風の魔法【加筆版】
「試験の風と異議」の続きです。
エルフ族の女の子が静かに口を開いた。
「風魔法は、基本的には操作が難しい魔法よ。ほとんどの人は的を破壊するほどの荒々しい力しか出せない」と彼女は説明を始めた。
長い耳が微かに揺れ、透き通った瞳が会場を見渡す。
彼女の声は穏やかだが、確信に満ちており、聞く者の注意を引きつけた。
「制御が甘ければ的ごと周りを吹き飛ばしてしまうことも珍しくないわ。風ってのは自由で気まぐれなものだから、思い通りにするのは至難の業なの」と彼女は続ける。
会場にいた貴族の子たちの中から、「たまたまじゃないのか?」と疑う声が上がったが、彼女は動じず、さらに言葉を重ねた。
「でも、この人は狙って的を回転させたように見えた。ただ吹き飛ばすんじゃなく、精密に制御して、あえて壊さずに回したのよ。そんな繊細な操作、普通なら失敗して的を粉々にしたり、周囲を巻き込んだりするだけ。私だって、風をここまで意のままにするのは見たことがないわ」
と彼女は力強く主張した。
その言葉に、会場が一瞬静まり返った。
彼女は少し間を置き、さらに詳しく説明を続けた。
「風魔法をここまで操れるなんて、魔法が得意なエルフ族くらいしかできないはず。私たちの村でもこんな制御は熟練者にしかできない技術よ」
と彼女は確信しているかのように語る。
「子供の頃、父が風で木の葉を一本ずつ浮かせて見せてくれたことがあるけど、それでも少し揺れてた。でも、この人の風は的を完璧に回して、揺れすらなかった。偶然なんかじゃなく、意図的な技術だとしか思えないわ。」
と彼女は付け加えた。
その言葉に、会場が再びざわつき始めた。貴族の子たちが顔を見合わせ、驚きの呟きが広がっていく。
「エルフ族並み…?」「平民なのに?」「本当かよ…」と声が飛び交い、さっきまでの嘲笑が困惑と嫉妬に変わっていた。
ニュートは少し照れた様子で頭をかきながら口を開いた。
「いや、そんな大したことじゃないよ。たまたまうまくいっただけで、狙ったってほどでもないしさ…」と謙遜する。
しかし、エルフの女の子は首をかしげて目を細め、彼をじっと見つめた。「たまたま?そんな偶然で風をここまで制御できるはずがないわ。あれは意図的な操作だったでしょう?それとも、何か別の力でも使ったの?」
と彼女が真剣な声で問いかける。
ニュートは少し言葉に詰まった。
確かに、彼は的を回そうと思って風魔法を使った。だが、そんなすごいことだとは思っておらず、ましてやエルフ族並みなんて考えもしなかったのだ。
「えっと、まあ、回そうとは思ったけど…別に大げさなもんじゃないよ。ただ、壊すより面白いかなって思っただけで…」と彼がぼそっと呟くと、彼女は小さく頷き、じっと彼を見つめた。
その瞳には、驚きと興味が混じっているように見えた。
試験監督が少し考え込むように顎を撫で、渋々といった様子で口を開いた。
「ふむ…確かに、ただの風魔法とは違う何かがあったのかもしれん。エルフ族の指摘も無視できんな」と彼は呟く。
そして、ニュートを一瞥し、冷たい声で続けた。「評価をBに変更する。次へ進め」と告げた。
貴族の子たちがざわつきながらニュートを見た。
「Bに上がった…?」「あの平民が?」「何だよ、あのエルフの言う通りなのか?」と囁き合い、会場が再び騒がしくなる。
ニュートは少し驚いたが、内心ほっとしていた。「まあ、Bなら悪くないか。Cよりはマシだな」と彼は心の中で呟き、緊張が少し解けた。
エルフの女の子は満足そうに小さく頷き、静かに元の場所に戻った。
その背中を見ながら、ニュートは彼女の言葉を頭の中で繰り返した。
「エルフ族くらいしかできない…か」と彼は考え込む。
彼女の視線が一瞬ニュートと交錯し、かすかに微笑んだ気がした。その微笑みには、彼の力を認める温かさと、さらなる可能性への期待が込められているようだった。
試験は続き、会場には新たな緊張感が漂い始めた。
ニュートの風魔法の真価が少しずつ明らかになりつつあり、彼自身もその力の深さに気づき始めていた。エルフの女の子の言葉がきっかけとなり、ニュートの魔法への理解と自信が、静かに芽生えようとしていたのだ。
続きは
「再会」
になります。
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