疑いと精霊の気配【加筆版】
「レインと魔法の謎」の続きです。
その日から、ニュートの魔法修行が始まった。
太陽が庭を柔らかく照らす午後、穏やかな光が草木に反射し、小さな家を取り巻く風景に温もりを与えている。
レインはいつものようにニュートの前に立ち、杖を手に持つ彼女の姿が庭に映える。
彼女は生意気な態度が目立つ少女だが、教える時には真剣な表情に変わる。
その切り替えの早さが、ニュートには少し不思議に思えた。
「杖をこう持って。イメージを集中させるのよ」とレインが言う。
彼女の声は少し尖っていて、どこか命令するような響きがある。
ニュートは言われた通りに杖を握り直すが、その手つきはぎこちなく、慣れない感触に戸惑っている様子だ。
何か起きるのを期待しながら、彼はゆっくりと手を動かしてみる。しかし、杖はただの木の棒のように静かで、何の反応も示さない。
「あの日から、魔法の気配すら感じないよ…」とニュートが小さく呟いた。
声には落胆と不安が混じり、肩が少し落ちている。
レインはその言葉を聞き、怪訝そうに目を細めて彼を見上げた。彼女の視線は鋭く、まるでニュートの心の中を探るようだ。
「ねえ、ニュート。あなた、本当に魔法を使ったの?」
と彼女が問いかける。
「え?何?」とニュートが聞き返すと、レインは腕を組んで少し口を尖らせた。
その仕草には、どこか疑うような雰囲気が漂っている。
「だって、私見てないし。『すごい魔法』って言うけど、ちょっと怪しいよね?」
と彼女が続ける。言葉には棘があり、ニュートの話を信じていないことがはっきりと伝わってくる。
その疑うような口調に、ニュートの胸がカッと熱くなった。
彼はムキになって反論した。
「疑うの!?森で木々が倒れて、地面に穴が開いたんだよ!本当だよ!」
彼の声は少し震えていたが、必死に自分の体験を訴えている。
レインは一瞬黙り、考え込むように視線を宙に彷徨わせた。彼女の表情には、疑念と好奇心が混ざり合っている。
「ふーん…でも、さっきから何も出てないよね。それに、その時って詠唱してないんだよね?」と彼女が冷静に指摘する。
「うん…。ただ手を伸ばしただけで光が溢れて…」とニュートが答えると、レインはつぶやく。
「無詠唱の魔法なんて大陸で数えても数えられるくらいしかいないし。」
彼女の目が一瞬大きく見開かれ、何かに気づいたような表情が浮かんだ。
「待って。それってもしかして…精霊魔法じゃない?」と彼女が口にした。
「精霊魔法って何?」とニュートが首をかしげると、レインは少し得意げに説明を始めた。
彼女の声には自信が宿り、教えることに喜びを感じているようだ。「精霊の力を借りる魔法よ。でも、気まぐれな精霊と契約しないと使えないの。普通の魔法とは全然違うんだから」と彼女が続ける。
「じゃあ、あの暴発は…?」とニュートが尋ねると、レインは少し首をかしげて考え込んだ。
「偶然、精霊が反応しただけかもね」と彼女が言う。その言葉に、ニュートはさらに混乱した表情を見せた。
「でも、それならどうやって…?」と彼が呟くと、レインは軽く肩をすくめて笑った。
「さぁね。精霊に好かれるタイプには見えないし」と彼女がからかうように言う。
「なんだよ、それ!」とニュートがムッとして言い返すと、レインはくすっと笑って目を細めた。
二人はそんなやり取りに夢中になり、互いの言葉に熱が入っていく。
その時、背後の森が静かにざわめき始めた。木々の葉が微かに揺れ、風とは異なる不自然な動きが広がっていく。
地面に落ちる影がゆっくりと伸び、まるで何かが近づいてくるかのように庭の雰囲気が変わり始めた。空気が重くなり、鳥のさえずりがぴたりと止む。
それは魔物の存在を示す気配だった。森の奥から漂う異様な空気は、徐々に濃密になり、二人の立つ場所へと忍び寄ってくる。
しかし、ニュートとレインはまだその異変に気づいていない。魔法の話に没頭する二人の背後で、静かな脅威が迫りつつあった。
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続きは
「絶望と運命」
になります。
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