マリの冒険
初めて書いた短編小説です。良かったら最後まで読んでください。一応どんでん返し的な奴はあります。
険しい山岳地帯の広い谷の中に一軒の家があった。近所の木を切り倒して出てきた木材を使い、組まれた温かみのある家。
そこにエリとマリがいた。
エリはベッドに仰向けに倒れていて、時折苦しそうに咳をしている。
マリは木でできたダイニングチェアに座って、その姿を見守っていた。
「やっぱり体調良くならないね」
マリはエリに話しかけた。
「うん。いつもならすぐ直るんだけど」
「薬が悪かったのかなぁ」
マリはそう言い口に手を当て、下を向いた。
エリはごほっごほっと咳をして
「分かんない。耐性がついちゃったのかも」
と言った。マリは顔を上げ
「仕方ない。エリのために新しい薬草取ってくるよ」
「あの白のダンジョンに潜るの?」
「まぁそういうことになるね」
エリが聞いてマリが答えた。
「ダメだよ。危ない」
エリは慌てた様子で言う。
「大丈夫だって。リボルバーはあるし地図もある」
マリはそう言いながらリボルバー(銃のこと)をホルスターにセットした。地図を手に取り、四角に折りたたんでポケットにしまう。
「でも……」
「大丈夫。必ず戻るよ」
マリは笑顔を作ってエリに言った。それから
「これが終わったら結婚しよう」
と続けた。エリは弱弱しく笑って
「それ絶対死ぬ奴」
「まぁちゃんと戻るからさ。行ってくる」
エリは大きなため息をついて
「行ってらっしゃい」
と言った。
***
深い森の中に穴があった。
それは半径二メートルほどのかなり大きな円で、山肌にぽっかりと空いている。近くにはボロボロな看板が一つあって、白のダンジョン入口と書かれてあった。
あたりには雑草や葉っぱが生い茂り、まったく手入れされていない。
そこにマリがいた。
マリは穴の前に立っていて、険しい表情をしている。そして頭を抱えたり、ジタバタしたり、拳を口の前に持ってきたり、何かと動いていた。
うんうん唸って、ひとしきり悩んだ後
「よし、行くぞ」
そう言って、穴の中に入った。
***
穴の中は真っ白だった。
石でできた壁も、一定間隔でついてある松明も全てが白く、そんな道がずっと続いている。
マリはその一本線を、ひたすら歌を口ずさみながら歩いていった。
暫く行った頃、マリはモンスターを見つけた。
背が低く小柄な体格の、白いゴブリンだった。髪も髭もなくつるつるで、手に中くらいの棍棒を、1つ持っている。
薄汚れた、そしてカビの生えた藁を腰に巻いていた。棍棒と藁だけが茶色だった。
ゴブリンもマリに気付いた。
「キエエエエエエ」
そのけたたましい叫び声と共にゴブリンが走ってきた。
マリはホルスターに手を伸ばして、リボルバーを抜いた。
ゴブリンは走りながら、棍棒を振りかぶる。
マリは狙いを定めた。
そして、撃った。
乾いた破裂音があたりに響いて、ゴブリンは仰向けに倒れる。
ちょうど頭に数ミリの穴が開いて、そこからだらだらと鮮血が流れて、あたりを濡らした。
マリはふうと息をついて、リボルバーをホルスターにしまう。
そして延々と続く白い道を歩いて行った。
***
「うげぇ」
マリは思わず呟いた。
そこは神殿の跡地だった。
石畳の床があって、たくさんの柱があって、そしてその大半が壊れている。床には何かをぶつけたような、柱には多種多様な傷がついていた。折れているものもあった。
そこに白骨死体があった。
白骨死体があった。白骨死体があった。白骨死体があった。白骨死体があった。白骨死体があった。白骨死体があった。白骨死体があった。
数え切れないほど白骨死体が神殿のいたるところにあった。柱にもたれかかっていたり、道端に転がっていたり、頭だけのものもある。
マリはその元人間たちを踏まないようにしながら進んで行く。
ふとあたりを見渡した時だった。
きらり、と光るものを白い骸骨の首からマリは見つけた。
それは宝石のついたネックレスだった。
銀色のチェーンに赤い石がはめ込まれた、かなり大きめのネックレス。チェーンには見たこともないような文字がびっしりと書かれていて、重要な物と言うのが見て取れた。
マリは辺りを見渡し、誰も居ないのを確認して、それをポケットに入れる。
そしてまた、先へと進んで行った。
***
一本の橋をマリは歩いていた。
白い石でできた、今にも崩れそうな橋。下には何もなく、大きな穴が開いていて、底は見えない。
上にはたくさんのゼーネの蝙蝠が天井に吊っており、すやすやと眠っている。広げたら2メートルはある翼も今は閉じていた。
明かりはほとんどなく、点々と置いてある松明だけがマリの道しるべだった。
マリはその橋を音を立てないように、ゆっくりと歩いていた。橋の先には扉があって、そこに向かっている。
慎重に、慎重に、歩く。
橋が少し崩れた。
そしてマリは、こけた。
その瞬間、今まで閉じていたゼーネの蝙蝠の目が一斉に開かれた。鋭い眼光が、暗闇の中で光る。
「やっべ」
マリは呟いた。それから急いで起き上がり、扉に向かって一直線に駆けだした。
突如、ゼーネの蝙蝠が落ちた。
ひゅおおおおおお、という音をまき散らしながら、翼を畳んだまま落下する。そして橋から8メートルほどの上の高さで反転し、翼を開いた。
マリは走りながら振り返り、ゼーネの蝙蝠を見る。
大きく、そして醜くかった。
一般的な蝙蝠に手と足を生やし、体を白く塗ったような姿だった。ぎりぎりと歯ぎしりをして、よだれが滴り落ちる。
マリは立て続けに三発撃った。
ゼーネの蝙蝠は体を旋回させ、弾丸を避ける。それから橋のすれすれまで降りてきて、滑空しながらマリに迫った。
マリはもう振り向かず、扉に向かって走った。
ゼーネの蝙蝠が口を大きく開けて、マリを食べようとした瞬間、何かにぶつかった。
壁だった。
マリは逃げ切った。
***
白い通路だった。
石でできた壁も、床も、松明も、上も、下も、右も、左も、ただただ白かった。 唯一松明の持ち手部分だけ茶色だった。
その道にマリがいた。
これまた白い扉の前で、地図を持って顔をしかめている。
「多分この先のこの先が薬草があるんだけどなぁ」
マリはぼそりと呟いた。
「でも絶対ボス部屋……」
とも、付け足した。
それからマリは地図を回したり、すごい形相で睨んだり、ちょっと破ってみたりした。そして覚悟を決め、扉を開けた。
ぎいいいいいいと歪な音が鳴った。
扉の先は大きなドーム型のホールだった。
ドームの中央は楕円のフィールドになっていて、奥に門がある以外何もなかった。ただ、一匹のモンスターがそこにいた。
ジュエルオーク(この場合、宝石ムカデとオークが合体したものとする)だった。
まるで宝石の様なきらびやかな装甲をまとい、大剣を片手につったている。股の下に宝石ムカデの顔があるのが特徴的。今は見えない。
ジュエルオークはマリを見つけて、
「&%%'%%&#$''))""""!$%&」
と言った。マリは無視して歩いた。
今度はジュエルオークは大剣を前に突き出して
「”$(’()!!!!!!!!!($(」
と言った。マリは無視して歩いた。
それから不意に立ち止まって、ホルスターに手を伸ばした。
ハンマーを起こし、狙いを定める。
「?」
ジュエルオークは不思議そうな顔をした。
そして撃った。
乾いた破裂音がして、ジュエルオークの装甲にあたった。弾丸は弾かれ、地面にカラン、と落ちる。
「あーこれ、先に宝石ムカデを倒さないと弾、あたんない奴だ」
マリは薄笑いを浮かべて、言った。
ジュエルオークは弾丸が当たったところを手で触った。小さな傷が出来ていることに気付く。
それから落ちた弾丸に目をやって
「!!!!$”&T'"('U)#))$Y(Y"()()U))#!yfNKNVN!!!」
叫んだ。そして大剣を片手に突っ込んできた。
ジュエルオークは右手一本で、猛烈な速さで右上から左下に、振り下ろした。
マリは左足で後ろに飛んで、躱した。
大剣の右手が回転する。ジュエルオークは音もなく刃を返した。そのままの勢いで今度は左下から右上に振り上げる。
マリはジュエルオークが右手を返した瞬間、軽く後ろに引いていた。そして今度は右足で踏み込み、ジュエルオークの股にめがけて滑り込んだ。
そしてリボルバーのハンマーに親指をやった。
股を丁度通過する瞬間、宝石ムカデと目が合った。1つ目で、ダイヤモンドの用に輝いている。
マリは、リボルバーの引き金を引いた。
ハンマーが雷管を叩いて、液体ガスに火が着火して、物凄いスピードで弾が発射された。
弾丸はマリの狙い通り、宝石ムカデの目を粉々にした。その瞬間、今までオークを覆っていた宝石ムカデの体が粉々になって、砕け散った。
醜い巨体が、無防備にさらされる。
白いゴブリンを大きくしたような姿だった。違いは、下あごが前に出ていて、全体的に顔が四角になっている所。
マリはスライディングの後、その勢いのまま走り、反対方向に行っていた。
オーク(ジュエルオークは宝石ムカデが居なくなると普通のオークに戻る)は大剣を構えて、再び突っ込んできた。
「やめた方がいいと思うけど。今、君無防備だよ」
マリはそう言って、撃った。
乾いた破裂音がして、オークの右太腿に穴が開いて、そこから血があふれ出した。オークは少しよろめいたものの、左足で踏ん張り、再度向かってくる。
マリはその姿を無表情で眺めて、そして撃った。
今度は左太腿に直撃し、踏ん張りがきかなくなったのか、思わず倒れた。ずざざざざああ、と音を立て地面を滑りながら、マリの1歩手前で止まる。
1秒後、オークが顔を上げた。銃口を構えるマリと目が合った。
「やっと撃ちやすくなった」
マリは言った。
そして、引き金を引いた。
***
美しい野原だった。緑の絨毯が、見渡す限りどこまでも続いていて、白い世界を彩っている。
そこにマリがいた。大きな袋にその草を詰めていて、怪しげな顔をしていた。
「へへへ。こんなに薬草があれば……」
と時折呟きながら草をむしり取っている。
そうして10分程たった頃、元来た扉から戻って行った。
***
険しい山岳地帯の広い谷の中に一軒の家があった。近所の木を切り倒して出てきた木材を使い、組まれた温かみのある家。
そこにエリとマリがいた。
エリはコップに入ったメメラ(薬草をつぶしてお湯に溶かしたもの)を飲んでいて、マリはそれを椅子に座り、見守っていた。
「どう元気になった?」
マリが微笑んで言った。
「早いよ」
エリは笑って返す。そして
「でもありがとうね。わざわざ取りに行ってくれて」
「別にいいよ、それくらい。それに掘り出し物もあったし」
「どんなもの」
エリが言った。マリはそれを聞き、ポケットからネックレスを取り出す。
「わぁこれ凄いね。どこで見つけたの」
「人間の白骨死体の首!!」
「そんなもの持って帰ってくるな」
エリが突っ込む。それから
「人間か、確か数百年前に滅んだ生き物だよね」
と続けた。
そうそう、とマリは言って
「でもなんでだろうね。凄い科学技術だったらしいのに。このリボルバーも」
「さぁなんでだろう」
エリは言った。エリはたれ目で白髪。愛らしい顔を持つ。そして角が生えていた。皮膚は髪よりも白く、人間ではなかった。
「まぁそんなのどうでもいいよ。それよりご飯にしよ」
マリが言った。マリはたれ目でで蒼髪。凛々しい顔を持つ。そして猫の様な耳が生えていて、これまた人間ではなかった。
「そうね。私お粥が食べたい」
「作ってほしい?」
「ほしい!」
エリが聞いてマリが答えた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。三人称視点なので、少し読みにくかったかもしれません。もっと頑張って面白くします。