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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

暖炉

作者: 壱原 一

リモートワークへの転職を機に憧れの田舎へ越した。借りた古家は山小屋風のワンルームで、広い空間がリビングやキッチン、ベッドルームを兼ねている。


最も魅力的なのは作り付けの暖炉。石積みの無骨な佇まいが素朴な屋内に良く似合う。時季がら出番は少し先だが、寒くなったら揺らめく火影と木の香りのなか暖かく過ごすのだ。


朝目覚めるたび幸せな気持ち。オンラインミーティングでは、自分のビデオ画像の背景に室内と暖炉が映り、内心で悦に浸って業務が捗るのだった。


*


いよいよ寒さが深まる頃、休日に心を躍らせて暖炉の試し焚きに挑むと、間も無く屋根から異音がする。


ずず、ずうう、ずっ…ずっ…


煙突がある辺りから、割と大きな面積の物がずり落ちている音だ。


怪訝に眉を顰めるうちに音が外の壁際へどさっと落ちる。見に行くと大量の落ち葉が山になっていた。


念のため見上げた屋根に不審はない。突き出した煙突からのんびり煙が棚引いている。


立ち昇る暖気に吹かれた落ち葉が屋根から滑り落ちたのだろう。


合点して屋内へ戻り、ホットワインと洒落込む。少し飲み過ぎたのか宵の口までうたた寝して、暖炉から煙突への暗がりがぼそぼそ喋る夢を見た。


起きると暖炉の火は消えている。外で煙突が風に吹かれ、ひょうひょうと鳴る微かな音が漏れ入って聞こえる。


この音の所為で変な夢を見たな。


苦笑して暖炉生活を始める。


恒例の夢になった。


*


暖炉を解禁して最初のオンラインミーティングは上司と2人。羨ましがられて嬉しくなり調子よくアジェンダを消化する。


中盤へ差し掛かった頃、突如上司が自分を呼び、呼ぶと言うより名前を叫び、それも非常に切迫したつんざき声を轟かせる。


何事かとビデオ画像を見るや、上司は蒼白で胸を押さえ、デスクに倒れ込む所だった。


上司も在宅リモートで住所を知らない。慌てて上司に呼び掛けつつ総務部へチャットし、ビデオ画像を窺う。


自分のデスクの縁に人の頭頂部が見える。


え?


ぴょんと跳び出したのは、目を剥いた成人の顔だった。そのまま画面へ迫ってきて、目を剥いた硬い表情で、ぼそぼそと喋ってくる。


暖炉の夢と同じ声だ。


無論、現実には何も居ない。頭が真っ白になって、取り敢えずスクリーンショットを撮る。


救急車を呼びましたと返信を読む間に失せていて、上司が搬送されたあと呆然と検めてみたものの、画像には映り込んでいない。


ずず、ずっ、と音がして、はっと背後を振り返る。


暖炉の火は消えている。



終.

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