男の悲鳴が上がる。


 血。骨が砕かれる音。悲鳴。

 人間が壊れる音がする。


(マスターは今頃どうしてっかな……)


 人間が壊れる音を聞きながら、ふと、ジャックはマスターに想いをはせた。


(今ごろは海辺近くの公園に着いている頃か。デートスポットを色々調べていて、ようやく決めた目的地だもんな。楽しんでるといいけどよ……)


 相手の顔面を執拗に何度も殴りながらリエルに想いをはせる。


(もう夕方だ。『絶対に海岸で夕日を一緒に見るの!!』と言ってたが、実現できたのかね?夕日の何処か良いのか俺には分かんねぇけど……いやマスターだって分かってねぇか……)


 「やめてくれぇ!!」という懇願に耳を貸さずに相手の腕の骨を折りながら、リエルのデートの行く末を案じる。


(まぁ。心配しても俺にできることは大してねぇよな。こうやって汚れ仕事をできるだけでも充分だろうよ)


 目の前の男を蹴飛ばし、顔面を踏みつけにする。グシャリと骨が潰れる音がした。


(……ああ! 誰かのためになる暴力ってのは気分が良い!!)


 最期の一人を執拗に殴り倒した後、ジャックは空を見上げた。

 思った以上に敵は多かったせいか、いつの間にか空は夕日に染まっていた。


(――ジャック。終わったかしら?)


 そこで再びリエルの声が聞こえてきた。


(ええ。問題なく。いちおう殺さないように手加減したせいで時間がかかっちまいましたが)


(構わないわ。私の方はおかげでデートは無事終わったし!!)


 リエルの言葉は喜びで弾んでいた。

 どうやら本当にデートは無事に成功したらしい。


(ああ~。本当にロマンチックなデートだったわ! ウィル様と手も繋たんだもの! それにまた会う約束もできたの! 今度は彼が街を案内してくれるのよ)


(そいつは……良かったです。本当に)


(もう解散したから私も帰るけど……アナタはどうする? 折角だから街で遊んできても良くてよ。あとで迎えに来てあげるし)


 ジャックはふぅーと息を吐いてリエルに言葉を返す。


(それじゃお言葉に甘えまして。たまにはギルドの酒場の酒でも飲んできますわ)


(そう。じゃ、後でね)


 リエルの言葉はもう聞こえなくなった。

 ジャックは頬についた返り血を拭い、歩き出す。

 彼にはまだ仕事が残っていた。


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