15.実家4
厄介なことになったものです。
いっそのこと私自身が『男爵』になろうかしら。
その方が後腐れがなさそう。
「オウエン様に下賜されたことは『王命』ですが、爵位のことはなにも命じられていません。なので私でも「男爵」は名乗れます」
「たしかに。陛下は結婚に対して『王命』を出したと言ったな?だが爵位のことは一言も言ってない」
「はい。宴の席で突然。大勢の前での発表でしたわ」
思い出すとまた腹が立ってきますわね。
どうして大勢の前で言うのか意味が分かりません。
まるで劇のような断罪と下賜。
なにかの茶番劇なのかと思うほど、壮大に行われました。
「結婚を無効にすることはできない。いや、できなくはないが……」
「つまり、王家の求心力が低下する問題に直面するという訳ですね」
「ああ、むこうは認めないだろうな」
「いっそのこと別居結婚で良いのでは?」
「シャーロットはそれでいいのか?」
「勿論。本人だけでなく伯爵家であの対応されたんですよ?私は伯爵邸で暮らしていく自信はありません。お飾りの妻にするにしても物置小屋のような部屋が伯爵家の次男の嫁の部屋というのは流石に……」
「まて、シャーロット。なんだそれは!?」
お兄様が驚愕の表情で言いました。
私はおかしなことを言ったかしら?
恋愛小説ではお約束の展開ですよ?
歴史を紐解いても、邪魔な王妃を隔離して住まわせた場所だって存在していますのに。
「事実、そうなってますよね?」
「それはそうだが、あれは伯爵家の次男だ!」
「だから何ですか?」
「こちらは侯爵家だ。伯爵家の人間が無碍にしていい訳ないだろう!」
お兄様の言葉に私は首を傾げます。
「既に無下にされてますわよ?」
「……そ、そうだったな」
お兄様は視線を逸らしながら呟きました。
現在進行形で無下にされているので、伯爵家に入ったらこれ以上のことが起こると予想されます。
「伯爵家でのご丁寧な対応も記録に残ってたら良かったんだがな」
「? ありますよ」
「なに!?あるのか!!」
私があっさり答えると、お兄様は身を乗り出してきました。
お、おお、ビックリしました。
「ありますけど……。見るんですか?」
「ああ、見せてくれ」
「わかりました。こちらになります」
私は胸元のブローチを取り外しました。
これもまた魔法道具の一種です。
記録を映像として残すことができるのです。
私はそれを起動させ、映像を再生します。
映し出されたのは、とある昨日のパーティー会場の映像です。
広いホールの中心で繰り広げられている光景を見て、お兄様の表情が険しくなりました。
そして、小さく呟くように言います。
「……これは酷いな」
更に場面は変わり、伯爵家での門前払いに、ホテルをたらいまわしにされているシーンが流れます。
「決定的な証拠だな」
お兄様は記録用の紙を取り出し、何かを書き込んでいく。
弁護士と相談されるためでしょうか?
「で、シャーロット。お前の望みを聞いておこう」
「あら、私は誠意ある対応をしていただければ結構ですわ」
「本音は?」
「多くは望んでいません」
お兄様は黙って私を見ています。そしてやれやれと肩を竦めました。
「分かった。お前の望み通りにしよう」
「よろしくお願い致します」
お兄様の事ですから望み以上の結果をだしてくださるでしょう。
それに、きっと私の真意を正確に理解してくださっている筈です。だってお兄様は聡すぎるんですもの。




