一句【転校生迷い猫鳴るリンリリン】
※一般的な小説のように、文章を読み進めることにより映像が脳内を通過していく感覚とは異なり、このお話はいわゆる【脚本】の書き方をベースにしております。
ですから、情景をイメージするには読み手様であるご自身が、脳内スタジオで舞台を構築し、カメラワーク等をこなす作業が必要となります。
簡単にいうと、読み手様はもれなくこのお話の脳内監督さんになって上映してくださいな。
誤解をおそれずに言うならば、今までの経験で、スマホで動画を撮り、要らない箇所をカットしたり動画編集した経験がおありでしたら、そうソレで十分にこの取っ付き難い物語を読み進める事が出来るはずです。
~主となる登場人物~
・松尾場賢・高校二年生・真っ赤なヘッドフォン男子
・松尾場静音・松尾場探偵事務所の現主・年齢と体重は聞くな・酒豪
・ナレーション(ナレ表記)・いわゆる天の声
・矢先蒼良・オンラインのクラスメイト
・戸国悦人・私服のクラスメイト・金髪・探偵に憧れ
・足立弘毅・制服のクラスメイト
・高島美理・制服のクラスメイト
・今井優羽・制服のクラスメイト
一句【転校生迷い猫鳴るリンリリン】
〇松尾場探偵事務所・自宅・賢の部屋(朝)
部屋には引っ越し業者の名前が入った段ボールが点在してある。
壁には真新しい制服が掛かっている。
部屋着の賢、頭をポリポリかきながら言う。
賢「……別に制服はいいって言ったのに」
そして、フッと笑う。
ナレーション(以下ナレと略)〔彼の名前は松尾場賢。このお話の主人公。一学期の途中だが、今日から転校生として新しい高校へ通うのだ。その学校は私服でも制服でも自由選択なので、彼はそう呟いたのである。ちなみに、ワタクシはナレーションとしてこのお話のサポートをさせていただきます故、何卒宜しくお願いいたします〕
〇松尾場探偵事務所・自宅・静音の部屋前(朝)
制服に着替えた賢、首に赤いヘッドフォンを掛け、リュックを背負っている。
静音の部屋の扉をノックして言う。
賢「静ネェー。ちょい早いけどさ……。俺、もう学校いくからねー?」
反応はない。
〇松尾場探偵事務所・自宅・静音の部屋(朝)
静音、空の一升瓶を抱いてベッドの上で寝ている。
彼女の部屋の丸テーブルの上には様々な空の酒瓶が何本も並んでいる。
ナレ〔ベッドで空瓶を抱いて寝ているのが賢の姉、松尾場静音である。こうみえて探偵業を営んでいる〕
〇松尾場探偵事務所・自宅・静音の部屋前(朝)
賢、小さな声で言う。
賢「制服。サンキュー……」
歩き出す賢。
〇松尾場探偵事務所・店舗前(朝)
店を背にして、サラリーマンや他の学生達の流れに乗って、歩いていく賢。
〇七牧市内・某所・アンダーパス
人と車の流れがほとんどない。
賢、アンダーパスの中程で立ち止まると壁に向かって手を合わせる。
そして再び歩き出す。
〇七牧高校・校門
賢、校舎を見上げ、他の疎らな生徒と共に入って行く。
〇七牧高校・2年3組教室内(午前)
賢、電子黒板の前に立って、教卓の上のパソコンに自分の名前をキーボード入力している。
電子黒板には【松尾場賢】と表示される。
傍の担任の木村、賢に言う。
木村「じゃあ、皆に軽い自己紹介でもしてもらおっかー」
賢、視線を教室内に向ける。
教室内には生徒の机は四十弱あるが、半数は居ない。
賢「今日からこの学校に通うことになりました松尾場賢です。えーっと……、この七牧市には小さい頃住んでいたんでんですが、家庭の事情で……。えーっと、よろしくお願いしますっ!」
と、頭を下げる賢。
ナレ〔小学生でももっとまともな自己紹介できるでしょうに……〕
私服と制服半々、計二十人程の生徒が疎らな拍手をする。
木村「じゃあ、あそこのタブレット端末置いてある奥の席が松尾場の席だから」
と、木村は奥の席を指さす。
賢「はい」
机の間を歩いて行って、リュックを机脇のフックに掛け、着席する賢。
木村、教卓に移動しつつ、自分の首周りを両手で前後させながら賢に言う。
木村「あ、それと松尾場、私服でも制服でも構わんがな、授業中はそのヘッドフォン?は、外そうな。それじゃあ出席を取るぞ~。オンライン組もチャットで送信するように」
前の席の金髪ピアスの私服の戸国悦人が話し掛けて来る。
悦人「よ!俺、戸国。よろしく!」
賢、戸惑い気味に答える。
賢「よ、よろしく」
悦人「あれか?制服着てるってことは学校来たい派なんか?」
賢、少し考えながら、
賢「……。どういう意味?」
と、尋ねる。
悦人「あ!すまん!そういう意味じゃねーんだ!気ぃ悪くしたらごめんな!」
賢「……?」
悦人「いやほら、オンラインでもココでも授業受けていい学校なんだ。自由に選べるのにってな。ましてや転校生だぞ?」
賢、真顔で悦人を見つめて答える。
賢「選んだ結果がこれだとしたら?」
悦人「お前、カッコイイな!よろしく!」
と、悦人が右手のグーを賢の机の上に差し出してくる。
迷いつつも拳を出し、グータッチで答える賢。
賢「お、おう……」
ナレ〔青春のグータッチである〕
木村、出席確認の途中で賢らの方を見て注意する。
木村「おい。そこの三人、もうちょっと静かになー」
三人、同時に返事する。
賢、悦人、ナレ『はい……』
〇七牧高校・2年3組教室内(午前)
賢と悦人、授業の合間に会話している。
悦人「え?マジ?じゃあ、賢の姉ちゃん探偵なんか?」
賢「うん。まあ……」
悦人「じゃあ、あれじゃん、犯人に目の前で銃撃されても避けられるヤツっ?」
賢「うん。避けられないね。酒は好きだけど」
ナレ〔何の会話だよ……〕
悦人「じゃあ、ほら、眠りながら推理出来たり?」
賢「うん。飲んだら眠るだけだけど?」
悦人「俺さ、めっちゃ探偵に憧れてんだよね!」
賢「そ、そうなんだ」
間。
賢「ところでさ、やっぱこの空いてる机ってオンライン組なんだ?」
と言って、教室内を見渡す賢。
悦人「ああ。そうだけど?でもまあ気が向いたらたまーに来る奴もいるぜ」
賢「そうなんだ」
と、隣の空き席を見つめる賢。
そこに突然、丸めた紙屑が飛んで来て賢の左足の近くにポトッと落ちる。
飛んできた方向に視線を向けると、窓側の並んだ席の制服を着た足立弘毅、高島美理、今井優羽がニヤニヤしている。
弘毅、賢に言う。
弘毅「あ!わりぃ!転校生。そのゴミ、そこの机の中に捨ててくんねぇかな?」
賢、一瞬迷った感じで、その紙屑を拾おうとすると、
悦人「やめろ。拾うな」
と、悦人が言う。
美理、面白そうに笑う。
美理「やっべ!うけるぅ!」
優羽、賢に言う。
優羽「松尾場くん、制服着てるんだし、私たちと仲良くしよ?言ってる意味分かる?」
賢、弘毅らと悦人、そして教室内を見渡すと、ゴミを拾って右後方のゴミ箱を見つけ、席を立ち捨てる。
弘毅「つまんねぇ奴かよ……」
と、弘毅、頭をかきながら窓の外を見る。
美理と優羽も不機嫌な顔で前を見ている。
賢、自分の椅子に手をかけ座りながら教室内を一瞬見て座る。
隣の席を見る。
よく見ると、机の中には菓子パンの空き袋や潰れたパック飲料等のゴミが沢山押し込まれている。
賢(ん?……)
と、賢の脳内で突然、強い音がする。
――ガシャンッ!
賢(――っ!何だ?この音……何かが割れる音?……)
悦人、隣の机を見つめる賢に言う。
悦人「賢?なんで拾ったんだよ?」
賢、悦人には顔を向けず尋ねる。
賢「ここで何か……例えば……ガラスか何かが割れたことあった?」
悦人、一瞬間があって、
悦人「……あった。けどなんでそれを知って――」
と、授業開始のチャイムが鳴る。
数学教師の神田先生が入って来る。
号令係の早田寧々(ハヤタネネ)が、
寧々「起立!」
と、声を出した。
〇松尾場探偵事務所・店舗(午後)
ヘッドフォンを首にした賢と悦人が正面のドアから事務所に入って来る。
スーツ姿の静音がスマホで通話中である。
静音「はい。はい……。承知しております。はい。はい……。必ず見つけて参りますので、もう少しだけお時間を……。はい。はい……。失礼します……」
スマホを置いて、溜息一つの静音、流れる様な動きでデスク右の引き出しから小さなウイスキー瓶を取り出し、キャップに指を掛ける。
が、賢がその手を上から軽く押さえて首を振る。
賢「……」
静音、恨めしそうに賢の顔を見て、言う。
静音「冗談だよ冗談。こんな時間から飲むわけ……」
賢「あるわ!」
ナレ〔正午の時報が乾杯の合図だと思って生きてますからね。静音〕
静音、何事もなかったようにウイスキーを引き出しに戻すと、悦人を見て驚いて言う。
静音「んおっ?もしかして転校初日からお友達のお持ち帰りっ?」
賢、悦人の隣に行く。
賢「……いや、なんつーか、悦人がどうしても探偵事務所を見てみたいって言うから……」
静音、椅子の背もたれにだらけながら、愚痴る。
静音「お前はいいよなぁ~。男連れ込んで遊べてよぉ~」
賢、語気を強めて答える。
賢「聞く人が聞いたら勘違いされるような言い方すんな」
悦人、静音を見ながら言う。
悦人「すげえ!賢のお姉さん、本当に探偵さんなんですね!カッコイイ!」
静音、椅子にふんぞり返りながら悦人に言う。
静音「まあね。キミ?もしかして探偵の仕事とかに興味あるとか?」
悦人「はい!」
と、即答。
静音「いいねぇ!どっかの誰かさんとは感性が違って!」
賢「隠しきれない暗喩はやめろ……」
静音、二人を見て言う。
静音「あ……!男子高校生って言ったらさ、腐るほど体力が有り余ってるでしょ?ね?」
賢、悦人『……はい?』
〇七牧市内・某住宅街(午後~夕)
賢とリュックを背負った悦人が歩いて来る。
悦人、辺りを見渡す。
賢、スマホの地図アプリを見る。
賢「この辺りか……」
地図アプリ上に、賢と悦人を示す薄い赤と薄い青の二人の位置マークが並んで表示されている。
悦人もスマホで同じ地図アプリ見る。
賢「じゃあ、静ネェの指示通り、地図アプリ起動したまま怪しい所を塗りつぶす感じで歩いてみるか」
悦人「探偵って本当にこういう仕事もするもんなんだな……。猫探しだなんて」
賢「わりとあるぞ。ご高齢依頼者が大半でな」
悦人「へぇー」
賢、スマホを取り出して動画を再生する。
賢「もう一度、この手掛かりの動画見て特徴把握しておこう」
悦人も自分のスマホで動画を見る。
ナレ〔依頼主から預かった動画である。長い白毛に覆われたペルシャ猫が首に小さな鈴をつけており、猫の動きに合わせて微かにリンリンリンと規則正のある音がしている。最後には依頼主かつ飼い主の女性の「ペロちゃん可愛いねぇ~」の声が聞こえて動画は終わっている〕
賢、ポケットから写真を取り出して、
賢「聞き込み様にはプリントアウトしたこの写真でな」
と、悦人に言う。
悦人「分かった。なんだか緊張してきたぜ!」
と、二人の横を軍手をした中年男性が自転車でゆっくりと通り過ぎて行く。
それをジッと目で追う賢。
悦人「賢……?」
賢「あ?うん。じゃあこっから東西に二手に分かれて動こうか。十八時に設定したアラームが鳴ったらそこまでにして……、そうだなあそこのコンビニで落ち合おう」
と、目の前のコンビニを指さす賢。
ナレ〔ではでは。こっからの聞き込みとか捜索しているシーンにBGMとか流しましょうか?私の歌で〕
賢「……そういうの間に合ってるんで」
○七牧市内・某住宅街・東側(午後~夕)
賢、立ち話をしているおじさん二人に猫の写真を見せて尋ねている。
○七牧市内・某住宅街・西側(午後~夕)
悦人、商店の裏側に数匹いる猫を覗き込んだりしている。
○七牧市内・某住宅街・東側(午後~夕)
賢、公園の遊具の上にいる三毛猫を撫でながらため息。
○七牧市内・某住宅街・西側(午後~夕)
悦人、廃工場の門扉の上にいる黒猫を見上げて肩を落とす。
○七牧市内・某住宅街・東側(夕)
賢、自転車の後ろに男の子を乗せたヘルメットをした母親に写真を見せて尋ねている。
母親、ヘルメットを少し指で押し上げて答える。
母親「この猫……。あー!そういえば先週この時間帯だわ。この子を乗せた帰り道、この先の自販機前で急に飛び出して来て急ブレーキしたのよ!綺麗な猫だったから間違いないと思うわ」
自転車の後ろに乗ったヘルメットの男の子が言う。
男の子「かわいい猫ちゃん!」
賢、スマホの地図アプリを見せながら、
賢「詳しい場所教えて貰っていいですか?」
○七牧市内・某住宅街・東側・依頼者自宅近く(夕)
賢、自販機の前に来る。
少し視線をあげると依頼者の豪邸の煙突の先が少しだけ見える。
賢(静ネェと依頼者さんは散々自宅周辺を探したと言ってはいたが……)
賢、自販機の横に寄ると、ヘッドフォンをして静かに目を閉じる。
ナレ〔賢はヘッドフォンを周囲の雑音カットのイヤーマフ代わりにする。そして、場に染み付いた音、残音を拾うための意識を集中させるトリガーにしているのである〕
――様々な生活音、通行する人の声、バイクの音、自販機の缶が落ちてくる音、その周りでの話し声が混ざってノイズとなって聞こえて脳内に聞こえてくる。
と、そのノイズ音が段々と小さくなって、フォーカスが合う様に自転車のブレーキ音と混ざって、鈴の音が微かに聞こえてくる。
――リンリリンリン……
賢(キャッチした。この鈴の音……)
――リンリリンリンリリンリンリリンリッ
――ギーッ!
賢(聞こえる……。これがその自転車のブレーキ音か?)
――リンリリンリンリリンリンリリンリッ
――ギーッ!
賢(……しかしなんだ?動画音声の鈴の音とはリズムが違う……?親子が見たというのは別の猫?いや、特徴のある猫を見間違うだろうか?……もう一度集中――)
――リンリリンリンリリンリンリリンリッ
――母「わっ!」
――ギーッ!
――男の子「わー猫ちゃんだ。とびだしてきちゃだめなんだよー」
賢(猫の飛び出しに驚いたの親子の感情が残音となって染み付いたか。いや、逆に猫自身の感情?……)
ナレ〔場に残音として強く染み付き長く残るか否かは、その当時の感情が大きな要因となる〕
と、賢の右くるぶしの辺りで違和感がする。
賢「ん?」
目を開けて、ヘッドフォンをはずして足下を見ると、片耳の先端が少し欠けた茶トラの猫がすり寄っていた。
賢「なーんだ。お前も野良かい?」
と、しゃがんでその猫を撫でる賢。
賢(片耳の先端が欠けて……地域猫?)
すると、賢のスマホのアラームが鳴る。
猫は小走りでどこかへ去っていく。
賢「今日はここまでかな」
○七牧市内・某住宅街・コンビニ前(夕)
賢と悦人が店外で缶ジュースを飲んでいる。
悦人「まあそりゃドラマや漫画みたくすぐ見つかるなら世話ないってかぁ。あ、あとさ、俺ら以外にも猫探ししてるっていう小学生グループにあってな。逆にチラシ貰って来たぜ」
賢、そのチラシを受け取る。
斜め上を見上げたアメリカンショートヘアの猫の画像が添えられている。
賢「……どうやらこの地域は野良猫ないし地域猫が沢山いるのかもしれない。すなわちその中で探さないといけない。静ネェが俺たちに仕事を投げるわけだ」
悦人「明日も探すぜっ!俺の行った方向、廃工場もあったしまだ全然見れてない所もあるし。明日はそこいらを重点的に攻めるぜ!」
賢「……ああ、そうだな。静ネェにはマップの歩いた結果を見てもらうとして――」
と、二人の前を先程見た自転車の中年男性が通り過ぎて、自転車をコンビニ前に駐輪し店へと入って行く。
その両手は軍手をしていない。
見つめる賢。
悦人、飲み終わった缶ジュースをゴミ箱に捨てる。
悦人「じゃあ、俺、こっから帰るわ」
賢、悦人に振り向いて答える。
賢「あ、ああ。今日はありがとう。なんて言っていいか」
悦人「転校生って神経使うだろ?俺も昔そうだったぜ。じゃあまた明日な!今日の宿題、めんどくせぇぞ~」
と、笑う悦人。
賢「うっわ!俺も帰ってやるか」
〇松尾場探偵事務所・自宅・ダイニングキッチン(夜)
賢、食卓で静音と向かい合って晩飯を食べている。
部屋着の静音、フライパンごと置かれた回鍋肉を食べつつ、ジョッキでビールをあおる。
静音「ぷはーっ」
賢「ぷはーっ。は、いいんだけどさ……。さっきの話、ちゃんと分かってる静ネェ?」
静音「あー。風呂入りながら考えたさ。好きにしなよ」
箸を置く賢。
賢「おい、まさかの投げっぱなしじゃないよな?」
静音、缶ビールをジョッキに注ぎ切り、空になった空き缶を恨めしそうに覗きながら言う。
静音「あんたの勘はよく当たる。それは私も知ってる。だからそうしろって言ってるわけよ」
ナレ〔この姉、残念探偵過ぎる……〕
静音「あ?」
と、イラッとした顔で静音は上を見上げた。
賢、何事もなかった様に会話を続ける。
賢「でも一人は一人の足でしかないからさ。静音も手伝ってよ」
静音、ビールを一口飲んで答える。
静音「明日は夜からお医者様との合コン」
賢「……昼間は?」
静音「別件の相談が二件入ってる」
椅子の上で崩れる賢。
賢「うっわ!俺積んだわ……」
ナレ〔本当なら賢もその投げっぱなしも出来なくはないのですが今は静音に養ってもらっているという恩義がそうさせているのかもしれませんねぇ〕
〇松尾場探偵事務所・自宅・賢の部屋(夜)
引っ越しの段ボールに囲まれた部屋着の賢。
小さなテーブルの上で、学校から持ち帰ったタブレット端末で宿題をしている。
突然、画面の右端にクラス内チャットのウインドウが開き、矢先蒼良からチャットが届いている。
蒼良【このチャットが見えるなら返信して】
賢「ん?……」
賢、宿題の手を止めて、チャットに返信をする。
賢【全然余裕で見えてますけど?】
蒼良【ログの残らない裏ツール使ってるから】
賢【裏ツール?】
蒼良【私隣の席】
賢【え?隣の席?】
蒼良【放課後私の机の中身捨てたでしょ】
賢【え?】
賢(見られていた?)
〇回想(教室内カメラ目線)・七牧高校・2年3組教室内(放課後)
悦人が教室を出て、賢以外誰も居ない教室。
賢がゴミ箱を急いで持ってくると、隣の蒼良の机の中のゴミを捨てている。
ナレ〔全教室内にはオンライン組の為にも多角度からみられるように複数のカメラが設置されている〕
〇松尾場探偵事務所・自宅・賢の部屋(夜)
蒼良【余計な事しないで】
賢【見てたの?】
蒼良【やってること火種を消そうとしてまき散らしてる】
賢【ごめん。でも、あれは捨てなきゃ全部ゴミだったよ】
蒼良【もういいそういうことだから二度としないで】
賢、返信する言葉を悩んで指が止まる。
間。
蒼良【あのさ松尾場ってさ】
賢【うん?】
蒼良【いやいい】
消えるチャットウインドウ。
賢、急いでチャットウインドウを開くがログが何も残っていない。
〇矢先宅・蒼良の部屋(夜)
自分の部屋の机でタブレット端末を見つめている蒼良の背中。
蒼良「松尾場……」
机の端っこの少し褪せた写真を見る。
赤い耳当てをした男の子と、少しだけ背の大きいショートカットの女の子が並んで映っている。
ナレ〔まるで男の子のようなこの女の子が……。まあこの話はまたの機会にでも〕
~第1話・終わり~