父、娘の名を知る
代替わりした国王は引き続きアーネストを重用した。先代の弟である彼は次期国になるであろう息子が成長するまでのつなぎだと周りはおろか本人ですらそう思っていた。だから彼は積極的に改革には関わろうとしなかった。アーネストにすべてを任せていた。
高い理想を掲げその理想を追求したアーネストに対して厳しすぎると批判の声が挙がり始める。
その批判に屈するように彼は改革の手を緩め始める。もうこのあたりが潮どきかなと思い始め身を引くことを決断する。
しかし理想にもえ彼のもとで任務にあたっていた若手は慰留する。まだやることはある。手を緩めてはならないと。
彼は危機感を感じた。そして部下を諭す。
「水清ければ魚棲まず」と。
やりすぎは良くないと。しかし部下たちは聞き入れない。そうしているうちに月日は過ぎていく。
「いつ以来だろうか。こうして家に帰ってくるのは」
アーネストは疲れた表情で帰ってきた。
「ただいま、今帰ったよ」
そう告げるとアーネストのを視界に一人の少女が映った。
「はじめまして、叔父様はどなたでしょうか?」
我が娘にそう言われてアーネストは深い衝撃を受けた。そして考える。
「そういえば生まれてすぐに顔を合わせて以来かもしれない。この子は物心ついてから父親に会うのは始めてかもしれない」
不思議そうな顔をしてアーネストを見つめるその少女を見て彼は不意に涙を流した。
「なんてことだ。我が娘は父の顔を今日始めて知ったというのか」
悲しみと悔しさが一気にこみ上げてきた彼はその場から動けなくなってしまった。
その状況を見て彼女は驚いて叫ぶ。
「叔父様、どうしたんですか?」
彼が父親であることを知らない彼女のその叫びによってようやく母親が現れる。
「どうしましたか? クローナ」
その一言によってアーネストは自分の娘がクローネという名前であることを知るのだった。
「どうしたらいいのでしょうか?」
うろたえるクローナに対し母親は娘のこんな姿でさえかわいいと思いながらも
「この人があなたの父親ですよ。後できちんと挨拶しましょうね。とりあえず今は私にまかせて」
そう言ってクローネを下がらせる。
失意のアーネストを連れ立って自室に入った母親はアーネストに
「どうですか? 我が娘にあなた誰、なんて言われたのですよ」
なんて問いかける。
アーネストは答えない。いや、答えられない。今まで家庭を置き去りにして仕事に明け暮れた結果がこれである。このときを境にしてアーネストにある変化が生まれることになる。
実はこの母親、こうなることを期待してあえてクローナにああ言わせたのである。この夫が家庭をかえりみないことは最初からわかっていたこと、しかし彼女はそういう夫を変えようとしてこんな手段に打ってでた。そしてその試みは成功した。




