試験の風と異議【加筆版】
「王都への第一歩」の続きです。
王都での出会いから数日後、ニュートはついに試験会場に到着した。
オクサゾール王国王都魔法学院の門をくぐると、広大な敷地にそびえる石造りの建物が目に飛び込んでくる。
灰色の石壁には歴史の重みが刻まれ、尖塔が空に突き刺さるように立っている。
周囲には貴族の子たちが大勢いて、華やかな服や堂々とした態度が目立っていた。
彼らの笑い声や自信に満ちた会話が響き合い、会場に活気を与えている。
「やっぱり平民の俺、浮いてるな…」とニュートは呟き、少し肩を縮めて歩いた。
質素な服を着た彼は、色とりどりの衣装に囲まれ、場違いな気分を隠せない。
ざわざわした空気の中、彼は自分の存在が小さく感じられ、足取りも重くなっていた。
その時、重厚な扉が軋みながら開き、試験監督が姿を現した。
背の高い男で、鋭い目つきと厳格な声が会場を一瞬で静かにさせた。
「諸君、ようこそ。一次試験の内容を説明する」と彼が言うと、全員が息を呑んで耳を傾けた。
「基礎魔法試験だ。各々が得意な魔法をこの的に向かって射出せよ」と監督が指した先には、頑丈そうな木製の的がずらりと並んでいる。
その表面にはすでにいくつかの焦げ跡や傷が見えた。
「それでは、始めなさい」と監督が告げ、試験が始まった。
貴族の子たちが次々と前に出て、魔法を披露していく。
「炎よ、燃え上がれ!」と一人が叫ぶと、大きな火球が的を直撃し、木っ端みじんに砕けた。
破片が飛び散り、観衆から感嘆の声が上がる。
「水よ、切り裂け!」と別の子が杖を振ると、水の刃が鋭く的を真っ二つに切り裂いた。
的が次々と破壊されていく中、会場には拍手と歓声が響き渡り、貴族の子たちの実力が際立っていた。
「さすが貴族の子だな…」とニュートは少し感心しながら、自分の順番を待った。
彼らの魔法は派手で力強く、平民の自分との差を感じずにはいられない。それでも、彼は静かに杖を握り、自分の力を信じようとしていた。
そして、いよいよニュートの出番が来た。「受験番号47、ニュート。前に出なさい」と試験監督の声に呼ばれ、彼は緊張しながら的の前に立った。
会場中の視線が彼に集まり、心臓がドキドキと高鳴る。「何の魔法にしよう…」と考える中、今朝アリサとミサに褒められたことを思い出した。風魔法なら、自然に操れる。
ただ壊すだけじゃつまらないから、ちょっと工夫してみようか――そう決めたニュートは、深呼吸して杖を握り、心の中で風をイメージした。
「風よ…!」と呟きながら杖を振ると、柔らかな風が巻き起こり、的を包み込んだ。すると、的がクルクルと軽快に回転し始めた。
ニュートが狙った通りの動きだ。破壊はせず、あえて回すだけに留めたその魔法は、彼らしい繊細さを見せていた。
「よし、うまくいった」とニュートは小さく満足して杖を下ろした。
しかし、周りからくすくすと笑い声が漏れ始めた。
「何だ、あれ?的が回っただけ?」と一人が囁き、「風魔法で壊せないとか、弱すぎるだろ」と別の子が嘲笑する。
貴族の子たちの声が耳に届き、会場に軽いざわめきが広がった。
試験監督が冷たく呟いた。
「評価はCだな。次へ進め」と淡々と言い放つ。
ニュートはその笑いを聞いて首をかしげた。「壊すだけが魔法じゃないだろ…?」と心の中で思う。
彼は別に落ち込む気はなかった。狙い通りに風を操れたのだから満足だったが、「とはいえ、C評価はまずい」と少し焦りも感じていた。
その時、会場の片隅から鋭い声が響いた。「待ちなさい!」全員が振り返ると、長い耳と透き通った瞳を持つエルフ族の女の子が立っていた。
彼女は静かに、だが毅然とした足取りで監督に近づいた。長い銀髪が風に揺れ、その存在感が会場を圧倒する。「その評価、おかしいわ」と彼女がはっきりと言った。
監督が眉を上げて彼女を見た。「何だ?何か異議があるのか?」と問うと、彼女は怯まず、ニュートの使った風魔法を指して続けた。
「確かに的を壊してはいない。でも、あの風魔法は精密な操作をしていた。見過ごすべきじゃないわ」
と主張する。彼女の声は落ち着いており、確信に満ちていた。
会場が一瞬静まり、貴族の子たちがざわつき始めた。「何?」と囁く者もいれば、「確かに…あんな風魔法、見たことない」と感心する声も聞こえる。
ニュートは驚いて彼女を見つめた。彼女だけが、彼の意図した風魔法の価値に気づいていたのだ。
彼女の透き通った瞳がニュートを捉え、彼の胸に小さな希望が灯った。
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