レインと魔法の謎【加筆版】
ニュート、8歳。
彼の暮らす家は、家族の愛に満ち溢れていた。
父と母はいつも優しく穏やかで、ニュートや弟妹たちに温かい眼差しを向けている。
毎日は笑い声が響き合い、朝は母が作るスープの香りが家中に漂い、夜は父が暖炉に薪をくべる音が心地よく響く。
そんな日常は、まるで輝く宝物のように家族全員にとって大切なものだった。
ある日、ニュートは弟妹たちと一緒に森で遊んでいた。
木の実を集める遊びの中で、彼は高い枝に実がなっているのを見つけ、少し背伸びしてそれを取ろうとした。
するとその瞬間、突然眩しい光が辺りを包み込んだ。光はまるで太陽が地上に降りてきたかのように強烈で、周囲の木々や草が一瞬にして白く染まった。
次の瞬間、耳をつんざく大きな音が響き、木々がバキバキと折れながら倒れ始めた。
地面が揺れ、土煙が舞い上がり、ニュートの足元には深い穴がぽっかりと開いていた。弟妹たちは目を丸くして立ち尽くし、森全体が静寂に包まれた。
風が木の葉を揺らす音だけが、かすかに聞こえてくる。
「僕が…やったのか?」とニュートは呟いた。
驚きと戸惑いが彼の小さな胸を締め付け、心臓が激しく鼓動していた。
手はまだ震え、頭の中は混乱でいっぱいだ。彼は弟妹たちを連れて急いで家に走り戻り、息を切らしながら父と母にその出来事を報告した。
父と母は最初驚いた表情を見せたが、すぐに目を輝かせ、ニュートをぎゅっと抱きしめた。
「ニュート、すごいよ!魔法使いの才能だ!」
と母が弾む声で叫んだ。彼女の声は喜びに満ち、いつもより少し高く響いた。
父は大きな手でニュートの頭を撫で、にこにこしながら言った。
「これは大ごとだ。すぐに先生を呼ぼう。こんな才能を伸ばさないなんて勿体ない。」
その言葉に、ニュートの心は期待と不安で揺れ動いた。魔法使いという言葉が頭を離れず、森での出来事が何度も脳裏に蘇る。
翌朝、家のドアを叩く音が響いた。
母がドアを開けると、そこには杖を持った少女が立っていた。彼女は「レイン」と名乗り、10歳だと自己紹介した。
ニュートより2歳年上で、長い髪を風に揺らし、生意気そうな鋭い目でニュートを見下ろしてきた。
「ふん、あんたがニュートね。まあ、見てなさい」と彼女は言った。
その態度にニュートは少しムッとした様子だったが、レインが杖を構えると、皆の視線が彼女に集まった。
レインは目を閉じ、口早に詠唱を始めた。
言葉が空気に溶け込むように響き、次の瞬間、彼女の目の前に大きな炎の球が現れた。
その炎はまるで生きているかのように揺らめき、周囲の空気を熱く焦がした。弟妹たちは「おおー!」と歓声を上げ、母は感心したように頷き、父は静かに見守っている。
レインの魔法は確かに見事で、彼女の自信に満ちた表情がその実力を物語っていた。
しかしニュートは何かを感じ取っていた。
森で彼が魔法を暴発させた時のことを思い出す。
あの時、彼は詠唱などしていなかった。
ただ木の実を取ろうと手を伸ばしただけなのに、眩しい光が溢れ出し、木々が倒れ、地面が裂けた。あの力は意図せず自然に湧き上がり、彼自身の一部であるかのように感じられた。
レインはニュートの方を振り返り、少し眉を上げた。
「何?変な顔してるわね」と彼女が言うと、ニュートは慌てて首を振った。
「う、ううん、何でもないよ!」と誤魔化したものの、彼の心の中では疑問が渦巻いていた。
レインの魔法は詠唱によってコントロールされている。一方、ニュートの魔法はまるで彼の意志を超えて溢れ出すものだった。
その違いは何なのか。あの力の正体は何なのか。
レインは杖を下ろし、得意げに腕を組んだ。
「まあ、初心者のあんたにはこれくらいで十分でしょ。次はあんたの番よ。やってみなさい」と挑戦的な視線を向けてきた。
ニュートは少し緊張しながら頷いたが、心の奥では森での出来事が頭を離れなかった。
彼の魔法の謎はまだ解けないままだった。
この力がどこから来て、どうやって使うのか――その答えを探す旅が、今始まったばかりなのかもしれない。
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「疑いと精霊の気配」
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