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魂の片割れかも?!

1日講座は昼休憩が1時間15分設けられている。


折角ならと僕たちは近くのカフェでランチをすることにした。


オフィス街にある商工会議所の近くの店は昼時はどこも混雑するが、そこを見越したプログラム構成だったから昼休憩は13時からとなっている。篠崎さんがこんな時のお薦めの場所があると言うので彼女に店の選択を任せることにした。


5分程歩いて公園の中に入っていく。小さな噴水がある広場の横にそのカフェはあった。


ダークブラウン調の木材を使用している内装で落ちついた雰囲気だ。中央に4人掛けのテーブルが3つ、その四方が3段ほどある木材の階段で高くなっている。


3段高い東西南北の席は2人掛けが3席づつ配置されていた。南と東に窓があり、ダークブラウン調の木材を使っているわりには店内が明るく感じられる。ランチ時を少し外しているからか南側の窓際の席が空いていて、そこに案内される。上下が3つに仕切られている窓の最上部が開けられていた。


腰かけてから窓外へ目を向けると小さな噴水のある広場の周りに植えられていた背の高い樹木が風でサワサワと音を立て、まるで森の中にいるような感覚に陥る。


「・・・・」


何とも言えない心地よさにぼんやりと窓外を眺めていると


「山吹さん、どうですか?このお店。森の中へ迷い込んだ様な気がしませんか?頭の中をスッキリさせたい時はこのお店に来るんです。どうですか?」


ニコニコと微笑み、瞳を輝かせながら僕の感想を待っている。


「そうだね。また、同じ事を感じていて・・・・森の中みたいだなと思った・・・・後は・・・・」


僕は入ってきた入口から店内を見回し


「そうだな、後はとても心地よく感じるのは・・・・」

「3の倍数だから!」


篠崎さんが僕が言わんとしていた事と同じ事を口走った。


「・・・・」


どうして、こうも同じ考え、同じ感覚になるのだろう。僕は篠崎さんの顔をまじまじと見つめた。


「ねっ、店内の何もかもが3の倍数なんです。だから心地よく感じる。認知や意思決定に影響を与える心理バイアス、3の法則ですよね。まんまと引っかかっている訳です」


嬉しそうに本当に嬉しそうに笑っている。そんな彼女の顏を見ているとこちらまで嬉しくなってくる。僕は誰かと一緒にいて、ここまでの心地よさを感じたことがなかったから、この何だかとても不思議な感覚を初めて味わう自分自身に戸惑いを覚えていた。



――― 僕は郊外にある工場に併設されている研究・開発室で製造業向けの産業ロボット開発チームに所属していて、彼女は商工会議所近くのオフィスビルに入るシステム開発部のSEシステムエンジニア兼、PGプログラマーだった。


RPAロボテック・プロセス・オートメーションオフィス内の事務処理や定型業務を自動化するソフトウェアロボットを顧客の業務プロセスに合わせて調整をするチームに所属していた。


「同じ会社とはいえ、会ったことがないはずだね」


僕らはプレートに盛られた鶏肉のソテーを頬張りながら改めてお互いの自己紹介と所属部署の話しをした。


「そうですよね。だから余計に感じませんか?この出逢いは運命ではないかって」


彼女は一口大にちぎったフランスパンを美味しそうに頬張りニコニコと微笑んでいる。


「数ある講座の選択も同じですし、山吹さんは運命とか魂の片割れとか信じますか?」

「どうだろう?・・・・」


いや、今までは信じていなかったと言えるだろう。でも、この出逢いは偶然が重なり過ぎていて、自分でも運命じゃないかと思ったほどだ。


あまりにも同じ考え、同じ感覚であり過ぎることが怪しまれやしないかと途端に不安になったから半信半疑だと答えることにした。


「うん、そうだね。運命的なものを全く感じないといったら嘘になるね。でも、同じ会社じゃなかったら産業スパイじゃないかと勘繰るかもしれないかな?」


「えっ!面白いですね!山吹さん、面白いです。ドラマみたいなこと考えるんですね。私、産業スパイって少し憧れます。あらゆることに精通しているってことでしょう?超優秀じゃないとなれないじゃないですか?」


僕はその返答に素直な子だなと思った。僕の所属部署は機密情報だらけだ。特許の関連もあるから製品化云々に関わらずとにかく情報管理が最優先事項と言える。


彼女もそのことは重々理解しているだろうが、知った風な事を言う訳でもなく、率直に今感じたままを素直に表現していたからだ。


僕は彼女の事をもっと知りたいと思った。


「そんな風に言ってもらえるとは思わなかったな。篠崎さんは入社何年目になるの?」


僕よりは年下に見えるが見た目だけでは解らない。年齢を聞くとセクハラになると思い、入社年を(たず)ねた。


「新卒で入社して今年で4年目です。来月で26歳になります。山吹さんは?管理職って感じがします」


「僕は今年で7年目になるかな。マネージャーではないけれど全体の調整役になるポジションを任されてる・・・・もうすぐ異動になるけどね・・・・」


そうだった。後2ヶ月もすれば異動になる。もう、彼女ともこうして会う事もなくなるのだと話ながら寂しい気持ちになった。


「えっ!?異動になるんですか?研究開発室って異動はないかと思っていました。実は私も2ヶ月後に異動になるんです。長野の新しく立ち上がるプロジェクトメンバーに加わることになって」


「・・・・えっ!・・・・えぇぇぇっ!!」


席も疎らになっているカフェに僕の声が響き渡った。


「わぁ、ビックリしました。山吹さん、どうされたんですか?そんなに大声・・・・えっ!もしかして、山吹さんの異動先ってっ!」


「そうなんだ!僕も長野に新設されるプロジェクトチームに異動になるんだよ。えっ!えっ!何だ、この偶然って・・・・」


僕は考え込む時、机に肘をつき左手人差し指を折り曲げて口唇にあてるクセがある。ふと彼女を見るとまるで鏡を見ている様に同じ体勢をしていた。机に肘をつき右手人差し指を折り曲げ口唇にあてて。


バチンッ!


お互いにその体勢で目が合った。


「・・・・」

「・・・・」


しばしそのまま無言で見つめ合う。


「ふっふふふ・・・・」

「うふふふ・・・・」


「はははは・・・・」

「ふふふふ・・・・」


「もう、我慢できないっ!わはっはっはっはっ!!!」

「私もっ!あはははははっ!!」


僕らはお互いの体勢まで交差しているのを確かめると大声で笑い合った。


「もう、これは・・・・あはははは・・・・確証じゃないですか?あはははは・・・・私たち魂の片割れですよ。きっと。宿命なのか?運命なのか?使命なのか?天命なのか?解りませんけど魂の片割れであることは間違いない気がします。あぁ、山吹さんに出逢えてよかったです」


彼女はお腹を抱えて笑い、眼尻に溜まった涙を拭った。


「僕も篠崎さんに出逢えてよかった。こんな偶然、まるで小説の様な話だね」


ドキッ・・・・


僕は笑いが止まらない彼女を屈託のない表情にドキリとした。彼女は尚も笑いながら嬉しそうに言う。


「事実は小説よりも奇なりですよ。あぁ、本当に驚き通り越して笑いが止まりません。人の感情ってだから面白い」

「そうだね。確かに」


僕と彼女はそれからしばらくの間、目を合わせる度にこみ上がる笑いを止められずにいた。

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