4.カイル視点
今回はカイル視点です。
「あのかわいい子から差し入れもらった」
嬉しそうに若い部下が仲間に報告している。
「この間は俺に渡してくれたのに」
少年とまだ呼べる程の年若い部下は悔しそうに言う。
「それにしても、彼女のお目当ては誰なんだろうな。もう何回も差し入れ持って来てるんだから、誰かを見に来てるはずだろ」
わいわいとやっている部下たちを、カイルは微笑ましい気持ちで見ていた。
自分にもあんな頃があったなと懐かしい気持ちでいると
「あいつらはいつも賑やかだな」
騎士団長のバルトがやって来た。
「かわいい女の子に差し入れをもらったらしいですよ。その彼女のお目当てが誰かって騒いでるようですね」
「差し入れをもらったやつじゃないのか?」
バルトは不思議そうにしている。
「それが毎回、違う奴が貰ってるみたいで」
「それは、色んな奴に粉をかけてるってことか」
不快そうなバルトにカイルは笑って否定した。
「いや、みんなで食べて下さいと言って、渡したらすぐに帰って行くらしいから、アプローチしている感じでもないですね」
「他人事みたいに言ってるが、お前目当てかもしれないぞ」
バルトは自分でもあまり信じてないようなことを言ってくる。
「いくらなんでもそれはないです。あいつらが騒いでるような年若い女の子が俺なんかを好きになるわけないだろうし、そんな自惚れたこと考えたこともないですよ」
カイルはあり得ない話に苦笑いした。
カイルは27歳で、そこまで適齢期を越しているわけではないが、多くの者が20歳前後で、大体が25歳くらいには結婚している中では少し乗り遅れてしまっていた。
大柄で目つきが鋭いため、怖いと言われて若い頃からあまりモテたこともない。
十代の内は強くなる為に鍛錬に明け暮れていたし、ある程度強くなったら、王太子殿下の護衛に任命されて張り切っていて、結婚なんて考えてなかった。
親はせっせと縁談を持って来ていたが、俺があまりにもつれなく断るのでいつの間にか諦めたのか、年をとっていい話がこなくなったのか、何も言ってこなくなった。
そう言えば、王太子殿下の護衛に着いていた時は大変だった。
殿下と婚約者のシンシア様は仲睦まじい間柄だったのだが、妙な男爵令嬢が現れて二人の仲を裂こうと何かと絡んでくるので、何とか近づけないようにするのに苦労した。
王立学園に通っている時だったから、学生同士の関係に割り込むことになるのを躊躇っていたら、高位貴族の子息たちと懇意になって手がつけられなくなったのだ。
結局、随分男爵令嬢に貢いでいたらしく、公爵や侯爵たちが息子を誑かされたと大騒ぎになって、男爵令嬢は退学処分となった。
殿下たちが良好な関係だったからよかったものの、そうじゃなかったら殿下も誑かされていたかもしれない。
そう危惧するくらい男爵令嬢はあっさりと子息たちを籠絡していた。
いくら姿が可憐で愛らしくてもあんな中身が阿婆擦れでは最悪だ。
あんなのを間近で見てたら、夢も希望もない。
公開練習の後、通路を歩いていると珍しく女性がそこにいた。
近くまで行くと、可愛らしい令嬢が目の前に現れ、挨拶をしてきた。
自分のことを知っていることに驚いてよく見ると、その面影に見覚えがあった。
王太子妃となったシンシア様の妹のリリアンナ嬢だった。
俺が王太子の護衛をしてた時、わざわざ近くまでやって来て恥ずかしそうに挨拶をしてくれていた女の子だ。
あの当時から可愛らしい女の子だったが、久しぶりに見た彼女は花開くように綺麗な女性に成長していた。
「リリアンナ嬢ですか。お綺麗になられましたね」
思わず言った言葉だったが、何故かお世辞だと思われてしまったようだ。
「皆様でお召し上がり下さい」
と差し出されたバスケットを見て、これはもしや若い部下たちが騒いでいた差し入れなのかと思いつつ受け取った。
彼女はすぐに去って行ったが、煩わしい部下たちが残っている。
「副団長、彼女と知り合いなんですか」
勢い込んで詰め寄ってくる。
「あぁ、シンシア様の妹君だ」
カイルはあの可愛らしかった少女に群がる狼たちに、お前には高嶺の花だと無意識に牽制した。
こんなガサツで欲望ダダ漏れの男共を近づけてはいけない。
カイルは煩い部下たちを振り切り、執務室に戻って行った。